“緩い水際対策” フランスの入国は驚くほどスムーズ

「水際対策、こんなに緩くていいのか-」

これが、フランスに入国した際に感じたことだ。しかし、パリで生活を始めると、日本とは違った形で新型コロナウイルスと向き合うフランスの様子が見えてきた。

緊急事態宣言下で関西空港は閑散としていた
緊急事態宣言下で関西空港は閑散としていた
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私が、大阪からパリに渡航したのは6月上旬。緊急事態宣言まっただ中で、関西空港は恐ろしいほどに静まりかえっていた。

渡仏にあたり、当時、フランス当局から示された条件は3つ。濃厚接触者ではない旨の誓約書、渡航前72時間以内の陰性証明書、そして渡航後に1週間、自主的に隔離をすることだ。

渡仏にあたり記入した誓約書
渡仏にあたり記入した誓約書

誓約書と陰性証明書は、関西空港で航空会社のチェックインカウンターで提示した。

しかし、パリ・シャルルドゴール空港に着いてからは、誓約書は誰にも見せることは無い。入国審査で「誓約書を見せましょうか」と尋ねても、担当者から返ってきたのは、「結構です」の一言だけだった。

朝5時に着いたということもあるのだろうか、空港は閑散としていた。着陸から空港を出るまで30分ほど。コロナ禍とは思えない、非常にスムーズな入国だった。

「こんなに緩くていいのか-」 ただただ驚いた。

夜間外出時には理由を記した証明書を携帯しなければいけない
夜間外出時には理由を記した証明書を携帯しなければいけない

空港から自主隔離をするホテルまではタクシーに乗った。運転手からまず求められたのは、外出証明書へのサインだ。

パリでは、夜11時から朝6時まで、外出禁止措置が取られていて、その時間に警察に職務質問をされたら、証明書を見せなければならないという。もし書類を持っていなければ、罰金約1万7500円を払わなければならないのだ。(※2021年6月下旬にこの措置は解除)

この紙切れにそんな価値があるのか。そう思いながら、丁寧にサインをした。

自主隔離も明け、無事に外出できるようになった頃には、すでに、飲食店では屋内外での営業が解禁されていて、街にはテラスで食事を楽しむ人が多くいた。

それを横目に、私がまず向かったのは薬局だった。

飲食店の営業が再開され、テラス席はどこも賑わっている
飲食店の営業が再開され、テラス席はどこも賑わっている

あちらこちらで新型コロナの検査所 無料でいつでも何度でも

薬局は、特設のテントを立てるなどし、PCRや抗原検査を行っている。私も夫とともに検査を受けた。

多くの薬局が新型コロナの検査を行っている
多くの薬局が新型コロナの検査を行っている

値段は日本円でおよそ4000円。フランスの健康保険に加入している場合は、何度でも無料でPCRや抗原検査を受けられる。

検査結果は政府提供のアプリにQRコードとして取り込む
検査結果は政府提供のアプリにQRコードとして取り込む

結果は、政府が提供するスマートフォンのアプリに登録し、陰性証明書として活用できる。大規模会場でのイベントで提示を求められるため、検査を受ける人は絶えないようだ。

PCR検査の精度は7割ほどと言われているが、毎日でも検査を受けることができるとなると、使い勝手が格段に違う。実用的だと感心する一方で、財政は大丈夫なのか、心配にもなった。

2020年12月から始まったワクチン接種 半年経っても“予約合戦”

ワクチン予約にもアプリを活用
ワクチン予約にもアプリを活用

気軽に検査できるとはいえ、ワクチンを打たなければ、感染への恐怖心は消えない。ワクチン接種の予約には、ドクトリブというアプリを使った。これは、パンデミックの前からフランス国内の診療所の予約で広く使われているもので、新型コロナのワクチン接種の予約にも活用されていた。日本のように、紙での接種券は必要ない。

まずは、どの種類のワクチン接種を希望するかを答え、2回分の接種を予約する。“予約合戦”はさすがにないだろう、と思っていたが、違った。私が予約を試みた直前の6月15日から18歳以上の全ての人がワクチン接種を受けられるようになり、アクセスが集中したためか、結局、数日間、スマートフォンの画面と向き合うことになった。

“予約合戦”の一方、ガラガラのワクチン接種会場

パリ市内のワクチン接種会場
パリ市内のワクチン接種会場

6月24日。大規模ワクチン接種会場には、予約画面を提示して入った。

会場に行列はなく、全てがスムーズだった。まずは名前を聞かれ、それを担当者が予約データと照らし合わせる。

問診表を記入し、看護師のチェックを受ける
問診表を記入し、看護師のチェックを受ける

問診票を記入し、男性看護師に感染歴やアレルギーの有無などを聞かれた。問診が終わると、接種ブースへ。

ワクチン接種には消防士が稼働されている
ワクチン接種には消防士が稼働されている

筋肉隆々の男性がいた。

ーーあなたは医者ですか?

