名古屋市内の入管施設で今年3月スリランカ人女性のウィシュマ・サンダマリさん(享年33歳)が亡くなった。その後出入国在留管理庁(以下入管)は死に至る経緯を調査し4月に中間報告を公表したものの、遺族や支援者側は収容施設の監視カメラ映像の早期開示を求めている。来日しているウィシュマさんの2人の妹、ワヨミさんとポールニマさんに都内で取材した。

「真実を明らかにするため大丈夫です」

ウィシュマさんは2017年6月留学生として来日したが、同居していたスリランカ人男性からDVを受け2020年8月交番に保護を求めた。その際在留資格を失っていたため入管施設に収容されたウィシュマさんは当初帰国を望んだが、その男性から脅迫まがいの手紙が施設に届いたことなどから在留を希望。2021年1月頃から体調を崩し飲食が出来ず嘔吐を繰り返し自分で歩くことも出来ないほど衰弱したが、仮放免されることなく施設内で亡くなった。中間報告ではこの間適切な医療が行われたのかなど、いまだ多くの不明な点がある。

これまでワヨミさんとポールニマさんは、記者会見など公の場で真相究明を訴え続けてきた。インタビューの冒頭、筆者から「あらためて同じことを聞くこともあるかもしれない」と断ると、ワヨミさん(28)は「真実を明らかにするための活動なので大丈夫です」と答えた。

ウィシュマさんの妹・左が次女のワヨミさん、右が三女のポールニマさん
ウィシュマさんの妹・左が次女のワヨミさん、右が三女のポールニマさん
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寝ていても姉の遺体が浮かんでくる

――スリランカから先月1日に来日されて1ヶ月がたちましたが、いま日本に対してどんな気持ちをもっていますか?

ワヨミさん:
姉(ウィシュマさん)から「日本は素晴らしい国だ」と何度も聞かされたけど、日本に着いたときは怒りと嫌悪しかありませんでした。しかし来日後皆さんが一生懸命協力してくれ、お葬式に参列された方々は心から悲しんでくれました。「自分の国でこういうことが起こったのはとても恥ずかしい」「お姉さんをこんな目に遭わせてごめんなさい」と言ってくれたのを聞いて、本当に心の温かい方々だと思いました。

妹2人は来日後14日間の自主隔離期間を経て、ウィシュマさんの遺体と面会した。3月6日に亡くなってから2ヶ月以上が経っていた。

生前のウィシュマさん(ご遺族提供)
生前のウィシュマさん(ご遺族提供)

――初めてご遺体と面会したときどんな気持ちでしたか?

ワヨミさん:
言葉で言い表すことが出来ないくらいショックを受けました。いまでも寝ていて姉の遺体が頭の中に浮かんできて、悲しみに落ち込んでいます。

ポールニマさん(26):
姉の遺体を見たときに、「どうやってお母さんに伝えようか」と思いました。いまもまだ母に写真を見せていませんし、帰国後母にどうやって報告しようか2人で悩んでいます。

入管施設は防空壕のようで非人道的に感じた

――ウィシュマさんが亡くなった入管施設を訪れてどんな印象でしたか?

ワユミさん:
施設はまるで防空壕のようでした。姉が亡くなった部屋まで鉄の扉を何回も開けながら入っていき、並んでいる小さな部屋の奥の方に姉のいた部屋がありました。部屋は車いすが入れないくらいの狭い部屋で「こんなところでお姉さんがどういう気持ちでいたのか」と思うと悲しくなりました。とても病人がいるような場所ではなく、非人道的に感じました。

――名古屋の入管職員の印象は?

ワユミさん:
対応が非常に悪く怖かったです。何を聞いても「できない」「わからない」「何か欲しければ東京からもらいなさい」というだけでした。この人たちはお会いしてきた他の日本人とは全く違うと思いました。

「名古屋入管施設は病人がいるような場所ではなかった」
「名古屋入管施設は病人がいるような場所ではなかった」

法務大臣は「同い年の娘がいる」と泣いた

――名古屋の入管を訪問後、東京で法務大臣と入管庁長官に面会しましたが、どのような印象でしたか?

