長崎市には、食を支える生産者の物語が掲載された「食べ物付き情報誌」がある。
地元の生産現場を元気にして、食を守る人たちの姿や思いを伝えたいと、日々奮闘する女性編集長に密着した。

「生産者の思い伝えたい」情報誌の編集長に密着

2021年3月、長崎市現川町の小さな分校で、食料品などの販売イベントが開かれた。

ながさき食べる通信 森田優子編集長:
これ、ちゃんと洗っているから大丈夫よ。甘いやろ?ママのお土産に是非どうぞ

長崎市現川町で開かれたイベント
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客に声をかけているのは、森田優子さん(44)。
情報誌「ながさき食べる通信」の編集長だ。

この日、森田さんは取材を通じて知り合った生産者と一緒に、会場を訪れた人たちにその商品を販売していた。

購読者:
(生産者の)作物を作る努力とか、そこに至るまでの経緯を読ませていただいて、素晴らしいなと。それを販売という形に持って行くシステム。いつもおいしくいただいています

ながさき食べる通信 森田優子編集長:
(生産者が)自分たちの苦労だったりとか、裏側の苦労を伝えるのはなかなか難しい。それをお手伝いするのが私たちの雑誌

“食材も届く”情報誌で地域の役に

「ながさき食べる通信」は、食の作り手を特集した情報誌と収穫した食べ物をセットにして、購入者のもとに2カ月に1度届けている。

ながさき食べる通信

情報誌には、生産者の思いのほか、レシピや食育に関する情報などを盛り込んでいる。

森田さんは長崎市茂木地区の農家に生まれ、大学卒業後は大手スーパーマーケットで20年間勤務した。

しかし、転勤続きの生活に疲れ、2年前に退職。
実家に戻り、その年の11月に「ながさき食べる通信」を創刊した。

生産者の苦労や努力を伝えたい

ながさき食べる通信 森田優子編集長:
定期的に(実家に)帰っていた時に見ていたので。それは自分の父親もそうでしたけど、(地元の)特産品だったりとか、その地域が衰退していくのを見ていたのは大きいですね。長崎に帰って何か仕事をするときは、地域の役に立ちたいなと思っていました

こだわりの卵「ぜひ広めたい」…生産者の思いを繋ぐ

森田さんは、生産者との交渉から取材、執筆、紙面の構成まで手がけている。
この日はカメラマンの仲地俊裕さん(50)と一緒に、西海市の松本養鶏場の取材に向かった。

交渉・取材・執筆・構成まで手がける

養鶏場の三代目・松本英樹さん(44)は、19年務めたシステムエンジニアの仕事を退職し、安心して食べられるおいしい卵を作りたいと40歳で家業を継いだ。
鶏を地面に放して飼う「平飼い」という飼育法に力を入れている。

松本養鶏場 長崎県西海市

ながさき食べる通信 森田優子編集長:
松本さん、ここのニワトリ若いですか?

松本養鶏場 松本英樹さん:
いや、絶食明けなんですよ。毛が生え変わって、すごくツヤがいいんですよ

ながさき食べる通信 森田優子編集長:
毛がいい色しているんで

松本養鶏場 松本英樹さん:
今、一番きれいな状態

ストレスを下げることで良質な卵ができる

本来の習性に沿って自由に動き回らせて、ニワトリのストレスを下げることで、良質な卵を作ることができる。
さらに、緑茶を混ぜた独自のエサと、野菜や自然の草花を刻んで与えるのも松本さんのこだわりだ。

松本養鶏場 松本英樹さん:
うちの卵、特別こだわって作っていますので、是非広めていただきたいなというところが思いとしてあります。
農業って国の根幹なので、それが生産して利益を得て、生活できるというのが示せないと、誰も(農業を)やりたがらない。それをきちんと示すことが、我々世代の使命で、次に引き継いでいくことも我々の使命。
昔ながらの方法だけじゃなくて、いろんな方法を使ってお客さんにアピールできればと

ながさき食べる通信 森田優子編集長:
おいしい卵になるためには、エサの重要性が8割とおっしゃっていたので、エサに対する工夫とか、すごく勉強されているなと思いました

 

「生産者の思想・考え方を伝えていければ」

2021年4月、森田さんは南島原市南有馬町に足を向けた。
情報誌と一緒に届ける食べ物が生鮮食品の場合は、生産者のところで箱詰めする。
この日は森田さんが取材したトマト農家、近藤裕子さん(41)の自宅が作業場だ。

箱詰めは生産者のところで

近藤さんは、葉物野菜を扱う専業農家の長女で、400haの大規模農業を営む父親の背中を見て育った。
就農して19年、一度食べたらクセになるようなおいしいトマト作りを目指して、日々奮闘している。

森田さんは、近藤さんの人柄と、トマト栽培にかける情熱に惹かれた。
「ながさき食べる通信」のラストに、森田さんが近藤さんへのエールを込めて記した言葉は…

【「ながさき食べる通信」 2021年3月号より】
父は、来年70歳を機に引退を考えている。
今の倍以上の規模になるが、引き継ぐつもりだ。

農業経営やトマト栽培、夫婦の関係、子育てと、まだまだ、何が「正解」かは分からない。
この先に果たして「正解」があるのかも、分からない。

しかし、父たちが作り上げた農業の在り方から学び、夫や仲間たちと手を携えて、1つずつ、目の前の課題や困難を乗り越えていけると確信している。

近藤裕子さん:
(森田さんから)いろんなことを聞いていただいて、自分の中でもこれまでの自分の生き方だったり、選択だったり、そういうことを改めて見つめ直すきっかけになって、すごくいい時間を過ごすことができたなと

森田優子さん:
(食べる通信を)一番いい状態で読者さんにお届けするためにはどうしたらいいかというのを、それに真摯(しんし)に応えていただける近藤さんに感謝しています

森田さんは、「ながさき食べる通信」を通して多くの人に「長崎の食」に目を向けてほしいと考えている。

森田優子さん:
今までの経験や苦労も含めて、それをバネにして(生産者が)先を見ているということは、1次産業の未来はすごく明るいと思います。
私も知らないことだらけなんですけど、1つ1つ丁寧に教えていただいて、より彼ら、彼女らの思想だったり考え方を伝えていければと思っています

森田さんは生産の現場を歩き、生産者と向き合いながら、これからも新しい食の世界を読者に届けていく。

(テレビ長崎)