休校を決めるのは自治体

安倍首相は来月2日から全国の小中学校と高校、特別支援学校を臨時休校するよう異例の要請を行った。この発表には教育現場はもちろん、文科省や与党議員も発表までほとんど知らされていなかった。

与党議員はこう言う。
「あまりに突然の表明に耳を疑いました。私だけではなく、ほとんどの与党議員にとっても寝耳に水で、担当であるはずの文部科学省の方々も詳細には説明できない状況です」(自民党山下雄平参議院議員)

全国の小中学校などの臨時休校の要請を行う安倍首相

これをうけ萩生田文科相は28日の閣議後の会見で、「地域や学校の実情を踏まえ、さまざまな工夫があっていい」と述べた。学校保健安全法によると感染症の予防のため休校を決める権限を持つのは、学校の設置者=自治体の首長となる。つまり、県立高校であれば県知事、市町村であれば市・町・村長が、「子どもたちの健康・安全を第一に考え」(安倍首相)ながら、教育委員会や学校長と今後起こるあらゆる事態に取り組まなければならない。首相には休校を決める法的権限はないからだ。

困惑を隠せない萩生田文部科学相

学校が直面する四つの課題

今後学校現場は、以下の課題に直面する。
① 教育課程 終えていないカリキュラムをどう達成するのか?進級進学した学年、学校に持ち越すのか?家庭学習(宿題やオンライン学習)で年度内に終えるのか。
② 成績評価  期末試験を終えていない学校では、生徒の成績評価をどう行うのか?通信簿はどう渡すのか?
③ 卒業式  子どもたちにとって一生に一度の大事な式典を、中止するのか、延期なのか、または縮小して行うのか。縮小して行う場合には、参加者を制限するのか、時間を短縮するのか。式典中のマスクなど感染予防対策はどうするのか?
④ 生活指導  休み中の子どもの生活指導はどうするのか?人の多い街中に遊びに行こうとする子どもをどう止めるのか?

パニックの共働きやシングル家庭

また、子どもを持つ保護者の仕事や生活にも大きな影響がある。
安倍首相は行政機関や民間企業などに、こうした保護者が有給休暇を取りやすくするよう配慮を求めた。さらに首相は、この措置に伴って生じる「課題」は政府が責任を持って対応する考えを示した。この「課題」への対応策はこれから具体的な検討が始まり、保護者の経済的負担増がどうなるかなどまだ明らかになっていない。

一斉休校の発表に共働きやシングル家庭では、すでに「パニック」が起きている。
共働きをする都内の女性はこう言う。
「働く親はパニックです。休んだり、在宅勤務できる人ばかりじゃない。それも春休み明けまでといったら1ヶ月以上。親が働いていなくても、子どもがずっと家にいなくてはいけない状況は、子どもの健康、精神的面でどうなのか」

あふれる子どもの受け皿は万全か

休校することで居場所を失う子ども、特に家に一人でいることの出来ない幼い子どもや留守番が難しい児童の「受け皿」は待ったなしの課題だ。
厚労省は保育施設や学童保育、障がい児を放課後預かる放課後デイサービスについて、原則開所するよう全国の自治体に通知した。
しかし実際、子どもがなだれこんだら学童の教室は足りなくなるのではないか。教室に多くの子どもを押し込んで感染予防は大丈夫なのか。

人員確保も含めた態勢作りはこれからだ。
児童発達支援室みなそら園代表の金村龍那氏はこう言う。
「放課後デイサービスの現場は、職員配置が不足した状態も、開所を可能とするなど法規的措置を受け入れてほしい。利用のニーズはあるため受け入れだけでもしてあげたい」
また、幼稚園でも見習って休園を選択するところが出てきており、金村氏は「幼稚園は原則開園を文科省に出してほしい」と語る。

深刻な医療崩壊と介護崩壊

さらに深刻なのが、休校による医療崩壊や介護崩壊のおそれだ。
先んじて小中学校の一斉休校を行った北海道では、休校によって子どもを持つ職員が出勤できない事態となり、病院が一部診療を停止した。こうした事態は今後全国で起こる恐れがある。

介護の現場でもすでに崩壊の兆しが見えている。株式会社Join for Kaigoの代表取締役秋本可愛氏はこう言う。
「リモートワークができる企業はまだしも、介護のように現場ありきの仕事はお子さんのいる職員のシフトに穴が空き、人員体制に大きく影響が出ています。重篤化するリスクの高い高齢者の命を守るために一番手薄になってはいけない時期なので、休校要請だけでなくその先の親の職種に応じた対応まで考えて欲しいです」

教育者の矜持が前例無き現場に向かう

「悩んだ末の検討が全て吹っ飛びました」(千葉・熊谷俊人市長ツイッターより)
唐突とも思える休校要請に、学校現場では困惑しながらも、とにかく前を向いてやるしかないと、必死になっている。
埼玉県戸田市の戸ヶ崎勤教育長はこう語る。
「『私たちは新型ウイルスに負けなかった』と、大人も子どもたちも誇りを持って言えるようにこの難局を乗り越えたいものです」
教育者の矜持が、前例のない教育現場を支えている。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】
【表紙デザイン:さいとうひさし】