男性:「いや、消防士だよ」

ーー消防士がワクチンを打てるんですね。

男性:「普段はこんなに注射をたくさん打つことなんて無いんだけどね」

笑顔で答えてくれた彼。きっと普段は火災現場を走り回っているのだろう。フランスでは、医者の他にも助産師・薬剤師・消防士・獣医師などがワクチンの打ち手となっている。

ーー痛いですか?

男性:「いや、すぐだよ。じゃあ打つよ。1・2・3」

消防士は慣れた手つきでワクチンを接種してくれた
消防士は慣れた手つきでワクチンを接種してくれた

一瞬だった。ばんそうこうを付けられることもなく、ブースを出た。その後、別の消防士によるパスポートチェックなどを受け、15分間待機した。

最後に、2回目の予約の有無を確認された上で、ワクチン接種の証明書を受け取った。

予約にあれほど苦労したのに、なぜこんなにガラガラだったのか。結局分からないまま、会場を去った。

接種開始から半年あまり… 伸び悩む接種率

この“ガラガラの会場”には、フランス政府も頭を抱えているようだ。

ワクチン接種会場は非常にすいていた
ワクチン接種会場は非常にすいていた

フランスでは2020年12月から接種が始まり、7月時点では、12歳以上が対象となっている。

しかし、ここにきて接種スピードが伸び悩んでいるという。フランス政府によると、ワクチン接種を完了した人は、約2739万人(人口の約40.6%/7月11日時点)。一方、日本は約2348万人(人口の約18.5%/7月13日時点)。日本より約4カ月早くワクチンという“武器”を手に入れたのに、なぜ、ここまで速度が落ちたのか。

日本と大差ないワクチン接種人数 背景には「旅行」と「不信感」

理由のひとつに、バカンスシーズンの影響がある。

当初、混乱を避けるために1回目と2回目の接種は同じ会場で受けなければならなかった。しかし、2回目の接種予定日が旅行と重なってしまうために、1・2回目両方の接種を後倒しする人が出てきたのだ。

7月上旬、パリ・オルリー空港は朝6時から利用客で溢れていた
7月上旬、パリ・オルリー空港は朝6時から利用客で溢れていた

ワクチンより旅行を優先する。日本人の私にとっては理解しがたい。しかし、自由の国フランスでは、きっと自然な考え方なのだろう。

フランス政府は結局、この事態に対応するために、2回目の接種を旅行先や高速道路のサービスエリアなどで受けられるように運用を変えた。

地下鉄など屋内施設では不織布マスクの着用が徹底されている
地下鉄など屋内施設では不織布マスクの着用が徹底されている

接種が伸び悩むもう一つの理由に、ワクチンへの不信感がある。接種を望まない人が若者を中心に一定数いるのだ。

彼らは飲食店のテラスではマスクをせずに食事を楽しむものの、商業施設や地下鉄などでは、不織布のマスク着用を徹底している。そして、必要があれば、薬局で無料で検査を受け、陰性証明を手に入れる。ワクチンを接種しなかったからといって、日常生活で困ることはほとんどない。

ワクチン接種を半ば強制 フランス政府が打ち出した対策

マクロン大統領は演説でワクチンの必要性を訴えた
マクロン大統領は演説でワクチンの必要性を訴えた

「今すぐに行動を起こさなければならない」

7月12日。マクロン大統領が国民に向け、新たな対策を打ち出した。8月から飲食店などで陰性証明かワクチン接種証明の提示を義務づけ、秋から検査を有料にするというものだ。

驚いた。ワクチン接種を半ば強制しているではないか。うむを言わさぬ方針転換に驚いたのか、その日新たに接種を予約した人は約93万人にものぼった。きっと彼らは、“予約合戦”に勝ち抜いた人達だ。

ワクチン接種証明の義務づけには反発も大きいが、今後、接種を希望する人はもっと増えるだろう。

フランスにきて1カ月あまり。

引き締めるところは引き締める。一方で、緩めるときは、安心して緩められるだけの準備をした上で、とことん緩める。これが、フランス式の新型コロナとの向き合い方なのだと感じた。

【執筆:FNNパリ支局 森元愛】

森元愛
森元愛

疑問に感じたことはとことん掘り下げる。それで分かったことはみんなに共有したい。現場の空気感をありのまま飾らずに伝えていきます!
大阪生まれ、兵庫育ち。大学で上京するも、地元が好きで関西テレビに入社。情報番組ADを担当し、報道記者に。大阪府警記者クラブ、大阪司法記者クラブ、調査報道担当を経てFNNパリ特派員。