全国でも珍しい「公設民営」の夜間中学
高知市には、夕方になると小学生から高齢者まで集まる、一風変わった「夜間中学」がある。
不登校や学習障害などを抱える“生徒”たちと、その居場所を守る代表の男性を取材した。
高知市・朝倉第二小学校の校庭の一角にある平屋の建物は、民間が運営する「朝倉夜間中学」だ。夕方になると、子供たちが集まってくる。

運営するのは、山下實さん(66)だ。盲学校を卒業後、鍼灸師として働きながら、この夜間中学を設立。23年間、“生徒”たちの面倒をみている。

山下實さん:
表情がいいでしょ。子供たちの表情がね。これら一期生の子ら

朝倉夜間中学は、山下さんたちが高知市に働きかけ、朝倉第二小学校の施設の一部を利用する形で開設された。

運営費用は、市からの補助で賄っているが、山下さんは、無報酬で代表を務めている。
自治体が開設し、民間のボランティアが運営する「公設民営」の夜間中学は、全国でもほとんど例がない。

「夜間中学」と名はつくものの、通っている約30人のうち、半分が小学生だ。
中には高齢者の姿もあり、学びたいという気持ちがあれば、誰でも通うことができる。

不登校の児童の「居場所」をつくる
山下實さん:
よう来たねえ。こっちおいで
すずちゃんの母親:
じっちゃん(山下さん)に言うことは? 今日の言うこと
山下實さん:
通知表もろうてきた? ねえねえ、座って座って
小学4年生のすずちゃん(仮名)。

小学校に上がる前から、時々ここに通っていたが、学校で人と関わるのが難しく、コロナ禍で学校が休校になってしまったこともあり、この1年ほどは不登校に。たまに登校できても、保健室までが精いっぱいだ。
山下さんが話しかけるが、言葉が出ず、表情もこわばったままだった。
山下實さん:
1週間どうしよったが? おうちにおったが?

すずちゃん:
ん~
山下實さん:
迎えにも行くんですよ、時々、朝。行こうやと言って。結局、家庭へ行かんと、子供の環境ってのは見えてこないから。行ったら、やはり親子の関係とか、きょうだいの関係とかいうのがわかってくる。できる範囲でやるようにはしてますけどね

不登校の児童・生徒が朝倉夜間中学に来ると、その日は登校扱いになる。

これまでに卒業したのは300人ほど。子供たちが抱えている問題は様々だ。
すずちゃんの姉(高校生):
窓ふきをしてます。妹と分担しながら。もうちょっと身長が欲しい
少しでもすずちゃんに家の外へ出てもらおうと、山下さんが考えたのは、掃除のアルバイトだ。きちんとできると、お小遣いが出る。
こうして子供たちに役割を与えることで、「居場所」をつくっている。

「同じ境遇の子をほうっておけない」
常に子供たちを気にかける山下さん。その原動力は、子供時代にあった。
山下さんは、生まれつき視力が弱く、右目がようやく見える程度で、左目はほとんど見えない。

盲学校に通っていたころ、理不尽な扱いも受けたという。
山下實さん:
僕も子供のころに、周りのもんに裏切られたり、からかわれて学校によう行かんなったり、犯人扱いされたりしたことあるから、ほうっておけんのよね、同じ境遇の子を

山下實さん:
(すずちゃんが)だんだん、だんだん明るくなってきよるというか、表情が良くなってきたね。以前は、ほんとに暗い感じの子やったけど、今は表情明るいですもんね

山下實さん:
そんなに慌てることはない。じっくり、じっくり。あの子のペースで変えてあげたらいいんやけど
すずちゃんはこの春、5年生になった。しかし、不登校の状態は続いている。
慌てなくていい。ゆっくり、その子のペースで。
山下さんのまなざしの先に、一歩踏み出そうとしている女の子の姿があった。
(高知さんさんテレビ)