新型コロナウイルスは人々の働き方を変えたが、感染拡大でこの変化も長期化してきた。こうした影響で、新入社員が不安を抱えているという。

人材育成支援事業を行う「日本能率協会マネジメントセンター」(JMAM)は、2016年から毎年、新入社員とその育成に関わる上司・先輩にアンケート調査を実施。

ここでは新入社員が不安に思うことを複数回答で聞いており、「生活のリズムがつかめない」は2年連続で1位となったが、不安の傾向もさまざまだ。例えば、2019年は「自分の殻を破れず、職場になじめない」(22.9%)「この会社で自分が成長していけるのかどうか」(22.3%)なども上位となった。

これが2020年になると「上司・先輩と良い関係が築けない」(27.1%)「何が分からないかが分からない」(19.4%)「パソコンやITのスキルがない」(19%)などがランクインしていた。

2019年と2020年で新入社員の不安も変わっている
2019年と2020年で新入社員の不安も変わっている
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悩んでいるのは新入社員だけではない。2020年の調査では、新入社員の指導担当者(808人)にコロナ禍の影響を聞いていて、61.6%が「新人が配属後職場になじめるか不安である」、65.6%が「緊急事態宣言中、新人・若手に指導がしにくくなった」と答えていた。

コロナの影響もあってか、新入社員も指導者側も悩んでいることが分かる調査だが、背景には何があるのだろう。上司や先輩はどう支えればいいのだろうか。JMAMのカスタマーリレーション部部長・斎木輝之氏に聞いた。

新入社員はストレスや孤独を抱えている

ーーコロナ禍以降(2020年以降)の新入社員にはどんな傾向がみられる?

調査結果から、2020年入社以降の新入社員の変化をまとめたところ、テレワークの環境をありがたいと思いつつ、出社時の方が仕事のしやすさはあると感じていること。コミュニケーションがうまく取れないストレスで、孤独感が増している傾向などがみられました。

その反面、テレワーク等で時間を有効活用する意識や行動の高まりなど、ポジティブな面もみられました。今の会社の事業を通じて成長したい、土台を築きたい傾向もありました。

最近の新入社員の主な傾向
最近の新入社員の主な傾向

こうした点から、イマドキの新人・若手社員は「自分らしさを大切にしつつ無理なく、無駄なく成長したい」意思を持っている。仕事により過ぎていたのが、自分が将来何をしたいか、どうありたいかを考えるようになったと思います。コロナ禍の影響もあると思います。

自分の人生を考えている
自分の人生を考えている

ーーコロナ禍以降の新入社員の不安の要因は?

調査年で不安に感じることは変わっていますが、その原因は共通しています。新入社員の「組織社会化」が遅れていることです。自分の役割を理解したり、知識や技術を獲得して、職場での関係性を築くことですね。簡単にいうと、組織の一員になるためのプロセスです。

遅れの原因には、テレワーク等で職場との関わりが限られていることが考えられます。仕事のルールや進め方などが体験から学びにくく、企業側からは「自分で仕事をしなさい、自分から働きかけなさい」と言われる。そうした状況が不安につながっていると思います。

新入社員が「ちょっといいですか?」を言いにくい

ーー組織社会化の遅れはどう影響している?

企業側から課題として聞かれるのは、新入社員の協調性や主体性です。指示には的確に動くのですが、言われたこと以外はしないという声も聞こえてきます。ただ、テレワークだと仕事の内容を説明するのにも手間がかかり、互いに遠慮しがちです。

新入社員側も上司や先輩と同じ空間にいれば、疑問点を「ちょっといいですか?」と聞けますがそれも難しいです。そういう意味では仕事の幅が狭くなっているかもしれません。生産性の面でも、新入社員が誰を頼ればいいのか、どうすればいいのか分からず、聞けば短時間で終わるものを頑張って時間をかけてやってしまうころもあると思います。


ーーこうした課題にはどう対処すればいいの?

新入社員にとって社会人になることは大きな変化ですが、そのケアは本人の自助努力だけでできる話ではありません。職場でのケアの問題も多いです。新入社員の育成はこれまで「(1)働くことへの適応」が重視されていました。社会に適応するための技術、知識、経験ですね。

これからの新入社員指導で心がけてほしいこと
これからの新入社員指導で心がけてほしいこと

コロナ禍とイマドキの新入社員の傾向を考えると、(1)に加えて「(2)自社への適応」が課題になると思います。上司・先輩・他部署とのつながりを強化して、新入社員の悩みをしっかり聞いたり、問題は待っているだけでは解決しないことを伝えることですね。このほかにも自己肯定感を持てる、自信を持てる機会を設けることも必要だと思います。

このほか、自己認識力や言語化によるコミュニケーション力も意識してほしいですね。コロナ禍でオンラインコミュニケーションが増えたからこそ、重要だと思います。

テレワークを経験した指導者側は工夫を試みている

ーーコロナ禍は指導者側に影響を与えている?

指導者側の上司・先輩1048人に2020~2021年の1年間でテレワークをしたか聞いたところ、706人が経験していました。オンラインでの指導教育も行われたと想定されます。

そして面白いデータがあります。指導者側に新人・若手への指導育成で工夫したことを記述式で聞いて、回答に出現した言葉の傾向を分析しました。すると、テレワーク経験者には「コミュニケーション」などの工夫が多くみられたのに対し、テレワーク未経験者は特に変えていなかったのです。テレワークで指導育成への意識が高まったといえるでしょう。

テレワーク経験者と未経験者で意識に違い
テレワーク経験者と未経験者で意識に違い

ーー指導育成ではどんな工夫が行われていた?

テレワーク経験者の回答をみてみると、コミュニケーションの頻度を増やしたり、オンラインでも一息つけるような接点を増やしていました。また新入社員に孤立感を感じさせないよう、チャットやオンライン会議などのツールも活用していました。

それと、基本的な「ほうれんそう(報告・連絡・相談)」と業務内容の理解度を高めている、という方も多かったです。テレワークだと一人仕事になりがちなので、確認のコミュニケーションを重視したり、仕事のリスト化をしている方もいました。

指導者側が行っていた工夫の一例
指導者側が行っていた工夫の一例

ーー新入社員の不安に企業側は何ができる?

今は働くことへの価値観が多様化し、一律的な社員教育や成長支援は限界に来ているところもあります。イマドキの新入社員は自信のなさや孤独感を感じやすい傾向もあるので、小さな成功体験を積み上げたり、仕事を振り返る機会や考える場を設けることも重要だと思います。新入社員が目標を見失うことのないよう、サポートしてほしいですね。


コロナ禍で働き方が変化したことにより、「自社への適応」も新人教育の課題となっているようだ。オンラインでの仕事は普段の様子が見えにくいことから、新人・若手社員が不安や不満を抱えていても把握しにくい。指導者側も工夫はしているようだが、テレワークでも「ちょっといいですか?」が言い出せるような環境が求められているのかもしれない。

(画像提供:JMAM)

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プライムオンライン編集部
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