特集は、長野県上田市の男性が手掛ける金属の「さび」を用いた芸術「さびアート」です。友人の協力でカフェ兼ギャラリーもでき、「朽ちていくものの美しさ」をさらに広めたいとしています。

上田市にある一軒のカフェ。看板メニューは、ご飯の上にひき肉、レタス、トマトなどをのせた沖縄発祥のタコス風ごはん「タコライス」です。

客:

「さっぱり食べられる味なのが気に入ってて、いっぱい食べられるから恐ろしい」

カフェの名前は「SEKIDO錆作所」。店名に「さび」の文字が使われている訳は、併設のギャラリーをみると納得できます。

さびアーティスト・関戸望さん:

「深い『さび』と若い『さび』で色味が違う。その違いを使って描いていくという技法」

赤褐色の正体は金属の表面に浮き出た「さび」。こちらの作品「こもれび」は、さびを削って大きな木に光が差し込む様子を表現しています。

「さびアート」を手掛けているのは、坂城町出身の関戸望さん(30)です。それにしても、なぜ「さび」なのでしょうか。

さびアーティスト・関戸望さん:

「はかなさだったり強さがある。わびさびじゃないけど欠けがあるのが美しい。朽ちていく姿が心理に近い、そういう美しさがある」

関戸さんが志していたのは、スプレーなどを使って描く「グラフィックアート」。しかし、京都の芸術大学に通っていたころ、さびの美しさに気づかされたと言います。

さびアーティスト・関戸望さん:

「グラフィックアートは廃墟に描かれることが多い。もともと廃墟が好きだった。朽ちたものに惹かれていたので、拾ってきた鉄板に絵を描いてみようと思った時に、『あれ、ちょっと待てよ』と、自分の絵を乗っけなくてもこの鉄板は完成しているのではと」

「朽ちていくものの美しさ」を再発見した瞬間でした。

さびアーティスト・関戸望さん:

「これをバンバンたたいて伸ばしてコンパネに貼る」

関戸さんが作品によく用いるのは、いわゆる「一斗缶」です。表面を削ったら、塩水を塗ります。塩水を塗る量でさび方が変わるそうです。

さびアーティスト・関戸望さん:

「実際、どんなさびが出てくるかわからない。そのさびを見てこういう作品を作ろうとか、さび基準で考えたりするんで楽しい」

2、3日風に当てると、さびが浮き出てきます。それを削ったり絵を加えたりして作品を完成させます。

こちらの作品は、街で見つけたさびを写真におさめ、自分の絵と合成させる名付けて「さびドローイング」。

さびアーティスト・関戸望さん:

「鉄は一見、固くて扱いやすくてきれいで完璧に思えるかもしれないが、人間がこれは完璧だと良かれと思って作ったものは、実は不完全ものが多くてそこに気づかせてくれるのがさび」

大学卒業後は神奈川県で活動をしてきましたが、4年前、大きな音を出しても気兼ねする必要の少ない地元に拠点を移しました。そして去年10月、念願のギャラリーを持つことができました。

これには頼もしい協力者がいました。馬橋亮さん(45)。カフェのオーナーです。

神奈川から移住した馬橋さん、いずれは飲食店を出したいと考えていました。

SEKIDO錆作所・馬橋亮オーナー:

「若いころ旅行で行って初めて食べたタコライスがおいしくて、タコライス食べたくて沖縄に行くみたいな感じで、いつか店を出すならタコライスを出したいなと」

「タコライス」と「さびアート」。夢を持つ二人が偶然、アルバイト先で出会い、意気投合。カフェ兼ギャラリーの構想が膨らんでいきました。

SEKIDO錆作所・馬橋亮オーナー:

「『ギャラリーやってだれが来るの?』と僕は言いたいこと言ってしまうので、人が来てもらわないと意味ないからどうやって呼ぼうかという時に、自分がちょうどそろそろ店をということでひらめいてイメージが浮かんだ」

内外装は関戸さんがデザイン。こうして、タコライスを味わいながら作品鑑賞もできるユニークな空間ができました。

今、関戸さんは店の外のトイレをさびアートでデザインしています。

SEKIDO錆作所・馬橋亮オーナー:

「『さびちゃってこれいらないよ』くらいのものを、『さびてくださいな。さびてもっと美しくなるでしょう』と作品に変えるのは、すごくかっこいいことをやっているなと」

ギャラリーの完成で制作意欲旺盛な関戸さん。朽ち果てていく美しさを感じてほしいと制作に励む日々です。

さびアーティスト・関戸望さん:

「さびは近くにあり、忌み嫌われるものだけど、こうしたらすごくきれいになるんだと、こうしたら作品として成立するんだと、そういった価値の転換ができたらすごくうれしい。五輪のメダルは金・銀・銅じゃなくて、『錆・金・銀』くらいになってもらえたら最高だなと」

長野放送
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