2895対0 圧倒的多数で香港選挙制度見直しを決定

中国の国会に当たる全国人民代表大会=全人代では、香港政府トップの行政長官や議会にあたる立法会議員の選挙制度見直しをめぐる採決が行われ、反対0、棄権1、賛成2895の圧倒的多数で採択され、7日間の日程を終えた。

賛成2895 反対0 棄権1で採択
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全人代は、憲法上最高の国家権力機関とされているが、実際は中国共産党の指導下にあり、党の決定を追認し、“判を押すだけ”であるため「ゴム印」とも揶揄されている。このため採択は、いわば既定路線で当然の結果だったとも言える。

今回採択されたのは基本方針で、具体的な制度変更は追って常設機関である全人代常務委員会によって行われる。今回の変更では、行政長官を選ぶ1200人の選挙委員について、定数を1500人に増員し、親中派の委員の割合を増やすなどとなっている。簡単に言えば、これまで以上に親中派が圧倒的に有利になるような制度改革である。

会期中、全人代の王晨(おうしん)副委員長は、「反中勢力が選挙を利用し、立法会を麻痺させようとしている」とした上で、「香港の選挙制度には明らかな欠陥がある」と訴えた。その上で「制度に潜むリスクを排除し、愛国者を中心とした香港人が香港を統治するために必要な措置をとらなければならない」などと強調した。

香港の大規模デモは2020年、国家安全維持法が施行されて以降、完全に勢いを失っており、
立法会では、民主派議員が一部議員の資格はく奪に抗議して一斉に辞職し、いまやほぼすべての議席を親中派が占めている。欧米などからも強く批判を受ける中、何故「最後のダメ押し」とも言える選挙制度改革を断行するのだろうか。

中国共産党が信じる"アメリカ陰謀論“

李克強首相は全人代初日の政府活動報告の中で、「憲法と香港基本法の実施にかかわる制度や仕組みをより完全なものにしなければならない」と述べた。つまり「民主派が再び力を持たないように、制度や仕組みを変える」という意味にも取れる。

李克強首相は「制度や仕組みをより完全なものしなければならない」と訴えた

2019年11月に行われた香港の区議会選挙では、民主派が議席のほとんどを占め圧勝したことに中国共産党は衝撃を受けたとされている。「デモ隊は"ごく少数“の暴徒で、声なき大多数は親中派を支持している」というプロパガンダを自分たちも信じ込んでいたフシがあるのだ。立法会選挙や、行政トップである行政長官選挙は以前から親中派に有利に作られた選挙制度だった。にもかかわらず親中派が圧倒的に有利になるよう更なる制度変更を狙ったのは。同様の「万が一」の事態が起きないようにするためと見られる。

2019年の香港区議会選挙では民主派が圧勝した

欧米など国際社会からの批判を一顧だにしない背景には、共産党内では「香港の混乱は、中国の発展を阻害しようと狙う(アメリカを中心とした)外部勢力が企てたものだ」という陰謀論が信じられている面があるからだ。つまり「選挙制度の"欠陥“を狙った、外国勢力による干渉を許さないため徹底的にやらなければならない」といった被害妄想的な感覚も一部にあるといえる。

強気?弱気?の成長目標… 欧米依存脱却へ「科学技術の自立自強」

「世界において経済のプラス成長を実現した、唯一の主要国になった」李首相は演説でこう強調し、新型コロナウイルス封じ込めの成果とそれによって経済成長を実現した実績をアピールした。

今の中国にとって発展と成長はいわば国是でもあり、中国共産党の正当性を誇示するためにも経済の高成長を維持することが必要だ。

こうした背景もあって、毎年全人代の政府活動報告で発表される経済成長率の目標は注目の的になる。2020年の成長率が低かった反動で、IMF=国際通貨基金や民間の研究機関などが8%程度の成長率を予想する中、中国政府は「6%以上」と慎重な目標を設定した。これについて李首相は「経済運営の回復状況を考慮した」と説明した。

また、新たな経済方針「第14次5カ年計画」と2035年までの長期目標の草案も公表された。前の5カ年計画では成長率の目標を「年平均6.5%」とするなど、これまでは数値目標を定めてきたが、今回は「年度ごとの実際の状況に応じて目標を示す」として具体的な数値は示さなかった。目標値は地方政府の政策の目安などにもなってきたため、数値を示さなかったことは異例とも言える。

「弱気」とも映るこうした異変の背景には、アメリカとの対立などによる不確実性の懸念がある。5カ年計画では「研究開発費を年平均7%以上増やす」「デジタル中国を築く」などとアメリカとの対立が長期化することを念頭に、自国のハイテク産業の育成を強化する方針を示した。李首相は「科学技術の『自立自強』を国の発展の戦略的支えとする」と強調し、技術面での欧米依存脱却を目指す姿勢を鮮明にした。

米中対立長期化念頭か「自立自強」を訴え

2021年は中国共産党にとって創建100周年の節目の年に当たる。国内向けには中国の全国民が「脱貧困」を実現したとする成果を強調している。一方で、バイデン政権に代わってもアメリカとの関係改善の兆しは見られず、むしろ圧力は強まる傾向にある。

中国は経済成長については「不確実性がある」としながらも、国防予算は2020年よりも6.8%多い、日本円でおよそ22兆6000億円を計上した。ちなみに日本の2021年度の防衛予算案は約5兆3000億円である。中国は「今世紀半ばまでに世界一流の軍隊を作る」という目標を掲げ、軍事力の増強を進めている。

習近平指導部は中国建国100周年を迎える2049年に向け「社会主義現代化強国」の実現を目指すとしている。イメージは軍事、経済、海洋、宇宙などあらゆる分野で総合的に世界を牛耳る超大国で、その先頭に立つのが中国共産党の「核心」として君臨する習近平総書記・国家主席だ。今回の全人代はその「強国」づくりの長い道のりに向けた一歩であり、習主席にとっては来秋以降の3期目を見据えた下準備とも言える。

習近平体制は「強国路線」を突き進む

【執筆:FNN北京支局長 高橋宏朋】