西日本豪雨から3年を迎えた被災地の1つ、愛媛県内有数のミカンの産地・宇和島市吉田町では、被災したミカン園地を、災害に強い園地に生まれ変わらせるため、大規模な整備を行う「再編復旧」がいよいよ始まる。

西日本豪雨でミカン園地は甚大な被害

6月、宇和島市吉田町玉津地区で、若手農家たちがミカンの木の伐採を進めていた。

この記事の画像(15枚)

ミカン農家・清水実郎さん:
災害からいろいろなところでリスタートしていますけど、これもある意味、リスタートですし、再生して新しく作り、よい園地に生まれ変わる、それの始まりかなと考えています

西日本豪雨では、記録的な大雨により、急峻な斜面に作られたミカン園地はあちこちで崩れ、甚大な被害が出た。

地区の約50軒の農家は、山を切り崩して緩やかな傾斜の園地に整備し直す大がかりな「再編復旧」の道を選んだ。大切なミカンの木をあえて伐採し、新たな苗木が育つまで、一旦、収入が断たれる厳しい道の先に希望を託す。

「まだ3年」… 爪痕残る園地に “ポンカンの苗”

愛媛県内有数のミカンの産地・吉田町玉津地区。
水はけの良い急峻な山の斜面で育つ玉津のミカンは、甘くて濃い味が自慢。

2018年7月、ミカンの摘果作業が始まったころ、豪雨が玉津を襲った。吉田町だけで2,200カ所以上の土砂崩れが発生し、ミカンの木が流されたほか、農機具が壊れるなど甚大な被害を受けた。

ミカン農家・西村保人さん:
この山の中腹から全部、泥が抜けまして、ずっとまっすぐ、そこが川になるんですけど、そこまでザーと崩れて、結局30本くらいは駄目になったんですよね

地元で代々かんきつ農家を営む西村さんは、土砂崩れでミカン園地の3分の1を失った。

ミカン農家・西村保人さん:
うーん…。僕からすると、まだ3年かな…

3年たった今も、園地には当時の爪痕が残ったまま。

2021年の春、少しずつでも収入を増やそうと、被害が少なかった園地にポンカンの苗木を50本ほど植えた。

ミカン農家・西村保人さん:
少し大きくなって枝が出て、来年にはもうちょっと大きくなるかな、収穫するまでにはまだまだ5年先ですね

災害に強い園地へ…大規模整備に期待

西村さんの園地は、このポンカンの苗を植えた斜面の半分より下側が、再編復旧の対象エリア。
玉津地区には、法花津湾を囲むように、「白浦」「法花津」「深浦」の3つの地域がある。

再編復旧は、特に被害が大きく、地元農家が希望した園地でのみ実施され、「白浦」では清水さんの園地を含むこの2つのエリア。

「法花津」では、西村さんの園地を含むこのエリアが対象の工区となっている。

「白浦」は7月中旬から、「法花津」はさらに1年後から工事が始まり、山の形そのものを変える大規模な事業になった。

南予地方局農林水産振興部・保利誠司復興監:
今回、事業をすることで、農地の関係者化を図ったり、道路・水路を整備することで災害に強くて、生産性の高い園地になるということになると思います

「再編復旧」では、最大で40度もある山の傾斜を25度ほどに緩やかにし、排水路や農道などを整備する。

防災面の強化だけでなく、車が進入しやすくなるため、収穫時の運搬などもスムーズになり、生産性の向上にもつながると期待されている。
ただ、園地を整備しても、そこに新たに植えた苗木が育ち、再び収穫ができるまでには5年から10年の時間がかかる。

“玉津”の味を受け継ぐ…若い世代の覚悟

7月1日、秋の収穫に向けて、2021年も極早生ミカンの摘果のシーズンがやってきた。

西村さんはこの3年間、少しでも早く収穫ができるよう、高齢化でリタイアした農家から畑を借り、新たな園地に植えるミカンの苗木を事前に育てている。多くの地域で農家の高齢化が進む中、若いミカン農家が比較的多い玉津地区だからこそ、一歩先を見据えた大規模な工事が必要だと考えている。

ミカン農家・西村保人さん:
全国の中でも、一番恵まれている地区だと僕は思うんですよね。こんなに若い子らがUターン、Iターン、いろいろあって、うちで家業継ぐという気持ちで帰ってきた子がいっぱいいるので、僕らも少なからず手助けをしたいなと

若い世代も、受け継がれてきた「玉津」の味を守り続けたいと、難局に立ち向かう覚悟。

ミカン農家・清水実郎さん:
やはり味も受け継ぐし、そこは引退して一生懸命やってきたんだよっていう、先人の方の思いっていうのも乗せて、作っていけたらなと思います

ミカン農家・西村保人さん:
早く直してもらったら、そのぶん、早く栽培して、みんなで笑顔で収穫できて、そういう喜びを味わいたいというのはありますね

玉津地区の再編復旧は、2024年に一部の園地が完成する予定。

(テレビ愛媛)

テレビ愛媛
テレビ愛媛

愛媛の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。