自民党は昨日LGBT理解増進法案について議論したが、党内の保守派から慎重論が出て法案の了承は見送られた。会合後山谷えり子参院議員が語ったトランスジェンダーに関する発言に、当事者側から異論が噴出している。
法案に反対する有志の会のメンバーで、当事者でもある一般社団法人fairの代表理事の松岡宗嗣さんに話を聞いた。
この記事の画像(4枚)オリパラ前に国際問題レベルの発言
山谷議員は昨日の会合後、記者団に向かってこう語った。
「アメリカなどでは、学校のトイレでいろんなPTA問題になったり、女子の競技に男性の身体で心は女性だからと競技参加して、いろいろメダル取ったり、そういう不条理なことがある」
――山谷議員の発言についてどう受け止めたか?
松岡さん:
トランスジェンダーの実態を無視し、当事者の尊厳を貶める悪質な発言だと思いました。コロナ禍のいま、オリンピック・パラリンピックの開催を強行しようとしている国の与党議員がこのような認識でいることに本当に驚いています。
東京オリパラにはトランスジェンダーの選手がくる可能性も当然あり、こうした侮辱発言は国際問題レベルではないかと思います。
ソチ五輪のとき、ロシアが同性愛宣伝禁止法を導入し、欧米主要国が開会式を欠席するなど国際的に批判されたことがありました。このような認識でオリパラを開催するのは本当に意味が分かりません。
――発言の中では「女子の競技に男性の体で心が女性だからと競技参加してメダルを取った」と。
松岡さん:
スポーツといっても、具体的にどういう状況なのか、競技大会レベルなのか学校教育のレベルなのかで状況は異なります。そもそもトランスジェンダーの当事者は、スポーツから排除されている状況です。スポーツは本来みんなが楽しめる場であるべきだと思います。
もちろん競技においての公平性は重要なので、日本スポーツ協会もガイドラインを策定していて、各競技連盟においてもトランスジェンダー女性の参加資格をどうするかなど議論が行われています。しかし、山谷議員の発言はそういった議論や実態を踏まえず、排除ありきの発言となっています。
トイレの性暴力は性自認と関連がない
――山谷議員はトイレに関する発言もしました。
松岡さん:
トランスジェンダーの女性は、法律上の性別や身体的な状況にかかわらず、既に女性トイレを使っている人もいれば、本当は女性トイレを使いたくても使えなくて悩んでいる人もいます。実態としてほとんどの人は自分が周囲からどのように見られるのか、トラブルが起きてしまうんじゃないかと恐れながら使っているのが実態だと思います。
トランスジェンダー女性に対するバッシングの中で、「トランスジェンダー女性を装った男性がトイレに入って性暴力が起きる」という言説がよくあります。
トランスジェンダーを性暴力加害者のように結び付ける言説は明らかに扇動だと思います。性暴力はどんな人であっても許されるものではなく、トランスジェンダーを排除する理由にはならないと思います。
――部会の中では、LGBTに関して「種の保存」に言及する議員もいたそうです。
松岡さん:
LGBTに関する法律を作ろうというときに、種の保存っていう言葉が出てきたとしたら、その時点でアウトだと思います。これは優生思想の問題で、かつて杉田水脈議員がなぜ批判されたのか、何も学べていないということです。
子どもを持てる可能性という点で人の優劣をつけたり排除したりするのは、言語道断のレベルだと思います。こうした発言があったのであればはっきりと否定しないといけないなと思っています。
差別を温存させない法案を求める
――この法案が今国会で成立するか微妙な状況になってきました。
松岡さん:
本来私たちが求めているのは差別的取扱いの禁止です。今回のような発言を禁止する法律ではありませんが、取り扱いを禁止することで被害者を守れるし、そのうえでこうした差別発言の防止にも繋がると思います。
しかも、今回議論されている法案は、理解を広げる中で、差別は許されないと認識するという意思を明記したに過ぎないと思います。
しかしこれですら反対をするのは、もはやどうしても差別したいんだという風にしか思えません。自民党の一部議員が差別を温存したいという考えを持つことが露呈してしまったのではないでしょうか。
――ありがとうございました。
【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】