沖縄の戦後問題を多くの人に知ってもらいたい

優れた小説に送られる賞を幾度と受賞した、歴史小説家の伊東潤さん。アメリカの統治下に置かれた戦後の沖縄を舞台にした作品を2021年7月に発表した。

実在の人物も登場する物語には、伊東さんの強い思いが込められている。

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伊東潤さん:
沖縄の戦後問題を本土の人たちは注目してこなかった。小説を通して少しでも問題意識をもってもらい、100人に1人でも参考文献を読んでもらい、沖縄の戦後を知ってもらえれば、私の役割が果たせる第一歩と思います。

伊東潤さんはこれまで戦国時代を中心に歴史小説を世に送り出し、数々の賞を受賞。大衆小説の殿堂・直木賞にも幾度もノミネートされ、本土復帰前の沖縄を題材にした作品を手がけた。

タイトルは『琉球警察』。琉球警察とは、アメリカ民政府USCARが、本島や離島で運営されていた群島警察を一元化した組織だ。

琉球警察に所属する1人の警察官の苦悩や葛藤を描く

アメリカ統治下の沖縄で治安維持の任務に当たったが、実質的にはUSCARの指揮に置かれ、その圧政に抗う人々と対峙してきた。小説では、琉球警察の1人の警察官の生き様を描いている。

「つまり私は沖縄での反政府活動の動きをチェックする役割を担わされるわけですか、自分たちはUSCARの走狗にすぎない」(小説『琉球警察』より)

伊東潤さん:
沖縄の役に立ちたいと警察官を志望して、沖縄の治安維持を志としてやっていこうとするが、偶然が重なって「公安」になってしまう

苛烈な地上戦に巻き込まれ、何もかもを失った沖縄。軍事優先の異民族統治で戦後も苦しめられ続けた。

「沖縄に住む人々が安心して過ごせる日常だけでもせめて取り戻したかった。僕はかつての沖縄を取り戻したいんです」(小説『琉球警察』より)

伊東潤さん:
「沖縄をいつか取り戻したい」そのためにはどうしたらいいのかということを、主人公は強く思っていた。公安になってしまうと、沖縄を取り戻すための運動をしている人、自分が求めていた”救世主”を逆に追い込まなければいけない立場になってしまう。この物語の肝は、そういった矛盾にどう折り合いをつけていくか、そういう葛藤や苦悩を描きたかった

米軍の圧力や権力に屈せず「不屈の男」と呼ばれた瀬長亀次郎

物語で”救世主”とされたのは、アメリカ軍による土地の強制接収に抵抗した「島ぐるみ闘争」を牽引した瀬長亀次郎。

USCARの圧政に苦しむ沖縄の人々を鼓舞し、近年も映画やドキュメンタリーに舞台など、その偉業が取り上げられている。

津嘉山正種さん(ひとり語り「瀬長亀次郎物語」より):
この瀬長1人が叫んだならば、50メートル先までは聞こえます。沖縄80万人民が声を揃えて叫んだならば、太平洋の荒波を越えてワシントン政府を動かすことができます

津嘉山正種さん
津嘉山正種さん

亀次郎が率いる沖縄人民党の台頭に、反米感情の高まりを警戒したUSCAR。琉球警察にその動向を監視させた。

「瀬長は沖縄を取り戻すために賢明なだけではないのか。粛々と職務をこなす冷徹な自分の中に、次第に瀬長に傾倒していく熱い自分がいるのを自覚していた」(小説『琉球警察』より)

内村千尋さん(瀬長亀次郎の次女):
殺されると思っていた。何度も殺されそうな場面があった。だけど周囲が亀次郎を守っていた

伊東潤さん:
本当に米軍は、亀次郎を恐れていたんですね

瀬長亀次郎の軌跡を伝える資料館「不屈館」にて
瀬長亀次郎の軌跡を伝える資料館「不屈館」にて

アメリカに危険人物とみなされ弾圧を受けながらも、権力や圧力に屈しなかった亀次郎は「不屈の男」と呼ばれるようになった。

伊東潤さん:
非常に個性的でユーモアがある人でいながら、非常に厳しい態度で米軍に臨んでいったある意味、素晴らしい”沖縄の父”と呼べるような人がいるんだなと思った。広く伝えるためには”エンタメ小説”として面白いという作品を書いた上で、亀次郎さんをクローズアップして実績をストーリーに組み込む手法を取った。書いている間は亀次郎さんを身近に感じたし、初めて不屈館に来て亀次郎さんの実績がまとまって見ることができて、感慨無量です

「本土に住む連中は沖縄の苦しみを理解していない。沖縄を生贄に差し出し、それで戦争を忘れ去ろうとしているんだ」(小説『琉球警察』より)

今なお残る米軍基地 沖縄を“取り戻す”ために…

小説の舞台となったアメリカ統治も終わり、本土復帰から50年が経とうとしているが、今なお沖縄には広大なアメリカ軍基地が残り、国防の名のもとに翻弄され続けている。

普天間基地(沖縄・宜野湾市)
普天間基地(沖縄・宜野湾市)

伊東潤さん:
「臭いものには蓋をしろ」ではないですけど、生贄に捧げたのだからとことん生贄になってもらうしかないという印象を抱く。「普天間から辺野古に移設される」という程度でしか考えていなかったが、未だ日本政府が沖縄を売り渡すようなことをしているのを現地に来て実感しました

「沖縄をと・り・も・ど・してくれ」(小説『琉球警察』より)

戦中戦後と苦難を強いられてきた沖縄の歴史を多くの人々に知ってほしい。これまで様々なテーマで社会に切り込んだ小説家としての矜持がある。

伊東潤さん:
小説家として戦国時代を中心に書いてきて、幕末・明治維新も書いたが、戦後社会とか歴史上の大きな問題を「告発していく」ということをライフワークにしたい。今のまま「沖縄に基地があって日本が守られている、それでいいじゃない」と感じている人も多いと思うが、沖縄の戦後を知ってもらえれば、少しずつ”沖縄を取り戻していく”ことができるのではないか

(沖縄テレビ)

沖縄テレビ
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