支配人「社会的存在として支えられている」…毎月赤字も地元から寄せられたカンパを運転資金に

日本の映像文化を守ってきた街の小さな映画館、「ミニシアター」が今、存亡の危機にある。新型コロナによる外出自粛で客足が遠のいたこともあるが、それ以上に影響が大きいのは、いつでもどこでも映像作品が楽しめる「動画配信サービス」の急拡大だ。

一部で、「映画館で映画を見るという文化そのものが無くなってしまうのでは…」とも危惧されている中、敬遠されがちな「問題作」も臆せず上映してきた名古屋のミニシアターの前の支配人で、2年前に亡くなった男性が遺した本には、ミニシアターの存在意義が綴られていた。

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女性客が次々に来場し、慌ただしく応対するスタッフ…。客席40席の小さな映画館「名古屋シネマテーク」。

この日は女性が割引となるレディースデーの木曜日。祝日のため、久しぶりの満席となった。これはあくまで例外と強調する支配人の永吉直之さん(53)は、今はほとんどの映画が毎回、客は数人という。

2020年は4月から1か月ほど休業するなど、他の映画館と同様にコロナに翻弄された名古屋シネマテーク。夏には回復の兆しを見せたが、この冬の感染再拡大により、また厳しい状態に陥った。売上から家賃や光熱費、人件費などを差し引いた収支は毎月赤字が続いている。

街のミニシアターを救おうと、近くの古書店などが2020年4月~5月に「名古屋シネマテーク・エイド」で寄付を呼びかけた。そこで集まった600万円ほどのカンパを運転資金に充てている。

永吉支配人:
いただいた支援を少しずつ切り崩して運営している状態ですね。ものすごく大きな金額で本当に助かりました

「もともと映画館は、社会的な存在として多くの人に支えられている」と永吉支配人は改めて感じたと話す。

57歳で病死したシネマテーク前支配人…遺された多くの言葉を妻が1冊の本に編集

シネマテークは1982年に開館した、名古屋のミニシアターの草分け。主に昔の名画や通好みの映画、ドキュメンタリー映画などを上映してきた。壁に飾られた舞台挨拶などに訪れた監督や出演者のサインが、40年近いシネマテークの歴史を物語っている。

映画のパンフレットと並んで置かれた新しい本の表紙には、フィルムの映写機を操る男性の写真が…。2年前、病気で亡くなった名古屋シネマテークの前支配人の平野勇治さん(享年57)だ。

平野さんの妻で、演劇評論家の安住恭子さんは、何か形にあるものを遺したいと夫の命日に合わせ、生前メディアに寄稿したコラムなどを1冊にまとめた。タイトルは「小さな映画館から」。

平野前支配人の妻・安住恭子さん:
こんなたくさん書いているとは思わなかったの。とにかく映画のことばっかりでしたね

平野勇治さんの遺稿集「小さな映画館から」より
「一言でいえば、個性的な魅力のある作品。見た人の心にいつまでも残るような、インパクトの強い作品を上映しています」「我々が、明日も面白い映画を見るためには、今日、面白い映画を上映していなくてはならない」

前支配人「この映画をやらなければミニシアターの意味がない」…物議をかもす問題作を次々上映

亡くなったシネマテーク前支配人の平野勇治さん(2004年):
賛否両論ある映画。ちょっと危なそうだからやらないでおこうという映画を、なるべくやりたい

平野さんは興行面などから敬遠されがちな「問題作」も、臆せず上映した。妻の安住さんは、平野さんが生前「この映画をやらなければシネマテークの意味がない」「入らなくてもやらないといけない」とよく言っていたという。

その代表的な作品が、森達也監督の「A」。地下鉄サリン事件の後、オウム真理教内部を取材し「オウムを擁護するのか」などと物議をかもしたドキュメンタリー映画だ。「A」の上映をきっかけに平野さんの考えがより明確になる。

「小さな映画館から」より
「大きな影響力を持った勢力が「これが正しい」と言ったら、それを疑い、検証するような、そして自分自身の思考も問い直されるような映画をやっていくこと。そこにミニシアターの存在意義がある」

多数派の「正しさ」を疑うような映画を…。平野さんがもし今、生きていたら、どうしていたのか。

安住さん:
コロナをどう記録するかということも、すごく考えていたと思うんですね。そういうことについても平野は生きていたら、いろいろ気をもんでいたんじゃないかなって気がします

映画文化そのものが消えるのでは…コロナ禍により動画配信サービスが定着

街ではスマートフォンで動画を見る多くの若者を見かける。

女性A:
ネットフリックスです、いつも暇な時は。友達を今待っているので

女性B:
自分のタイミングで巻き戻せたりとか、いつ抜けてもいいし

いつでもどこでも映像作品が楽しめる「動画配信サービス」は、コロナ禍で大きく会員数を伸ばした。このままでは、映画の文化そのものが消えてしまうのではないか、そんな心配もささやかれている。

永吉支配人:
答え(ミニシアターの未来)が見えていないんですよね、正直なところ。それはコロナとは関係なく、ちょっと見えていない

ミニシアターの灯を消さないために…。

平野前支配人(2016年):
儲けようと思ったら、こんなことはやってないでしょう。俺が、明日も明後日も面白い映画を見るためには、今日面白い映画をやってないと、明日も明後日も面白い映画を見られない

明日も明後日も面白い映画を見る、見せるためには。深い霧に包まれた状態でも、走りながら考え続けるしかない。

(東海テレビ)