この秋、携帯電話回線の乗り換えが変わろうとしている。
これまで大手キャリア(電気通信事業者)が行っていた「SIMロック」について、総務省が10月1日から原則禁止とする方針を打ち出したのだ。
 

スマホとSIMカード
スマホとSIMカード
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そもそもSIMロックとは、電話番号など契約者の情報が入った特定通信会社のSIMカードを差し込んだときだけ携帯電話が使えるよう、端末に制限をかけること。
SIMロックがかけられた携帯電話では、別のSIMカードに差し替えて使うことができなかった。
 

総務省はSIMロックについて「利用者の利便を損ない、利用者の権利を制限する」「事業者間の競争を阻害する」として、今年5月29日から6月28日まで募った意見をふまえ新たなガイドラインを策定。
これによって10月1日以降に発売される新商品の携帯電話はSIMロックがない状態で手に入ることになる。
さらに、それ以前に販売したすべての携帯電話は、2023年10月1日以降にユーザーが申し込めば無料でSIMロックを解除するという。
 

このSIMロック禁止によって携帯電話の料金は安くなるのだろうか?そもそも、何のためにSIMロックがあるのか?
ITジャーナリストの三上洋さんに聞いてみた。
 

ユーザーにとってはメリットばかり

――SIMロックはナゼあるの?

SIMロックの役割は大きく分けて2つあり、まずローンなど代金未払いで他社に乗り換えられないようにするためと、もう一つはユーザーの囲い込みです。

例えばドコモでSIMロックがかかっているスマホを購入すると、ドコモのSIMカードを差したときだけ使えて、他社のSIMカードでは使えないようになっていました。
日本では長らく「iPhoneの最新機種があるから○○社で携帯電話を買おう」などと端末を前面に打ち出すPRが行われていて、自社の端末が他社の回線で使えないようにロックをかけていたのです。
 

――SIMロック禁止によるユーザーのメリット・デメリットは?

制限がなくなるということですので、ユーザーにとってはメリットばかりでデメリットはありません。

ただ、au、ソフトバンク、ドコモでは、使っている電波の周波数が異なっていて、一部で他社の周波数には対応していない端末があるんですね。
ですので、ある端末を他社の回線で使おうとすると、通信スピードが遅くなってしまう可能性はあります。

そもそも携帯電話会社は、自分の会社のために自分の会社用の端末を売っているので、これはある意味仕方がないことです。
それに、各社とも対応している周波数は公表していて、端末にも書かれているので自分で調べることもできますし、例えばiPhoneなど多くの機種は各社の周波数に対応しているので、そこまで気にする要素ではありません。
 

総務省の思惑通りにはならない…その理由とは?

――SIMロック解除について携帯電話会社はどう思っている?

各社とも、自分たちが売っている端末の魅力をPRしているので、本音としてはSIMロックはやめたくないと思います。
ただ、SIMロックについては10年ぐらい前から論議されていて、さらに解除が義務化されてから5年以上経っていますので、これは仕方のないものとして受け止めていると思います。

――SIMロック禁止を打ち出した総務省の狙いは?

まずSIMロックを禁止することについては、5年ほど前からの既定路線としてずっと進んでいました。その目的は携帯電話会社間の乗り換えを促進することで、これによって携帯電話会社の料金を安くなったり、サービスがよくなったりることを期待していたのです。
 

――総務省の今までのやりかただと、思い通りになっていなかった?

総務省の思惑通りにはなっていないというのが現実ですね。
今回のSIMロック禁止の他、番号ポータビリティや、メールアドレスの移行など、いろんなことをやってきましたが、日本人は「携帯電話会社で端末を買う」という意識が強いので、安いSIMがあったらパッと入れ替えるのは、知識のあるマニアに限られているという状況です。
SIMロック禁止も総務省の期待通りにはならないかな、という感じです。
 

――なぜ総務省の期待通りにならない?

そもそもSIMロックを解除すること自体は、申し出が必要だったり手数料ががかかったりしますが、すでに実現しています。
しかも一部の新しい機種は、買うとすでにSIMロックが解除されている場合もあります。もうすでに他社に移ろうと思って移れない端末はないんです。

ですので、SIMロックが乗り換えを阻害しているということは、もうないと私は思っています。
もちろんSIMロックがかかっていない状態で売られることは素晴らしいことですが、それで他社への移行につながるとは思えません。
SIMロックがかかっていないスマホがいっぱい売られるようになったからといって、みんなが他社に移るようになることは起きないでしょう。
 

これを機にスマホの料金は安くなる?

――SIMロック禁止でスマホ値段や回線料金は安くなる?

一昔前までスマホの大手3社は「うちで買ってくれたら端末を安くしますよ」みたいな感じで端末を安くしてきましたが、最初からSIMロックがないのでは意味がなくなってしまうので、端末の料金はやや高くなるか、それほど変わらないと思います。

回線の料金については、正直変わらないでしょう。
SIMロックがないと、乗り換えが簡単になって携帯会社の競争が激しくなり、結果として回線の料金が安くなる、というのが総務省の見込みなんでしょう。
ところが、菅政権によって大手3社の大幅値下げが行われ、格安スマホ各社もあおりを受けて値段を下げましたが、そんな状況でも会社間移行はほとんど進んでいないんです。

ですので今回のSIMロック禁止というファクターで電話代が下がるということは期待できません。
 

――では10月1日前後に値引きキャンペーン合戦は起きないの?

携帯電話会社にとって勝機ではないので「ない」と思います。
 

三上さんによると、菅首相がこだわった携帯電話の格安プランがこの春に実現したため、逆に総務省が手掛けてきた携帯会社の移行を促進させようという施策は、メリットが無くなってしまったそうだ。
実のところ筆者はSIMロック禁止で大々的な値引きセールが行われるかと期待していたのだが、そういう動きにはならなさそうとのことだった。
 

プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。