海の上でも“脱炭素”。大手企業同士のタッグから生まれた新時代の船を取材した。

脱炭素時代のカギとなるこの船の正体とは!?

排出されるのは「水」のみ

滑るように走るのは、ヤンマーが開発中のゼロエミッション船“FCプロト艇”

大分・国東市の近海で、3月から実証実験を重ねている“水素燃料電池船”だ。

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推進システムのベースは、トヨタの燃料電池自動車「MIRAI」に搭載されている、燃料電池と水素タンクを採用し、それを船舶用に応用。

水素と空気中の酸素を反応させて電気を起こし、その力がモーターへ伝わり動力を得ている。

ヤンマーパワーテクノロジー 平岩琢也さん:
水素燃料電池はCO2に限らず、NOx(窒素酸化物)・SOx(硫黄酸化物)も出さない。いわゆるゼロエミッションとなるので、エンジンと比べて特に環境に良いといった特徴がある。

排出されるのは「水」だけ。船体の横から排出されている蒸気がその水。

キャビン内は広くてシンプル。モーターの始動もタッチパネルで操作する。

ーーこれからどのような実験を?

ヤンマーパワーテクノロジー 平岩琢也さん:

本日は電動船ならではの「加速性能試験」をしたいと思います。モーターを使っているので、エンジンと比べて加速性能がいいという特徴がある。

滑らかに進むテストボート。

エンジンに比べ素早く、力強い加速が特徴だという。

トヨタの燃料電池ユニットを使用

ヤンマーパワーテクノロジー 平岩琢也さん:
我々の強みとしてはトヨタ自動車の燃料電池ユニットを使っている。それをマリナイズして搭載しているのが強みと考えている、海外に負けないところ。
欧州や北米で燃料電池船のプロジェクトは始まりつつある状況。国内でも数例の実験船はあるが、ここまで完成形の高い実験、燃料電池船はヤンマーが初めてということになります

トヨタは燃料電池車MIRAIの技術を活用してもらおうと、2021年の春から燃料電池モジュールを鉄道や発電機向けに提供。

企業連携によるスピード感のある技術開発で、水素エネルギー普及へつなげる動きが加速している。

その一方で、船舶用の水素供給設備は1カ所もないなど、インフラ面での課題も残されている。

ヤンマーパワーテクノロジー 平岩琢也さん:
脱炭素の流れが世界的にきているので、脱炭素に向かった開発をしないと市場から淘汰される時代になってきています。

弊社はエンジンメーカーなので、水素エンジンも並行して開発を進めています。水素燃料エンジンと水素燃料電池どちらも持てるようにして、これらを組み合わせてひとつのパワートレインシステムとして、ヤンマーとしてインテグレートしていくことを考えています

”技術の共用”で競争力増

三田友梨佳キャスター:
早稲田大学ビジネススクール教授長内さんに伺います。水素で動く船ということですが、この取り組みどうご覧になっていますか?

早稲田大学ビジネススクール教授 長内厚氏:
ポイントは、トヨタの水素燃料車との“技術の共用”だと思います。今回は自動車に使っていた技術を船に応用したという話なんですよね。
こういう話を経営学では、1つの経営資源や技術を他の事業に横展開することを“コアコンピタンスに拠る多角化”とか“コア技術戦略”と呼んでいます。

代表的なところですと、富士フイルムがもともとあったフィルムの技術を応用して化粧品を作ったり、3Mが工業用の強力な接着剤を作ろうとしたら失敗して、粘着力の弱い接着剤を作ってしまい、どうしようかということで、文房具のポストイットに応用されたり。そういうさまざまな応用の成功例がある。

ひとつの技術を1社のひとつの製品に使うのではなく、今回のように企業の枠を超えていろいろ活用していく、より幅広い技術の応用につながると、効率よくたくさんの製品が生まれて、メリットも大きくなると考えられるんです。

三田友梨佳キャスター:
環境への意識が高まっていく中で、そうした技術の応用というのは、さらに求められそうですね。

早稲田大学ビジネススクール教授 長内厚氏:
内燃機関と脱炭素というと陸の自動車って思いがちなんですけど、実は海のこの船の世界でも進んでいて、国際機関を中心に規制の強化が進んでいます。また、船だけではなく水素で飛ばす飛行機の開発も進んでいるんです。この脱炭素に向けては、さまざまな動きがあるわけです。

水素エンジンは車しかないと思ってしまうと、EVなどとの競合の競争とかを考えてリスクが大きいということになってしまうかもしれないんですけれども、船でも使えるかもしれない、他に使えるかもしれない、と考えるとリスクがチャンスに変わるんです。

多様性のある開発の方法、コロナ禍で不確実性が高いこの状況が続く中で、ひとつの技術をさまざまな分野で応用していく、当たり外れを減らして多様性を認めていく、こういう考え方がますます必要になってくるんじゃないでしょうか。

三田友梨佳キャスター:
日本では早い段階から水素を活用した技術開発に先行して着手していますが、船舶においてもその優位性というのは生かしてほしいと思います。

(「Live News α」7月23日放送分)