音楽好きのためのオンラインサロン「おとなり」を運営するヤマモトシンタロウ(LEGO BIG MORL)と阪井一生(flumpool)。2人はミュージシャンでありながら、なぜこのようなコミュニティを作ったのか?

コロナ禍において、エンターテインメントは政府によって“不要不急”にカテゴライズされた。1回目の緊急事態宣言の解除後、徐々に再開されたとはいえ、エンターテインメントは未だ多くの困難と共存せざるを得ない状況。特に昨今、ライブが主な収入源となっていたミュージシャンたち、そこに関わる音楽業界の人たちにとっては生きるか死ぬかの状況が続いている。

そんな中、2人が2019年に立ち上げたオンラインサロンは、図らずも今の時代にマッチした。

「ミュージシャンが音源を作る、ライブをする以外でやれることはないのか?」「リスナー側も音楽を聴いて、ライブに行く以外の音楽的な活動ないのか?」――そんなシンプルな想いから始まった活動内容とは?

現在、有観客での全国ツアーを行っている阪井には、ライブの現状も明かしてもらいつつ、2人に今の音楽業界が抱える悩みから、オンラインサロンの実情、そして未来まで、“オンライン”でのインタビューで訊いた。

コロナ禍での有観客ライブの現状は

――現在、flumpoolは有観客での全国ツアーを実施しています。まずは率直に今、何を感じていますか?

阪井:やはり難しいところはあります。まずお客さんはマスクをしているし、声も出せないし、以前のようにはコミュニケーションが取れない。僕らにもお客さんにも緊張感みたいなものがあります。

それにちょっとした罪悪感を持ちながらやっている自分もいて……どうしても「こんなときにライブをやってもいいのか?」という気持ちは残ってしまいます。もちろんそれでもライブをやろうと決断してはいるのですが。

――感染対策は前提として、それ以外にも多くの工夫が必要ですよね。

阪井:普段の僕らのライブはみんなで声を出したり、歌ったりする場面が多いので、その代わりに携帯を振ると画面の色が変わるアプリを使うとか。録音した笑い声をMCのときに入れるとか。あとは盛り上がる曲をやるのが難しいからこそ、アコースティックな曲をじっくり聴けるような場面を作るとか。できる限りのことはしています。

――当初の予定から延期をして昨年の10月にツアーがスタートしてからも、状況が変わるたびに、延期、振替が繰り返されている現状をどう感じていますか?

阪井:毎回、メンバー、スタッフでギリギリまで話し合って判断をしていますけど、そろそろ約1年間ツアーをしていることになるなって(苦笑)。こんなに長く同じツアーをやるのは初めてです。セットリストもこれまで以上に変えながらやってはいますけど、大変ですね。

阪井一生(flumpool)
阪井一生(flumpool)
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困難な状況下でもライブを続ける意味とは?

――苦労があっても有観客でのライブを続けているのですね。

阪井:僕らも無観客での配信ライブはやりましたけど、お客さんがいない状態でライブをするのはめちゃくちゃ難しい。正直、地獄だなと(笑)。それを考えると、改めてこんな状況でも目の前に聴いてくれる人がいることへのありがたみを感じています。

――観客は平常時の50%ですが、感染対策のための費用に、延期、振替に関わる費用など、収入が減るのに出費は増えている思うのですが、正直なところ、収益としてはどうなのでしょうか?

阪井:国からの補助とかもあるんですけど、僕らのツアーに関しては赤字です。チケットを買っても、当日来ない、という判断をする人もいますしね。もともと満員で5割のところの、8割しか来ないから、全体の4割くらいしか客席は埋まってない状況で。空席が目立つというか、これまで自分たちがステージから見ていた景色とは全く違います。

――そんな中でもライブを行うモチベーションは?

阪井:うーん、何やろうな。(ボーカルの)山村(隆太)は、「こんな暗い世の中でも……」みたいな、ええこと言ってたけど(笑)。

――自分たちの歌で誰かを喜ばせたり、勇気を与えたりしたい、というミュージシャンとしての使命感のようなものでしょうか。

阪井:それはあると思うんですけどね。

コロナ禍によるライブ以外でのミュージシャンへの影響

――コロナ禍において、ライブ以外で変化を感じる部分はありますか?

