止まる工事 貧困世帯のさらなる困窮

クーデターによる経済の混乱は、コロナ禍とも重なり、元々金銭的に厳しい生活を強いられていた人たちを直撃している。国連開発計画(UNDP)によると、ミャンマーの貧困率は24.8%にまで低下していたが、2022年には全人口の48%が貧困層となる恐れがあるという。貧困の現場に向かった。

ミャンマーの首都・ネピドー。5月下旬、私たちは退職した公務員の住居となる団地の建設現場を訪れた。広大な敷地に足場が組まれたままの建物が50棟以上並んでいるが人の姿はない。平日にも関わらず、そのほとんどで工事が止まっていた。

工事が止まった団地の建設現場
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この建設現場の周囲には、工事に従事する日雇い労働者が多く暮らす集落が点在している。そのうちの一つで、40代の男性が自宅を案内してくれた。水も電気も通っていない6畳ほどの広さの1部屋で、妻と子供2人の4人で暮らしているという。

男性が案内してくれた自宅 竹で組まれている

男性は、この現場で日雇いのレンガを運ぶ仕事をしているが、2月のクーデター以降、1日数百円の日払いの仕事が3分の1に減ったという。

「仕事がある日は食べられるけど、ない日は食べられない。その繰り返しです」

男性の妻が付け加える。

「子供が『お腹がすいた』と泣くこともよくある。そういう時は子供たちに近くの寺院に行かせて、お供え物を下げたものをもらってきたり、野草を摘んで、おかず代わりにしたりして飢えをしのいでいる」

集落の中には、生まれ故郷に戻る人たちもいるというが、男性の家族は戻っても自分たちの土地がなく、食べていける見通しが立たないとして、いまも集落に留まっている。

続く混乱 全人口の半数が貧困層に?

男性が働く団地の工事は、極度の現金不足による現金取引の停止や遅滞、国軍に抗議する従業員のストライキによる影響で、6月中旬になってもほぼ止まったままだ。

男性の暮らす集落 建設現場から小川を挟んだ場所にある

国連開発計画(UNDP)によると、2011年の民政移管後の経済発展に伴い、ミャンマー国内の貧困率は24.8%にまで低下していたが、2022年には全人口の半分の約2500万人が貧困層となる恐れがあるという。これは旧軍事政権下の2005年の48.2%に逆戻りする比率だ。

重み増すNGOの役割

こうしたなか、NGOなどの団体が困窮する市民の支援に力を入れているが、4月以降は抗議する市民の支援に繋がることを警戒する国軍が、活動の制限を求めるなど、支援団体が思うように活動できない状況が続いている。

匿名を条件に取材を受けてくれたヤンゴンに拠点を構えるNGOは、ほぼ毎日、貧困層が多く住むヤンゴンや周辺の地域に出向き、飲み水を供給している。この日、ヤンゴンの東部に位置するタケタ地区を訪れたNGOのメンバーは、ヤンゴン川の支流の河川敷に向かった。ここは建設現場の一角にあり、多くの作業員が一時的に住んでいる。水道や電気も通っておらず、住所もない地域で、背の高い草に囲まれたエリアに約150世帯が暮らしている。

NGOの給水車が到着すると、集落の人々が続々と姿を現した。持ってきたバケツに水を汲んで、家の水がめまで運んだり、直接ホースで軒先のドラム缶などに水を補充してもらったりしている。訪れた5月下旬は雨期が始まる前だったが、この時期はたびたび水不足に陥るという。住民は水を購入する必要に迫られるが、購入する余裕がない家庭も多く、水の寄付はありがたいという。

給水車が来ると住民がバケツを持ち寄る

小さな子供を抱えた女性は「お金が無くて、夕食が食べられない日も増えてきた。水も買えずに雨水に頼っているので、助かっている」と話していた。

ただ、水が届く一方で、ここ最近、滞っているのが食糧だ。

国軍が警戒する食料配布

この集落に住む男性が明かしてくれた。

「4月後半から食料を配布してくれる人たちが来なくなった。国軍に『配布をしては行けない』と言われたらしい」

国軍は、生活に困窮する人たちに食料を配布する行為は、国軍に抵抗する市民の団結を促したり、国軍に不満を持つ市民の支援につながったりする可能性があるとして、支援団体に対して食料の配布を控えるよう呼びかけている。

一方で国軍や保健当局も食糧を必要とする人たちが多く住む地域への食糧などの配布を行っている。ただ、対象は住所の登録がある地域だけで、住所のないエリアの人たちには届けられない。

急病人の搬送活動も行う

このNGOは、苦しい選択を迫られている。国軍の要請を無視することは事実上難しく、食料の配布は控える一方、水の配布や急病人の搬送など、今できるサポートを行っている。団体を運営する男性は「微力ながら国民のためにできるサポートをしたい」と話していた。

「私たちは中立」食料配布するNGOも

一方、国軍が支援活動にも目を光らせるなか、目をつけられることも覚悟のうえで、活動を続けるNGOもいる。ヤンゴンを拠点にするNGO「シュウェチャ(Shwekyar)」の代表、シュウェチャ氏は、「政治的な活動は何もしていない」として10年近く続けてきた食糧配布を今も続けている。

シュウェチャ代表は若い頃、貧しい環境で育ち苦労した経験から、2012年に「シュウェチャ」を立ち上げた。国軍に目をつけられる可能性もあるなか、自分たちの団体名や活動を公開したのは、日本の人たちにも寄付を呼びかけたいからだという。

自身の名前がNGOの名前でもある シュウェチャ(Shwekyar)氏

シュウェチャでは集めた寄付金などを基に、毎日、米と油、調味料、豆など10ドル相当のセットを作り、多いときには数百世帯に配布している。対象は仕事が無くなり困窮している世帯だ。ヤンゴン市内の事務所を訪ねると、ボランティアスタッフが米を小分けにする作業に追われていた。

食糧配布を続けるシュウェチャだが、国軍に目をつけられるリスクを回避するため、配布方法に気を使っている。SNSで食料を希望する人たちを募集し、それぞれの人たちに配布時間を伝え、その時間に事務所に取りにきてもらう。時間を指定することで、食料の配布を待つ列ができることを避け、人目につかないようにしている。この日も5分から10分おきに、食料を取りに市民が訪れていた。

住民は指定された時間に食料を取りに来る

国軍に目をつけられるのが怖くないか聞いてみると、シュウェチャ代表は、「私たちは、政治的な行動は何もせず、中立の立場で、食料などの配布だけを2012年から行ってきた。今も自分たちの活動を続けるだけだ」と話していた。

経済的な困窮 いつまで

ただ、こうした献身的な取り組みが行われていても、その効果は全体をみれば、わずかに留まるのが実情だ。国連世界食糧計画(WFP)が4月22日に発表した分析によれば、製造業、建設業、サービス業などで失業が拡大し、10月までの間に最大340万人が食料の確保に苦慮する恐れがあり、都市部が最も深刻な影響を受けるとみられている。

WFPは、約114億4000万円の支援が必要として、世界各国に協力を呼びかけている。日本も5月にWFPを通じて、約4億4000万円の無償での食糧支援を実施した。

しかし国内の混乱が長引けば、困窮する人たちの生活が改善する見通しは立たない。クーデターによる混乱は、社会の中で弱い立場に置かれた人たちに深刻な影響を及ぼし続けている。

【執筆:FNNバンコク支局 池谷庸介】