すれ違うだけで「お勧めの本」を交換できる。そんなスマートフォンアプリを、ガス会社である「大阪ガス」(大阪市)が開発し、愛好家たちの注目を集めている。

そのアプリの名は、「taknal」(タクナル)。スマホの位置情報を利用し、半径1km以内に他のアプリユーザーがいると、登録した本の情報を感想とともに交換することができる。

すれ違いが本との出会いとなる
すれ違いが本との出会いとなる
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利用の流れは、ニックネームや自己紹介文などの簡単なプロフィールを登録して、アプリ上からお勧めの本を検索し、最大100文字の感想とともに登録するだけ。後はすれ違った他のユーザーの本が、タイムラインで見られる仕様になっている。

アプリ内には「読みたい本」というタブがあり、タイムラインの本をタップひとつで保存することも可能だ。

新しい本と「出会う」、気になった本を「集める」、好きな本を「すすめる」という、3つの楽しみ方がある。

taknalの3つの特徴
taknalの3つの特徴

taknalは2020年12月、iOSとAndroid向けに配信されると話題となり、2021年4月現在のユーザー数は約8万人に。お勧めとして登録された本は約10万冊にのぼるという。

新たなジャンルの本との出会いにつながりそうだが、なぜ、ガス会社が開発したのだろう。ユーザーにはどのような影響が与えているのだろう。大阪ガスの担当者に聞いてみた。

事業開発のきっかけは新規事業創造プログラム

ーーなぜ、大阪ガスがtaknalをリリースした?

Daigasグループでは、新たな事業を創造するため「TORCH(​トーチ)」というプログラムを展開しています。TORCHは、これまでの枠にとらわれず、「社会をこう変えたい。こんな方を笑顔にしたい。」といった社員の想いを拾い上げ、事業という形で世の中に届けることを目指すプログラムです。ワークショップなどで考えたアイデアを全社コンテストにて発表し、入賞したアイデアは事業化に向けて検討を進めていきます。TORCHは2017年から毎年開催しており、taknalは、2018年のコンテストでグランプリを受賞し、開発された事業になります。
※Daigasグループ=大阪ガスのグループブランド
 

ーーtaknalの事業アイデアをどのように思いついた?

taknalは30歳前後の社員5名が発案したアイデアです。漠然と新しい世界に出会う体験を求めつつも、家と職場の往復など変化の少ない日常生活からなかなか抜け出せないという状況を解決したいと考え、自分たちが使いたいサービスを追求しました。ためになりつつ、楽しく継続できるサービスにできないかと考え、「本×すれ違い」というアイデアに行きつきました

アプリの利用イメージ
アプリの利用イメージ

本を介したさりげないコミュニケーション

ーー開発ではどんなところにこだわった?

いくつかありますが、一つは、ユーザー同士が直接コミュニケーションする機能を設けていないことです。ユーザー同士が直接つながり、双方向でしっかりコミュニケーションを取れるのではなく、本を介して非同期的にさりげなくという世界観を重視しました。

また、楽しく継続的に使っていただけるように、タイムラインで確認できる本は、どれだけ多く本とすれ違っても、最大10冊としています。多くの情報を見られることが、「見なければならない」という義務的な感情につながるのではと考え、設計しました。
 

ーーお勧めできる本に条件はあるのか?

現状でお勧めできるのは、書籍の検索サービスである「Google ブックス」に登録されている本のみとなります。ただし、R指定はかけさせていただいております。

読みたい本は登録して確認できる
読みたい本は登録して確認できる

「本を読む」行動につながり始めている

ーーユーザー数が急増しているが、なぜ人気を集めた?

TwitterやHPからいただいたご意見を見ると、他の方とすれ違うことで新しい世界に出会えるという体験、そこから得られる価値に対して、ユーザーさまが一定の評価をしてくださっているのではないかと考えております。大変嬉しく思います。
 

ーー実際の利用者からはどんな反応があった?

「すれ違った人が勧める本の情報を得られるのが面白い」「出かけるのが楽しくなった」など、サービスを楽しんでくださっている反応が多いです。最近では、「本を読んだ」「本屋に行った」というお声も増えてきており、アプリ内だけでなく、実際の行動にも少しずつつながり始めていると感じています。
 

ーーアプリの改善点として思うところはある?

お勧めとして登録できる本を増やしていきたいですね。ユーザーさまからも登録したいけどできないというようなお声をいただくことがありますので。
 

ーーユーザーにはどんな影響を期待している?

まずは本と出会える日常を楽しんでいただきたいです。その上で、「本を読みたくなる」や「自分のやりたいことが見つかる」ような、日常の変化を感じていただけると嬉しいです。将来的には、本の価値や可能性を高め、本によって知が循環・蓄積されていく社会の実現に、少しでも貢献できるような事業を目指したいと思います。

 

taknalは、社員が日常生活の中で感じた想いから生まれたアプリだった。日常生活を大きく変化させることなく、他人の目や反応を気にせずに、気軽に利用できるのは大きな魅力だろう。人生を変える、思わぬ一冊に出会えるかもしれない。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。