ヤマモト:もともとコロナ禍になる前は、音源が売れなくなって、ミュージシャンの収入に占めるライブの割合は8割ぐらいと言われていましたけど、結局、ライブがないことによっての影響がたくさんあります。

例えば、ライブがないから、グッズを売る機会もないとか。音源も、新しい曲を生で聴きたいからみんなライブに来るわけで、ライブとセットなんです。音源だけでも出そうとするミュージシャンはいますけど、それを披露する場がないから、どんどんお客さんとの距離が離れていくのを感じます。

――自宅で過ごす時間が増えて、サブスクで音楽を聴く時間が増えて、収入も増える、とか。

ヤマモト:その一面はあるかもしれないですけど……最近、ニュースにもなっていましたけど、Apple Musicが1曲0.1円、Spotifyだと0.01円とかで(苦笑)。

阪井:CDが売れるのとは全然違いますね。

ヤマモトシンタロウ(LEGO BIG MORL)
ヤマモトシンタロウ(LEGO BIG MORL)

サブスクリプションサービス拡大によるミュージシャン側の変化とは?

――音楽のサブスクリプションサービスが一般的になった状況をミュージシャンとしてはどう感じていますか?

ヤマモト:CDが売れない、ということは、数字にも表れていますし、何より、僕ら自身もサブスクを利用してCDを買わなくなっているので、自分が買わないものを、お客さんに買ってほしい、というのは違うな、とも思います。僕らの年代はまだギリギリ90年代のCD全盛期のころを知っていて、それだけにCDを作ることに思い入れはあるんですけど。

それにCDを買ってもらうことは、ミュージシャンの目的ではなく、音楽を聴いてもらうという目的のための手段の一つだと思っていて。その手段が変わってきているだけだとも思うんです。

サブスクリプションとかの定額制サービスや、YouTubeやSNSとかの個人で発信できるものが増えていることは、音楽を聴いてもらえるチャンスが昔より増えた、とは思っています。

阪井:確かに、自分たちのファンだけが手にしてくれるCDよりも、サブスクの方が聴いてもらえる機会は増えたと思います。

ただ自分自身のこととして考えると、僕らの世代ってすごく中途半端というか。デビューしたころには、CDがめちゃくちゃ売れるという時代は終わっていたけど、最近の人たちみたいにSNSで話題となって注目されるようになったわけでもない。これからどうしていけばいいのだろう、と悩むことはあります。

いい曲を書いたから売れる、という時代でもないから、嫌だけど売れてる曲に寄せた方がいいのかな、とか。自分たちらしいってどういうことなんだろう?と、葛藤もあります。

ヤマモト:今、バンドという定義自体が曖昧になっているとも思うんです。音楽をやる人たちの集合体ではあるけど、ほとんどのバンドが音源には生楽器ではない音を使っている。それって“バンドサウンド”ということに固執していない、ということで。

阪井:それに、日本はまだあるけど、世界的にはバンドサウンドの曲が少なくなってきているから、今の流行りに影響されているのもあって。結局、自分もバンドサウンドの曲をあんまり聴かなくなっているし。

ヤマモト:昔はCDショップに行って、試聴して、一生の宝物を見つけるみたいな感覚で音楽を聴いていたけど、今はデパ地下で試食をするかのように、ちょっと気になったら試せるので。一口食べて美味しくないと思ったら、すぐに次っていう感じ。なんとなく気に入った程度のものを買い物かごに入れていく感覚ですね。

――裏を返せば、自分たちの曲もそういう感覚で聴かれている、ということですよね。

ヤマモト:そうですね。ただ僕としては、扱いはどうでも良くて、結局、どのくらいの人が聴いてくれたか、という方が重要です。CDが全く売れなかったとしても、100万人に聴いてもらえる方が価値はある。だからどういうふうにすれば聴いてもらえるのか、というのは考えます。

