「好きな場所で、好きな体勢で」 サイレントシアターの可能性

入り口前に並べられた大量のヘッドホン。
次々とスタッフから客に手渡されていく。

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向かった先は開放的なリビングルーム。
客はメインテーブルやソファなど好きな場所に座っていく。

ここは「サイレントシアター」だ。

シアターギルド 五十嵐壮太郎代表取締役:
個別の空間で、音が切り分けられるというのが1つ面白いアイデアだと思ってプロジェクトが始まりました。

東京・渋谷区にあるシアターギルド代官山。
観客は入口でヘッドホンを受け取り、巨大なリビングルームで、好きな場所で好きな体勢で映画を楽しむことができる。

一番の特徴は独自に開発されたヘッドホンシステム。

専用ワイヤレスヘッドホンを使うことで、独特の没入感やそれぞれが好きな音量で映画を楽しむことができる。

観客:
空間がすごくリラックスできることと、俳優の呼吸や周りの音、足音とか繊細に聞こえてくる。

上映する場所にも自由度が広がった。
防音対策が必要ないため、さまざまな場所で映画を楽しむことができる。

シアターギルド 五十嵐壮太郎代表取締役:
代官山のサイレントシアターはもともと服屋さんの居抜きです。
代官山は居住地が近く、音があまり出せないエリアですが、難なく出店が可能になりました。
今まで考えられなかった場所で、設計様式で、いろいろ作っていきたいと思います。

また、外に音が漏れないので上映中でも窓を開けておくことが可能に。
コロナ対策として常に換気が可能だ。

舞台挨拶もアットホームな雰囲気

もう一つの特徴は、開放的な空間が生み出す、監督など映画関係者と観客との距離感の近さだ。

主人公・美咲役 篠原ゆき子さん:
一番緊張しない舞台挨拶でした。すごくリラックスして楽しかったです。

この日は、映画「女たち」のトークセッションが行われ、通常の舞台挨拶や映画祭では制限が厳しかったQ&Aも実施された。

映画「女たち」 内田伸輝監督:
通常の舞台挨拶とかと違って、ものすごくアットホームな感じで映画の話も深いところまでできると思いました。いろいろな質問の中で次なるヒントになるようなものをお互いに出せる場だと思います。

シアターギルドは今後、都内を中心に100館ほどサイレントシアターの展開を目指していく予定だ。

“わざわざ行きたくなる映画館”

三田友梨佳キャスター:
エコノミストで、 企業ファイナンスを研究されている崔真淑さんに伺います。
今回の取り組み、どうご覧になりましたか?

エコノミスト 崔真淑さん:
ものすごく面白い取り組みだと思いました。
一人の映画館好きとしても、 映画館の価値を再認識させる取り組みに見えました。

いま映画館の経営は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響だけではなく、時代の転換点を迎えています。映画館の需要動向を知るための経済指標である「映画館指数」を見ると、その年にヒット作が有るか無いかで映画館の需要が左右されている状況です。

昨年は「鬼滅の刃」の大ヒットによって映画館が何とか持ちこたえたというところがありましたが、ディズニーなどはネット配信を強化しています。新作映画を家で見ることが出来るようになると、ヒット作ありきでは映画館の需要は先行きが厳しくなる可能性があります。

そこで、今回の「サイレントシアター」はわざわざ行きたくなる映画館という面白い取り組みだと思います。

三田キャスター:
確かに、今回の取り組みは、映画を見るために出かけてみたくなる理由が詰まっていますよね。

崔真淑さん:
レストラン、喫茶店、さらには屋外まで劇場になる可能性がある。
そして、映画は単に見に行くだけではなく、一緒に行った人と価値観を共有したり、 お話ししたり、 “観客の映画体験”を守ることにも貢献していると思います。

映画文化を守る新しいビジネスモデルに注目したいと思います。

三田キャスター:
スクリーンの迫力に加えて、ヘッドホンならではの音へのこだわりや没入感、映画の楽しみ方の幅が広がりそうです。 

(「Live News α」8月24日放送分)