芸術の街・ベルリンにも新型コロナの暗い影
2021年4月末から5月初めにかけて、ベルリン市内の駅構内やバス停などで配信された映像作品。

制作したのは沖縄・恩納村出身の松崎清乃さん。
県外の大学を卒業後、芸術を歓迎し楽しむ基盤があるドイツに移住し、ベルリン芸術大学の修士課程で学んでいる。

多くの市民がアートに親しむ街にも、新型コロナが暗い影を落とした。
松崎清乃さん:
そもそも今授業も全部オンラインで、美術館とかも閉まっているし、それがもう一年くらい続いているので、ベルリンで全然展示する機会もない。何か広告を使ってパブリックアートとして作品を出せないかっていうのを教授2人が考えて、その授業に参加した。
市民が芸術に触れる機会が減るなか、街にアートを取り戻そうと大学と広告会社がタイアップし、学生11人の映像作品を市内の様々な場所で展示・配信した。

自分自身がもつ感覚と価値観を信じる
不安定なボールに座り、仕事をする女性。うまく座ることができず転倒してしまうが、ボールを追いかけて捕まえる。
エナジードリンクの広告をイメージした動画でも、ボールの上で飛び跳ねる。
松崎清乃さん
自分の中でうまくバランスを取って生きていくというのが大きなメッセージ。
何となく今日はもっと良い日にしようだとか、仕事だけじゃなくて自分のプライベートもより良くしていこうと。
自分の生活を繰り返すんだけど、ちょっとずつ、ちょっとずつ枠からいつものルーティーンから少し前に進む
社会が生み出す大きなリズムによって振動する現代。
そのリズムに揺らされながらも、自分自身がもつ感覚と価値観を信じることで新たな社会のリズムを刻み、時代を切り開くというメッセージを込めた。

沖縄で過ごした経験も活かされている。
アーティストを目指すきっかけは沖縄の風習・文化
松崎清乃さん
いい意味で沖縄って、人それぞれリズムがある。
社会全体の揺れの中に地を沿っているんだけど、それぞれ自分のリズムで生きていたり、バランス感覚で生きていたり。
人のリズムを邪魔しないというか、良い意味で内向的というのは沖縄で培った大きなものかな
松崎さんがアーティストを志したのは、大学で沖縄特有の「ハジチ」の文化を学んだことがきっかけだった。

女性の手の甲に入れる「ハジチ」は、成人女性になるための儀式、既婚者の証。さらには厄払いの目的で施していたが、その美しさから女性の憧れとなっていた。

松崎清乃さん
自分の体が売られないように汚してたんだけど、だんだん女性のシンボルになっていって、美しいもの、私も入れたいというふうになってくる。
嫌われてたものが、好かれるじゃないけど意味が変わっていく。同じものなのにそれがすごい面白くて。
なんだか、それがアートの大きな意味かな。
時代背景によって価値が変化してきたハジチ。
松崎さんは、自身の祖母の顔にハジチの紋様をペイントし、写真に収めた。
歴史の中で起こったことや現代社会で起こっている事実を、時にあるがまま、時に創作物に置き換えて表現し伝えていくことが芸術だと松崎さんは語る。

東日本大震災・被災地と沖縄の共通点
2011年の東日本大震災で甚大な被害を受けた宮城・石巻市を訪れた際に撮影した写真は、ドイツの環境省が開いたコンテストで入選した。
震災の被災地で暮らす人から直接話を聞いたとき、戦争から地続きの基地問題で翻弄される沖縄の姿が重なった。

松崎清乃さん
沖縄と似てるなと思ったのが、歴史を背負っていかなくちゃいけない場所なんだなと。
だから、被災地っていう場所になっちゃったし、被災者という人になってしまった。
それがすごくシンパシーを感じたといいますか、傷が残ってしまったのだなって

国籍や言葉の垣根を超えたアートを…
写真や動画を駆使し、今を生きる全ての人々に言葉を介さずにメッセージを発信しようと奮闘する松崎さん。
将来は世界で活躍するアーティストを目指している。

松崎清乃さん
沖縄という小さな島から何かを達成したり、他の人と同じ土俵で仕事したり作ったり、何かできる。
沖縄で生まれ育った自分でも出来るかもしれない。
そういう希望を大人からもらったこともあるから、自分が希望を与えられるような人、希望を受けてまた頑張れる人になりたい
沖縄特有の文化や地元で育んだ思いを胸に、国籍や言葉の垣根を超えたアートを作り続ける。
(沖縄テレビ)