外国人の強制送還などに関する出入国管理法(以下「入管法」)の改正案について、国会で審議が続いている。政府与党は強行採決も辞さない構えだが、難民申請者の支援者や国際法の研究者などから「廃案にするべきだ」との声が上がっている。

日本は「国際的な人権水準」に達していない

「日本の入管収容制度は、(国連の定める)自由権規約や拷問等禁止条約のような人権条約に照らして大きな問題がある」

国際法などを専門とする研究者の有志124人は11日、入管法改正に反対し廃案の可能性も含めた抜本的な見直しを訴えた。

反対する声明文の中では、日本が人権理事会の理事国である以上、恣意的な拘禁が国際人権法に違反するという姿勢は当然自国にも求められるはずだと指摘している。

国際法研究者らは11日廃案も視野に抜本的な見直しを訴えた
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国連では3月にこの改正案について「国際的な人権水準に達していない」と日本政府に指摘した。しかし法務省は「一方的に見解を公表された」として改正案を見直していない。

また国連やアメリカ国務省から、日本は「難民鎖国」と批判されている。

UNHCR=国連難民高等弁務官事務所によると、アメリカの難民認定率は29.6%で認定者数が約4万5千人、イギリスは46.2%で1万7千人、ドイツは25.9%で5万4千人などとなっているのに対し、日本の難民認定率はわずか0.4%だ(認定者数44人)。

「収容の長期化を防ぐため」と法務省

法務省はこの改正の背景を、現行法では国外への退去を拒む外国人を強制的に退去しづらくなっており、それが収容の長期化につながっていることだとしている。

改正案では収容の長期化を防ぐため、収容施設外での生活を認める「監理措置」制度や、難民に準じて在留を認める「補完的保護」を設ける一方で、これまで難民認定手続き中は送還しなかったのを、改正案では3回目以降の難民申請は「送還回避のために申請する者等を送還できる」こととする。

 

「迫害から日本に逃れてきた人たちを、死地に追い返すことを可能にする法律です。いまでいえばミャンマーのような状況の国に送還することになるのです」

都内で6日に行われた入管法改正反対を訴える会見で、こう訴えたのは呼びかけ人の一人、高橋済弁護士だ。

高橋氏は「難民申請を3回繰り返すのは乱用だと政府は言いますが、何回目であれ日本の難民認定率は0%に等しいです。その状況において3回目だから母国に帰ってくださいとはなりません」と強調し、法改正が行われれば「日本が難民保護条約から離脱するのと同じような状況になる」と訴えた。

ウィシュマさんの妹が来日も隔離状態

入管法改正案の採決に野党が応じない理由の1つは、名古屋入管に収容されていたスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさんが死亡した問題で実態解明が行われていないことだ。ウィシュマさんは英語講師になるため2017年に来日したが、学費を払えなくなったことから学籍を失って在留資格を失い昨年8月に収容された。ウィシュマさんは今年1月頃から体調の悪化を訴えたが収容を解かれることは無く3月に死亡した。その間適切な治療が行われたかなどは不明なままだ。

野党はウィシュマさん問題の実態解明求めて採決に応じず(5月12日)

6日の会見ではウィシュマさんの遺体に面会するため来日している2人の妹がオンラインで参加した。彼女たちは1日に既に来日しているが、入管の指示により14日間の隔離となっていた。

彼女たちは「コロナのことで14日間の隔離があってお姉さんに会うことが出来なくてすごく悲しい」といい、ウィシュマさんは「小さい頃から日本のテレビドラマをみていて、日本のことがとても好きになった」と語った。

ウィシュマさんの妹2人(左がワユミさん右がポールニマさん)

「まだ死因すら分からないと言っている」

また「日本のような大国で、責任ある入管でなぜお姉さんにこんなことが起こったのか法務大臣に聞きたい。防犯カメラの映像をなぜ見せてくれないのか。診断書もまだなので、早く出るのを待っています」と訴えた。

関係者の話ではウィシュマさんの母親は、彼女が日本に行きたいと語ったとき、「日本はとても安全な国だから行ってきなさい」と送り出したそうだ。

会見の呼びかけ人の指宿(いぶすき)昭一弁護士はこう語る。

「亡くなったウィシュマさんについて全く真相が解明されていません。まだ死因すらわからないと法務省は言っています。ビデオも遺族に見せないし診断書も無い。中間報告書を出しただけですが、入管の責任は全く明らかにされていません。そもそも責任のあるはずの入管が作った報告書などというものに何の意味があるんでしょうか」

会見の登壇者(後列左から高橋氏、駒井氏、指宿氏)

入管問題を自分事として考える時期

これまで入管では20人以上が収容中に亡くなったといわれている。指宿氏はこう続ける。

「多くの方が亡くなっているのに、いままで一度も真相が解明されず、責任を明らかにされない。だから何度も繰り返されているのです。今度こそ責任をはっきりさせて、二度と繰り返されないようにしなければならない。名古屋入管死亡問題を国会が国政調査権を使ってしっかり真相を調べ、入管の責任を明らかにしなければ法案審議には入れません」

「法務省、入管庁が国際人権法さえ守っていたら、ウィシュマさんは今日も生きて明るい笑顔を見せてくれたのにと思うとやりきれない」

こう語るのは呼びかけ人の駒井知会弁護士だ。

「外国籍、無国籍の人々を人間扱いできない政府は、日本国民も人間扱いすることができません。私たちひとりひとりが弱い立場になった時に、初めてそのことに気付くというのでは遅すぎると思います」

国連から人権違反だと指摘されている制度や法を日本はそのままにしていいのか。入管問題を他人事ではなく自分事として考える時期が来ている。

【表紙画像:生前のウィシュマさん(ご遺族提供)】

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】