のどかな里山の風景が広がる愛媛県内子町石畳地区。この地に魅せられ群馬県から移住し、パン作りに情熱を注ぐ女性がいる。石窯でパンを焼きながら、豊かな自然に囲まれた愛する里山の未来を見つめる姿を取材した。

いつかパン屋をやってみたい…未経験から独学で学び人気店に

緑豊かな山々に囲まれた内子町石畳地区。武藤裕子さんは、この地に魅せられて14年前に群馬県から夫婦で移住した。

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武藤裕子さん:
自然の景色と人の暮らしの調和が取れていて、それを見たときに美しいなと思って。その中の一員になれたらいいなと思いました

炭焼き職人の夫と二人三脚、2人の子どもを育てながら自らの夢を追い求めてきた。

武藤裕子さん:
まきのくべ方で火の勢いとか熱とかが変わってくるので、その辺も勉強しなきゃだなと思っています

武藤さんの夢、それは石窯を使ったパン作り。

武藤裕子さん:
移住する前からパンは好きで、あちこち食べ歩きしてたんですけど、移住して田舎暮らしを始めたら、いつかその場所でパン屋をやってみたいなとは思ってたんですね。全然、経験はなかったんですけど

自他ともに認める無類のパン好きが高じて、武藤さんは独学で作り方を勉強し、4年前に念願のパン屋さんをオープンした。お店を開けるのは週に1日。オープン日になると、愛媛県内各地からお客さんが次々と訪れる人気店だ。

お客さん:
食べ応えがあるというか、腹持ちがいいというか。外側は堅い感じがしたけど、中はやわらこうて、かみ応えがあっておいしかったです

店の一番人気は、武藤さんがこだわり続けてきた「カンパーニュ」。フランス語で「田舎」を意味するこのパンは、自家製酵母を使った素朴な味わいと独特の食感・風味が特徴。

武藤裕子さん:
石窯の場合だとガスオーブンの時よりも、もっと大きいパンが作れて、なおかつ外側がバリッとして、中は火が通って、しっとりする仕上がりのいいパンができるので

石窯から手作り…パンを極めるため新たな挑戦

理想のカンパーニュを求めて、武藤さんは2020年12月に店をいったん休業し、石窯づくりにとりかかった。友人や近所の人の手も借りながら、約半年かけて夫婦で石窯を作り、2021年5月に完成した。

石窯でパンを焼くには、まきを燃やして、内部を高温に熱した後の「輻射熱」を使う。このため、石窯の温度をどこまで上げるかが、パンの出来を左右する最も重要なポイントとなる。

武藤裕子さん:
なかなか上がんないなあ。難しいですね、まだこれで320度。もう1回くべないといけないかな

6月、お店の再オープンに向けて、パンの試作が続いた。しかし、窯の温度を思うように上げられず、まだ納得のいくパンが焼けていなかった。

武藤裕子さん:
そういううまくいかないところが、難しいような面白いような、なんですよね

炎と格闘すること3時間。窯の温度が330度を超え、ようやくパンを焼く準備ができた。新しい石窯で焼くパンは2種類のみ。本当に自分が食べたいと思うものだけに絞った。

待つこと40分…。

武藤裕子さん:
あ、いいですね…いいですね

焼き上がったのは、今までよりひと回り大きいカンパーニュ。大きいサイズで焼くことで、より香りが強く、しっとりとした食感になるという。

ついに、納得のいくパンが焼けた。武藤さんのパンを知り尽くした地域の人たちに、さっそく試食してもらった。

試食した地域の人:
すごく中がモチモチで外がカリッとしてて、香りがすごくいいなと思いますね。全然、牛乳とかサラダとか、他のものを邪魔しないです、これは。パンはパンで主張しとるし

武藤裕子さん:
よかった、よかった。頑張って焼いた甲斐があります。安心しました

自ら作り上げた石窯で理想のパンに大きく近づいた武藤さん。確かな手応えを感じていた。

武藤裕子さん:
“伝説のおばあ”になりたい。「あの山には、すげえうまいパンを焼くおばあちゃんがいるらしいぜ」みたいなのを、あちこちで噂してほしいんです

 「石畳が賑わうといいな」パン作りと町への思い

そして迎えた、お店の再オープンの日。

開店と同時にお客さんが次々と訪れ、パンは完売。最高の形で新たなスタートを切った。

武藤裕子さん:
この石畳という地域をずっと存続させていきたい。それは私がおばあちゃんになっても、ずっとパンを焼き続けることにつながるので、誰かに来てもらったり、来てもらった方がまた誰かに教えたり、人の流れが石畳に戻ってくるといいなと思います

群馬県から愛媛に移住して14年。
自力で作った石窯でパンを焼きながら、武藤さんは豊かな自然に囲まれた愛する里山の未来を見つめている。

(テレビ愛媛)

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