ワユミさん:
面会のとき大臣は「自分にもお姉さんと同い年の娘がいる」といって泣きました。もしそうであれば私たちの母の気持ちもわかるはずですね。しかし私たちが求めていたことへの答えはまったくありませんでした。面会は本当に無駄な時間でした。私たちは個人的な理由で会う必要はありません。事務的な対応を望んでいたのに一切なかったのです。

――大臣からは謝罪の言葉はありましたか?

ワユミさん:
悲しいと言われただけで、謝罪はありませんでした。私たちから「謝罪する気持ちはありますか」と聞くと、「いまはまだ調査中なので、もし自分たちに間違いがあれば謝罪するつもりです」と。会話の中で私たちは、大臣は誰かのせいにして自分の保身を考えていると感じました。

上川法相(5月19日めざましニュースより)
上川法相(5月19日めざましニュースより)

カメラ映像を自分の目で見て確認したい

――中間報告ではウィシュマさんの死因が明らかにされておらず、7月に公開される予定の最終報告書を待つことになります。この報告書が出るまで日本にいらっしゃいますか。

2人:
スリランカにいたとき日本政府の対応が不十分だったので日本に来ました。しかし日本にいても対応は変わりません。ここで帰国したら間違いなく対応しなくなると思います。私たちは母に真実を持って帰国したいのです。

――収容施設の監視カメラ映像について、親族が見るのは辛い映像かもしれませんが、それでもご覧になられたいですか?

2人:
最終報告書はまったく信用できないものが出てくると思います。だからカメラ映像を自分たちの目で確認したい。姉の姿を見るのは非常に辛いですが、それを見て母に伝えたいのです。

法相との面会後会見をするワヨミさんとポールニマさん(5月19日めざましニュースより)
法相との面会後会見をするワヨミさんとポールニマさん(5月19日めざましニュースより)

入管で何が起きたかを公表し再発防止を

――最後に日本に対するメッセージをお願いします。

ワヨミさん:
まず今回のことについて多くの日本人が協力してくれています。これには言葉に表せないくらい感謝しています。

一方で、入管の施設が人を死なせる場所であってほしくないのが私たちの願いです。入管というたった1つの機関のために、日本が世界から非難される。入管で何が起きたのかを直ちに公表して、二度と起きないようにしてほしいです。

――ありがとうございました。

名古屋入管は映像に「保存期間がある」と示唆

国会で6月4日に行われた難民問題に関する議員懇談会で、事務局長の石川大我参議院議員は真相究明をあらためて訴え、監視カメラ映像の公開をこう求めた。

「名古屋入管にヒヤリングした際に、内規で映像には保存期間があることを示唆していた。まさか廃棄はしないと思うが引き続き情報公開を強く求めていく」

中間報告のファクトチェックを行った駒井知会弁護士は、会合の中でこう語った。

「中間報告は入管庁職員が調査し、その後調査に第三者が加わりましたがいずれも入管庁が選んだメンバーです。中間報告にはウィシュマさんを診断した医師による『診療情報提供書』に書かれていた“仮釈放をしてあげれば良くなることが期待できる”という見解が記載されていません。また外部病院の診療録に“内服できないのであれば点滴、入院”と記載されているにもかかわらず、中間報告では“点滴や入院の指示がなされたこともなかった”と記載されているなど信用性が疑われます」

難民問題に関する議員懇談会。左端が事務局長の石川大我参議院議員
難民問題に関する議員懇談会。左端が事務局長の石川大我参議院議員

死は起こるべくして起こったのか

またこの会合で、遺族の代理人の指宿昭一弁護士は、法務省の姿勢にこう疑問を投げかけた。

「法務省は映像公開を拒否する理由を当初は死者の尊厳といい、次は保安上の理由に変えた。しかしこれまで施設内の映像を公開していたことを指摘されると、今度は“日本は法治国家であるから”ともはや理由にならなくなっている。中間報告では解剖が終わっているのに死因が特定されてなく、解剖所見の公開を求めていく。最終報告書は7月に公開されない可能性もあり、そんなことは許されない」

難民懇に参加した指宿昭一弁護士(左)と駒井知会弁護士(右)
難民懇に参加した指宿昭一弁護士(左)と駒井知会弁護士(右)

「死は起こるべくして起こった」と指宿氏は語る。

国連より国際人権規約に反すると意見書を突きつけられている日本の入管制度。入管はウィシュマさんが死亡した経緯を徹底的に調査し、再発防止と抜本的な制度改革を行う時期がきたのではないか。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。