「最後の時間を大事にしたい」と泣く6年生

28日、小学校最後の日を迎えた6年生。
東京・八王子市立浅川小学校では、子どもたちが「最後の時間を大事にしたい」と泣きながら、突然来た別れを惜しんだ。
その姿を見た6年生の担任教員も、涙をこらえることができなかった。
学校は東京都教育委員会からの通知に従い、週明け2日から休校となる。
最終日となる28日は、「みんなで楽しい時間を過ごそう」と通常の時間割を変えた。

浅川小学校の清水弘美校長は、今回の要請について「まずネットニュースで私たち校長が知ることが残念です」と語る。
「新型コロナウイルスの感染予防と言われたら仕方が無い。うちはインフルエンザさえ1人もいなかったのに」

「コロナに罹らないことが仕事だよ」

学校では、成績表はこれまでのテストの点数や日常の授業態度、ノート、作品などで判断し、教員は粛々と評価をつけていくという。本来は3月のテストが年度の集大成として最も大切だったが休校のため実施できなくなった。通知表は学年ごとに登校日を決めて児童を集め渡す。集金や図書の返却も残っているので、卒業生も集められる。
卒業式については週明けに決まるが、例年通りの開催はもはや難しく、時間短縮の方向だ。
休み中の子どもたちは、『遊びに出てはだめ』、『習い事もだめ』となるため、学校では個別指導で補習を行う。

清水校長は児童にこう話した。
「日本の緊急事態だから協力しましょうと言うしかありません。児童には『コロナに罹らないことが一番の仕事だよ。家にいて朝はちゃんと起きて、自分のために勉強しなさい。寂しくてもお留守番頑張りなさい。大人が働かないと社会が壊れちゃうのだから』と言いました。これで新型コロナウイルスの感染拡大が収まらなかったら目も当てられない。犠牲が大きすぎます」

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「東京の満員電車とは無縁の環境です」

福岡県久留米市では「3月2日に学校を臨時休校することは問題が多すぎる」と、1週間の準備期間を設けた。
決断した背景を大久保勉市長は語る。
「久留米市は東京の満員電車とは無縁の環境です。今回の新型コロナウイルスは、パンデミックになる可能性も想定して準備をすべきと思います。特に4月以降に誰が担任するか、連絡体制、特に新中学1年生の対応など決めておいた方が良いことが山積しています。それを考えたら、学校現場に自分で考え冷静に対応する時間が必要です。1日の準備と1週間の準備は、後で振り返れば日数的には違いが殆どありませんが、長期休暇に突入する準備では大変大きな違いではないかと思います」

久留米市立の小・中・高校の休校は9日から春休みまで臨時休校とする。これまで久留米市では、新型コロナウイルスの市内感染者は発見されていない。福岡県内では3月10日に公立高校の入試があり、受験生にとってこの1週間が重要であることも今回の決定の背景にあった。久留米市では学童と保育所に関しては、政府の要請通り通常通り開所する。

「既成事実として全国に報じられた」

また、全国市長会の相談役で、滋賀県湖南市の谷畑英吾市長は、これまでの政府の対応の不備を指摘しながらも、「法的根拠のない要請ではあるが、既成事実として全国に報じられてしまっており学校現場の混乱を避けるため」、3月2日からの休校要請を受け入れて全ての小中学校を春休みまでの臨時休業とした。休業期間は新型コロナウイルスの潜伏期間が1~14日とされているものの、それ以上との報告もあることから政府の要請通りにした。

2009年の新型インフルエンザ対策で市内全域休校の経験がある谷畑市長は言う。
「政府は最初から十分に渡航制限をかけませんでした。政治ルートを通じて働きかけましたが残念なことです。SARSや新型インフル、鳥インフルなど、新興感染症対策は過去何度も経験してきたはずであるにも関わらず、です。さらに今回は企業活動や流通や人的移動を止めずに学校だけ止めるという、整合性を欠いた政策ですが。感染拡大防止は面的に徹底しなければ、子どもたちだけに無理を強いて効果なしとなりかねません」

臨時休校の要請を行う安倍首相
臨時休校の要請を行う安倍首相
萩生田文部科学相
萩生田文部科学相

「危機管理なので適時的確にこなす」

湖南市では、子どもたちだけで家庭に残らなければならない、家庭の事情でやむを得ず家庭で過ごすことができないなどの児童については、学校で希望者を受け入れ、自習させることにしている。これは地域の医療機関や企業の働き手の確保にも配慮したかたちだ。給食も出すが、これはシングルや共働き家庭に配慮し負担をかけないようにしている。

「教育課程はいったん終了するので、未履修単元の扱いは文科省の判断待ちですが、成績評価はこれまでの総合評価による通知表を、新年度(卒業生は卒業式)に渡すことになるでしょう。卒業式は規模を縮小して行います。生活指導も問題がありますが、児童生徒の虐待が増加しないかについては、神経を研ぎ澄ましておく必要があります。いろいろと課題の多い『天災+人災』ですが、危機管理ですので小さな自治体ながらあらゆる場面を想定しながら、適時的確なワークをこなしていきます」(谷畑市長)

子どもの日常を取り戻す教育現場の努力

ある学校では最終日、5年生が卒業式のために練習した歌を、6年生の校舎に向かって泣きながら歌い、6年生も窓越しに聞いて泣いたという。感染予防のため、児童同士が近くで歌えないとしたからだ。
あらゆる教育現場では大混乱の中、これからの1ヶ月以上をどう乗り切るのか、不眠不休の努力がされている。教育者の視線の先にあるのは、子どもたちに一刻も早く日常を取り戻すことだ。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。