岸田さんはブレイクしたのか

菅首相の「二階切り」には驚いたがそれだけではない。この人事のスゴイところは、永田町では「おとなしい」と見られていた岸田前政調会長の一言が「強面」の二階幹事長を交代に追い込んだことなのだ。岸田の二階おろし、である。

8/26(木)に岸田氏は出馬表明した。世間の反応は、良くて「また出るの?」。悪ければ「岸田って誰?」という程度である。だが岸田氏は二階氏にケンカを売った。自民党の役員任期を「1期1年で連続3期までにする」との公約を発表したのだ。

「岸田の二階おろし」
「岸田の二階おろし」
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岸田さんやるな、と驚いていたのだが、8/30(月)の日経新聞を読んでもっと驚いた。岸田氏の支持率がグッと上がっていたのだ。「次の自民党総裁にふさわしい人」という設問に対し河野太郎(16%)、石破茂(16%)に次いで13%で堂々の3位。菅首相は11%で4位。しかも自民党支持層に限ると①菅(20%)②河野(18%)③岸田(14%)④石破(12%)となっている。

岸田氏は政治家や官僚の間では評価は高いが、国民人気という意味ではイマイチだった。はっきり言って泡沫候補だったのだ。それが初めて世論調査で人気者の石破、河野や実力者の菅に並んだのだ。岸田氏はついにブレイクしたのだろうか?

ちなみにあまり話題になってないが菅氏も支持率が上がってきている。いざ総裁選をやるとなると自民支持者の菅支持は結構多いということだ。この数字だけだと「菅が岸田をリード。河野が出ればわからなくなるが石破は出ても伸びない」と読める。

菅おろしでなく二階おろしだった

そして同じ日にもう一つ驚いた。菅首相は二階幹事長に交代を要請し、二階氏はどうやらそれを受け入れたようなのだ。翌8/31(火)の新聞各紙に「二階氏交代」という見出しが躍るのを見て「自民党ってすごいな」と思った。

実は二階氏は「引き際」を探っていたフシがあるので、おろしたのではなく背中を押しただけなのかもしれない。二階氏の処遇は本人含め引くに引けず、クビも切れず、で身動き取れなくなくなっていたのだ。

二階氏の処遇を巡り身動きがとれなくなっていた
二階氏の処遇を巡り身動きがとれなくなっていた

一連の動きの最中に挨拶に行った岸田氏に対して安倍、麻生の両氏が「会見評判いいよ」とか「頑張れ」と前回総裁選に比べて妙に優しかったのは、もちろん菅氏との両にらみということもあるが、むしろ二階おろし(背中押し?)をしてくれたことに対するお礼であり、たとえ菅再選でも、将来的には河野太郎の前に岸田総裁もありうる、というメッセージだろう。

2人は現時点ではまだ菅支持だ。

安倍氏、麻生氏、二人とも現時点では「菅氏支持」
安倍氏、麻生氏、二人とも現時点では「菅氏支持」

8/31(火)の日経平均は値を戻した。つまりこの一連の政治の動きに市場が安堵したということなのかもしれない。市場の読みは菅再選、自民は衆院選で議席を減らすが過半数はかろうじて確保ということなのだろう。

石破幹事長は悪手か?

「岸田人気」を危惧したのか、菅首相は先に解散総選挙を行って、総裁選を先送りすることも検討したようだが、9/1の会見でこれを否定した。このまま解散せずに総裁選中に閣議決定して10/17に投開票する「任期満了選挙」が有力視されている。

焦点の後任幹事長だが、岸田氏を嫌いな菅氏が石破氏を充てるという説があるが、石破氏を嫌いな安倍、麻生両氏が岸田氏に急接近する危険性があり悪手だ。河野氏の方がまだ可能性はあるし、選挙にも好都合だが本人が向いているか、という問題もある。茂木外相、加藤官房長官、萩生田文科相と他にもできそうな人はいるが、甘利税調会長が一番すわりがよさそうな気がする。

石破“幹事長”は「悪手」か
石破“幹事長”は「悪手」か

政局の行方は混とんとしている。総裁選で菅氏が岸田氏に辛勝、衆院選もかろうじて単独過半数、というパターンが可能性が一番高い。その場合岸田氏は「次の首相」という「称号」を手に入れるが、菅氏には干されるだろう。岸田氏が勝つ場合は安倍、麻生連合が寝返る、という意味なので、菅氏が党を割るということにはならないのだろうか。菅氏にはそういう怖いところがある。

【執筆:フジテレビ 解説委員 平井文夫】

平井文夫
平井文夫

言わねばならぬことを言う。神は細部に宿る。
フジテレビ客員解説委員。1959年長崎市生まれ。82年フジテレビ入社。ワシントン特派員、編集長、政治部長、専任局長、「新報道2001」キャスター等を経て報道局上席解説委員に。2024年8月に退社。