途上国の人口の30%にワクチン供給を 191カ国・地域が「COVAX」に参加

菅首相は6月2日、発展途上国などに新型コロナワクチンを公平に分配するための国際的な枠組み「COVAX(コバックス)」に関するワクチンサミットを、予防接種の国際団体「Gavi(ガビ)」との共催の形でオンライン開催した。

この国際的ワクチン供給の仕組み(COVAXファシリティ)は、高・中所得国(日本、EU各国、カナダ、豪州、中国、韓国等の98の国・地域)が自ら資金を拠出し自国用にワクチンを購入する枠組みと、国や団体等からの拠出金により途上国(92の国と地域)へのワクチン供給を行うGaviの枠組みを組み合わせたものだ。

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この中の「途上国向け枠組み」に関しては、2021年中に世界の途上国の人口の30%へのワクチン供給、すなわち18億回分のワクチン接種回数を提供するために約83億ドル(約9000億円)を集めることを目標としている。外務省によると、5月30日の時点でアメリカ・ドイツ・イギリスなど36の国と地域から合計70億ドルの資金が集まっていたが、不足する約13億ドルの資金を集めるべくGaviから日本が要請を受け、日本とGaviの共催という形で開かれたのが今回の「COVAXワクチンサミット」だ。

ワクチンサミットをGaviと共催した菅首相とアメリカから参加したカマラ・ハリス副大統領(2日・内閣広報室提供)

菅首相 8億ドルの追加拠出を表明「ワクチンという希望を一人でも多くの方にいち早く、公平に届けたい」

会議にはオンライン形式で約40の国と地域が参加した。アメリカからはハリス副大統領、EUからはフォンデアライエン委員長、民間からはビル・ゲイツ氏などが参加し、それぞれがCOVAXへの貢献について表明した。

菅首相はこの場で、日本政府としてすでに拠出している2億ドルに、新たに8億ドルを追加し、合計10億ドル(約1100億円)を拠出することを表明し、「ワクチンという希望を世界中の一人でも多くの方々にいち早く、そして公平に届けたい。こうした思いで私は決断した」と語った。さらに、今後日本国内で製造されるワクチンについて、環境が整った段階でおよそ3000万回分をCOVAXなどの枠組みを通じて各国に供給していく考えも合わせて示した。政府は先日、国産のワクチン生産の戦略をまとめたばかりだが、将来的な方針を国際会議の場で表明した形だ。

その上で菅首相は「18億回、途上国の人口の30%分のワクチン供給という大きな目標は一国で成し遂げることは出来ない。支援の輪が広がっていくことを期待する」と参加各国に呼びかけた。

なぜ日本がGaviの共催国に?前回のアメリカから引き継いだ背景

この会議を通じ目標の83億ドルを大きく超える金額が確保され、終了後に菅首相は「大きな目標を達成できた」と意義を強調したが、この会議を日本が主催することになったのにはある背景があった。

今回のような途上国へのワクチン供給費用を集めるための会議は初めてではない。4月にはGaviとアメリカの共催で「COVAXファシリティ増資準備会合」が開催され、日本からは茂木外相がビデオメッセージを寄せた。つまり今回のサミットは日本がアメリカから引き継いで開催した形だと言える。

実はファイザーという巨大製薬会社を擁するアメリカは、COVAXに参加する191の国と地域の中で唯一、自らはワクチンの供給を受けず、ワクチンと資金の提供をするだけの立場だ。また5月30日時点でのCOVAXへの拠出金額も約25億ドルと他国の2~3倍を拠出するなど飛び抜けた存在である。そのアメリカが会議を主導するのはわかるが、ワクチンの国内生産もまだで、海外から供給を受ける側の日本がなぜ今回、Gaviから要請を受けてサミットを共催する運びとなったのか。

加速する中国のワクチン外交 途上国へのワクチン供給にも対中意識の姿勢にじむ

政府関係者はその理由について「日本なら各国と調整をとって呼びかけてくれるだろうというGaviからの信頼と期待の表れだ」と語った上で、狙いはアメリカとGaviの会議を日本が引き継ぎ、6月11日のG7首脳会議につなげて行くことだと明かす。そこには中国が展開するワクチン外交に対して日米が共有する警戒感があるようだ。

COVAXは基本的にワクチンが足りていない途上国を優先して順次供給していく仕組みであり、特定の国に対してワクチンを個別に提供するという枠組みではない。一方、中国はCOVAXの途上国向けワクチン提供の枠組みには参加せず、中国国有の製薬会社「シノファーム」が開発したワクチンを途上国などに供給する独自のワクチン外交を自由に進め、途上国への影響力向上を狙っている。

政府関係者は「中国が独自のワクチン外交を展開し途上国へのプレゼンスを示している中、日米もCOVAXを通じてプレゼンスを示す必要があった」と今回のサミットの背景を分析する。それゆえ、「今回のワクチンサミットをG7首脳会合につなげていく事が狙い」という言葉の真意は「G7各国と中国のワクチン外交への懸念を共有することが狙いだ」と言い換えることが出来るだろう。

尖閣・台湾・香港・新疆ウイグル・ワクチン…G7サミットでも対中が主要テーマに

イギリスのコーンウォールで6月11日から13日まで対面で開催される予定のG7サミットでは、新型コロナへの対応のほか、世界経済、気候変動など議題は多岐にわたる。その中で多くの関係者が「中国への対応については必ず議題に上る」との認識で一致している。

それを裏付けるように、5月27日に行われた菅首相とEU首脳のテレビ電話協議では、海洋進出を進める中国を念頭に「包摂的で、法の支配及び民主的価値に基づき、威圧によって制約されることのない、自由で開かれたインド太平洋に向けた協力を強化する」ことで一致した。また「東シナ海及び南シナ海における状況を引き続き深刻に懸念し、現状を変更し、緊張を高めるあらゆる一方的な試みにも強く反対する」ことや「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、両岸問題の平和的解決を促す」との認識も共有している。

その翌日28日に行われた菅首相と今回のG7の議長を務めるイギリスのジョソン首相との電話会談では「途上国への公平なワクチン供給のため協力していくことを確認」したほか、「イギリスの空母打撃群のインド太平洋派遣など自由で開かれたインド太平洋の実現に向けての緊密な連携」も確認するなど、菅首相は各所と中国に対する認識を共有し、G7に向けた布石を打っている。

ただ政府関係者は、「フランス、ドイツ、イタリアなどG7の構成国もEUも、中国に対しての懸念を強く持ち始めている」と指摘する一方、中国に大量の国産車を輸出しているドイツなどを例示し「中国との関係性に濃淡のあるG7がどこまで中国への対応で一致できるかは不透明」とも分析する。

本来、世界的なコロナの危機を乗り越えるためにはワクチンの供給を外交の手段にすべきではなく、駆け引きなしで途上国にもワクチン供給を進めることが望ましいことは言うまでも無い。しかし中国の外交戦略的な動きが強まる中で、日米がCOVAXをリードしていくことで国際社会にメッセージを発信することが重要であったと言うことだろう。

沖縄県の尖閣諸島への領海侵入などの海洋進出、台湾の防空識別圏への侵入、香港や新疆ウイグル自治区を巡る人権問題、そして途上国へのワクチン供給など、各分野での中国を巡る動きが、国際社会における議論の中心になっている。コロナ禍で初めて対面で開催される予定のG7で菅首相がどう存在感を発揮し、中国への一致した取り組みを主導できるか、注目が集まる。

(フジテレビ政治部 亀岡晃伸)