包丁で誤って指をちょっと切ってしまった。そんな時はどのような処置をしているだろうか? 傷口を洗って絆創膏を貼る。消毒液や塗り薬で対応する。さまざまな方法があると思うが、こういった方法を耳にしたことはないだろうか?

「ツバをつけとけば治る」

擦り傷や切り傷といった小さな傷に限られるが、両親や祖父母らに言われ、実際にこのような処置をしたという人もいるかもしれない。

とっさになめてしまうことはないだろうか(イメージ)
この記事の画像(5枚)

だが本当に、傷口にツバを付けることによる効果はあるのだろうか? 逆に、傷口をなめることで何か悪い影響を与えてしまったりはしないだろうか?

そういった「唾液の治癒力」について、日本唾液ケア研究会理事長で、神奈川歯科大学副学長の槻木恵一教授に話を伺った。

唾液は極めて機能性の高い物質を含んでいる

ーー「ツバをつけとけば治る」って本当?

現代では、怪我をしても消毒薬や絆創膏などがそろっており、なめて治す人はいないでしょう。しかし、なめること自体は、傷の治癒に影響しない、もしくは、傷の治りを早めてくれると考えられます。2019年にも、唾液の傷を治す効果について肯定的な論文がでています。一方、動物は消毒液など持っていないわけですから、なめて治すしかありません。


ーーその理由は?

唾液は99%が水分で、1%に有機成分や無機成分が含まれますが、この1%に極めて機能性の高い物質が含まれています。特に、傷に対しては、細胞の活性を高めて修復を進めてくれる“細胞増殖因子”や菌が体の中に入るのを防いでくれる“抗菌物質”が豊富に認められており、実験的には傷の治りを早めてくれる働きをしてくれます。

なめることは傷の治癒に影響しない、もしくは、傷の治りを早めてくれる(イメージ)

ーーでは、どういった傷が治しやすいなどはあるの?

小さな傷は治りやすいですが、大きな傷は治しにくいと考えられます。小さい傷は自らの修復力のみで塞ぐことができますが、大きな傷は治癒の期間が長くなるため、外からの干渉を受けやすく、細菌や刺激などで二次感染といって傷がぶり返すこともあります。そのため、縫合するなどで傷を塞いだり被覆し、外来・外的から遮断したりと処置をしないといけません。

なので単純に、そもそもの治癒の期間や自己修復力の差があるため、大きな傷は治しにくいと考えられるのです。

他人の唾液をつけることはダメ

ーー口の中には多くの菌があると思うが、それらの菌は傷をなめる際に問題ないの?

菌は存在するのですが、皮膚の傷に最も悪い影響を及ぼすのは、黄色ブドウ球菌など、ニキビなど膿を作る炎症(化膿性炎)を起こす細菌です。しかし、通常、口腔衛生が比較的いい人には、問題になるほど多くは存在していません。

逆に、問題となるのはなめすぎて、機械的刺激により局所の安静が保てなくなり、治癒が遅れることです。ニキビ部分をよく触っていたら治りが遅くなるのと同じで、傷口を何度も繰り返し触ることで、刺激が常に与えられた状態になってしまい、炎症がひかなくなってしまいます。そのため、治りにくくなる問題はあります。犬などが傷口をなめすぎないように首にエリザベスカラーを付けるのもそのためです。

動物は傷をなめすぎないようにエリザベスカラーを装着(イメージ)

ーー逆になめることで、口の中への影響は大丈夫?

多少の血液は口の中に入り込みますが、特に問題はありません。


ーー自分の唾液ではなく、他の人の唾液ではどうなの?

唾液には、感染性のウイルスが存在することがあるので、治る治らないという以前に、他人の唾液をつけることは、してはいけないことであると認識してください。

もしかしたら当人が知らない間に、B型肝炎やヘルペス、HIVなど、何かしらのウイルスを持っている可能性があり、新型コロナウイルスの飛沫感染同様に、唾液を介し感染してしまうこともあるからです。

「ツバをつけとけば治る」は間違いではないが…

ーーそもそも唾液はどういった役割があるの?

唾液は99%が水分で、残り1%に100種類以上の機能性のある物質がいっぱいあり、口の健康を保つ非常に大切なものです。

水分が豊富にあることで、口の中が潤い、食べ物が食べやすくなり、飲み込みやすくなったり、話しやすくなったりします。そして、唾液が重要なのは、口の中を洗い流す洗浄作用があることです。唾液が少ないと虫歯の菌が洗浄されず歯に停滞することで、虫歯になりやすくなってしまいます。唾液はそういった洗浄作用で悪い菌からの感染防止の役割も担っているのです。


ーー改めて、「ツバをつけとけば治る」に関して、専門家としてはどう思う?

唾液は、日常の健康に非常に重要で、その効果の一つとして創傷の治癒の促進効果があることは間違いありません。その点では、昔よく言われた「なめとけば治る」「ツバをつけとけば治る」は間違いではありません。しかし、現代では傷に対する処置には、唾液より良い方法があるので、より効果的な方法を選択することをお勧めします。

消毒をしてから絆創膏を貼るなどを勧める(イメージ)

「ツバをつけとけば治る」という昔から言われる言葉は、唾液の持つ機能性の高い物質の働きが関係していて間違いではないようだ。しかし必ずしも治るといったものではなく、現代ではあまりオススメする方法ではないとのことで、怪我をしてしまった際は、なめるのではなく、その傷にあった適切な処置をした方がよさそうだ。
 

【関連記事】
スマホを小指で支えるのは要注意!? 手指専門の医師に聞いた“楽な持ち方”と“負担がかかる持ち方”
切れ込みを入れれば剥がれにくい!? 救急医が教える「手指の傷にばんそうこうを貼るコツ」が勉強になる