売上に「上限」を設定したら、増えたのは“働く人の自由な時間”だった。

店名に込められた狙いは

分厚い上質な肉を求め、常に客足が途絶えないこの店の名は…佰食屋(ひゃくしょくや)
店名に込められた飲食業界の常識を打ち破るビジネスモデルとは。

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京都市内にある佰食屋。その名の通り1日100食限定のステーキ丼の専門店です。店のメニューは「国産牛ステーキ丼」をはじめ3つだけ。

100食と決まっているため、肉も余分に準備する必要がなく、食材を無駄にせず使い切ることで利益を生み、フードロス削減にもつなげている。

佰食屋 中村朱美オーナー:
ステーキにできない部分を集めてハンバーグをミンチしていきたいと思います。
挽きたてをすぐにハンバーガーにしますので鮮度も高いです。

さらに1日100食というゴールを明確にすることで、従業員の気持ちにもポジティブな効果を生んでいた。

入社3年目の社員:
完売に近づいてたらそこに向かって行けるのですごくモチベーションは上がります。
入社4年目の社員:
自分の時間をたくさん持てるようになりました。

コロナでも“持続可能”なビジネスモデル

一方、新型コロナウイルスの感染拡大で、時には100食を売ることさえ厳しい時もあった。
そこでオーナーの中村さんが始めた実証実験が…

佰食屋 中村朱美オーナー:
「佰食屋1/2」という方のお店です。

こちらは100食の半分。1日50食を売り上げれば成り立つビジネスモデルとして始めたお店。

佰食屋 中村朱美オーナー:
(厨房に)2人しか入れない。狭いんですよ。だけどそのかわりすべてがコンパクトにまとめられていて無駄のない動きになるようになっています。

「佰食屋」は20食あたり1人の従業員という計算から5人を配置。かたや「佰食屋1/2」では2人で店を回すことを前提にしている。

大きな儲けは期待できないものの残業ゼロ。人生を豊かにするための飲食業界における新たなビジネスモデルだ。

佰食屋 中村朱美オーナー:
一瞬の右肩上がりの売り上げで「やったー」というよりももっと持続する喜びだと思っています。コロナ禍で皆さん早く帰らないといけなかったり、自宅でリモートワークされることによって、生き方・働き方だけじゃなくて「人生をどう過ごすんだろう、家族とどう過ごすんだろう」ということを、今一度見つめ直す時間があったと思いますので、だからこそそれも含めて企業もやっぱり変わっていく。そういう分岐点に差し掛かっているのかもしれないなと思っていますし、我々のこの働き方のアイデアをぜひ使ってほしいと心から思っています。

「“時間当たり”の従業員満足」を高める経営

内田嶺衣奈キャスター:
とても興味深いと感じましたが、松江さんは今回の試み、どうご覧になりましたか?

デロイトトーマツグループCSO 松江英夫氏:
斬新ですよね。まさに「売り上げに上限を設ける」。この背景には私は従業員の時間を大事にしようという考え方があると思うんですね。言い方を変えれば「“時間当たり”の従業員満足」を高める経営、ビジネスモデルだというふうに私は見ているのです。

従業員の満足度を高めると顧客の満足につながって利益につながる。こういった研究データというのは存在するのですが、これを実践しようとすると、売り上げが右肩上がりに上げていくことを前提にやると、コストも時間もかかる割には従業員の満足度が高まらない。こういったジレンマもあるのです。

デロイトトーマツグループCSO 松江英夫氏:
今回のケースはまさに逆転の発想で、売り上げに先に上限をかけることによって、従業員の達成意欲を高めて自由時間も捻出して満足度を高める、つまり短い時間で従業員のやる気を引き出すことによって顧客の満足にもつなげていこう、つまり「“時間当たり”の従業員満足」を高める、こういった発想が非常に特徴的だと思います。

内田嶺衣奈キャスター:
こうした発想がどんどん他にも応用できるとより良いですよね。

デロイトトーマツグループCSO 松江英夫氏:
そう思いますね。今回の発想を「仕事の終わりを決めることによって従業員のやる気を引き出す方法」という風に読み替えると、これはあらゆる職場で応用が可能だと思うのです。例えば自分たちのチームで仕事するときも達成可能な目標を最初に決めてそこの達成のために力を合わせて短時間で自由時間も捻出する。こんな働き方ができると生産性も満足も高めるような働き方ができる。こんなところが広がっていくことを期待したいと思います。

内田嶺衣奈キャスター:
確かに働く時間と自由な時間そのメリハリがしっかりとしていて1日ごとのゴールが見えるとそれを目指してより頑張れるように思います。これも生産性を上げるひとつのアプローチですね。

(「Live News α」8月13日放送分)