コロナ禍が収束=すべて元通りではない

――まずはコロナの状況が落ち着き、ライブができるようになることが、今、一番望むことですね。

阪井:そうですね(苦笑)。もう少しの辛抱かな、とは思っています。

ヤマモト:ただコロナが落ち着いたからといって、すべてが元通りにはならないとも思うんです。特によくライブに行っていた人とかは、これだけ行けない状態が続くと、逆に行かなくても生きていける、という感覚になった人もいると思うんです。

だからこそ、今、flumpoolがツアーをしているのは、僕からするとお客さんへのけじめを全うしているというか、活動している姿を見せ続けているのはすごく大切だと思っています。

僕らミュージシャン側としても、「コロナが終わったら会おうね」じゃなくて、音源をこれまで以上に頻繁に出すとか、ファンクラブコンテンツを充実させるとか、やれることはやっておかないと。何となく連絡を取らないでいたら疎遠になってしまった友達みたいにならないように、コミュニケーションを怠らないことも大切だと思います。

あとは僕の場合はオンラインサロンをやっていたことは、大きかったです。ライブができない今、お客さん側にいる人と一番コミュニケーションが取れているのが、サロンの場です。

オンラインサロン「おとなり」の始まりは?

――ここからはオンラインサロンのお話しを聞かせてください。2019年7月からスタートしていますが、はじめようと思ったきっかけは?

阪井:バンドが活動休止しているとき(2017年12月~2019年1月まで。ボーカル・山村の喉の不調のため)に、シンタロウがオンラインサロンをやってみたい、という話をしていて。僕もバンドが休止していて、何か新しいことに挑戦してみたい、と思っていたので、いいな、と。

あと、僕もシンタロウも違うバンドを組むとか以外で、何か音楽に携わることをしてみたい、と思っていたので、まさにそこにハマった感覚でした。

ヤマモト:一生に話す前にも何人かに話してはみたんです。けど、大体は「何それ?」「得体の知れないものはやりたくない」みたいな反応が多くて。

でも一生に話をしたときは、まず「それ、面白いやん」って言ってくれて。もともと僕も一生もわりと新しいもの好きなところがあって。お互いにミュージシャンが音源を作る、ライブをする以外でやれることないのかな? もっと違う活動方法があるんじゃないか? これまでのやり方に縛られたくない、と思っていたのが良かったのだと思います。

――そこから立ち上げまではどのように進みましたか?

阪井:とりあえず週4くらいで会ってたな(笑)。雑談の延長で「こんなんできたらおもろいな」っていうのを話していくなかで、いくつかピックアップして。あとは、それについて知っていそうな人に話を聞いてみるとか。

ヤマモト:ミュージシャンが音源を作る、ライブをする以外でやれることはないのか?と言いましたけど、リスナー側も音楽を聴いて、ライブに行く以外の音楽的な活動ができるんじゃないか、と。

オンラインでこれだけ繋がれる世の中になりましたけど、意外と音楽好き同士での繋がりってないんです。SNSで繋がって、その場では仲良くなっても、そこから先があんまりない。

だから、好きなものが一緒の人たちが集まれる場所を作りつつ、僕らもそこでこれまでのアーティスト活動に縛られないことをやってみよう、くらいの感じで動き始めました。

阪井:やってみて思ったのは、オンラインサロンは、僕らとサロンメンバーの距離感がすごく近くて、一緒に夢を叶えていく、みたいな関係なんです。僕はこういう距離感が今っぽくて面白いな、と感じています。

――ファンとの距離が近くなると難しくなる部分もあるのでは? 

ヤマモト:サロンメンバーになるためには、お金を払わなくてはいけない(現在、おとなりサロンは月額税込み1000円)ですし、それなりのルールもある。それを理解した上で、かつ自分たちがやりたいことがあって集まった人たちなので、いわゆるファンっぽいというか「好きです!」みたいなDMをひたすら送ってくる人とかは、まったくいないです。そこはみんな分かった上で、参加してくれています。

オンラインサロンで実際に行われていることは?

――実際にはどんなことをしているですか?

ヤマモト:企画が立ち上がって、やり切ったら終わっていくものもあるんですけど、例えば、コロナ禍になってからは月一で生配信をしています。あと、コロナ前は音楽業界で働いている人をゲストに呼んで、その人がどんな仕事をしているのかを僕らと一緒に話してもらうゲスト講義とか。会員制のコミュニティということもあって、普段は聞けない裏話とかもしてもらっていました。

――ゲスト講義はどんな意図でやっているのですか? 

ヤマモト:もちろん音楽業界で働きたい、と考えている人に対してもありますけど、単純に音楽が好きな人だったら、その裏側も知りたい、と思うかな、と。実際に自分が行っているライブで、こういう仕事の人が、こういう働きをして、それでこういうステージができているんだ、とわかると、いつもとは違う側面から音楽を楽しめると思んです。

――他にはどんな企画がありますか?

阪井:「音楽談義」と言って、僕ら2人がメンバーからの質問にNG無しで答えるという企画があります。そこだと普段のメディアでの取材などでは言えない、本音を話すこともあります。

ヤマモト:あとは、サロンメンバーにサロンのロゴをデザインしてもらったり、フライヤーやグッズを作ってもらったり、とか。

こういうことってプロにならないと、そもそもできる場がないと思うんですけど、サロン内であれば、素人で趣味の範囲内でやっている人でも、とりあえずやってみよう、と言って形にすることができるんです。

阪井:コロナ禍になって、オンラインであることがより武器になったとは思います。リアルには会えないですが、月一の生配信では、コメントを読みながら会話もしていますし。なかなかお客さん側の意見を直接聞く機会もないので、「みんなはそんな風に感じているんだ」ということがわかって面白いです。

ヤマモト:生配信の他にも、メンバーが動画を作って投稿したり、サロン内でのオンラインレッスンが流行ったりもしました。絵が得意な人がイラストの描き方を教えます、とか。

阪井:あるテーマについて詳しい人がオンライン上で集まって話して、それを配信する企画は好評でした。例えば、フェス好きな人が、その魅力を語り尽くす。逆に出演している僕らが知らない情報とかもあるんですよ。それをサロン内で配信して、まだフェスに興味がない人に知ってもらうとかもしています。

ヤマモト:あと、ついこの間あったことで言うと、flumpoolのテレビ出演のときに、(ベースの尼川)元気が出られなくなって、僕が変わりに出る機会があって。その裏話を2、3日後にはサロンでしました。そういうスピード感があるのもサロンの良さですね。

阪井:そもそもそんな裏話はサロンがなかったらすることもないし。そういう普段のバンド活動だけでは話さないようなことを話せるのも魅力です。クローズドな空間だからこそ、話せることはたくさんあります。音楽業界の都市伝説を聞きたい人はぜひ(笑)。

メンバー発信の企画がSDGsを考えさせるきっかけに

――最近、力を入れている企画はありますか?

ヤマモト:もともとサロンメンバーの発案で、使えなくなったドラムスティックを使ってお箸やスプーンなんかをDIYで作る企画があったんですけど、それをもう少しきちんとさせて、商品にできるようにというのを進めています。

環境問題とか、SDGs(エスディージーズ)とか、僕らはもともと興味があったわけではないんですけど、この企画から考えるようになって、ゆくゆくはそういう音楽廃材を使ったもので、他のアーティストなどとコラボできたりしたらいいな、と考えています。

――運営をしていて大変なことは?

ヤマモト:もちろんコミュニティを運営するのは大変です(苦笑)。いろんな企画があって、それぞれの担当とやり取りして、頭がパンクしそうになることもあります。オンラインなだけに、メンバーもそれなりの人数がいるので、さすがに二人ですべてをやるのは無理です。でも、そこは逆にサロンメンバーが動いてくれたりもするので、すごく助かっています。

ファンクラブのような形だと、こちらからひたすらコンテンツを提供していく形ですけど、サロンの場合は一緒に動いていくので。僕らはメンバーが動きやすい環境を整えたり、面白そうなところを広げてあげたり、そういうことをしていく役目だと思っています。

――今後、サロンとして目指していることは?

ヤマモト:意外とサロンメンバーがポロっと言ったことが、「それいいね!」ってなってすぐに動き出せるのがオンラインサロンのいいところなので。そうやっていろんなことにチャレンジしながら、一緒に楽しいことを増やしていけたらいいですね。

音楽好きの為のサロン「おとなり」
https://community.camp-fire.jp/projects/view/128720

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。