2021年2月、我が国に突如「孤独・孤立対策担当大臣」が置かれ、菅内閣で一億総活躍政策を担当する坂本哲志大臣が兼務で起用された。与野党も孤独・孤立対策の勉強会を開き、孤立の実態に詳しい支援団体などからのヒアリングを始めた。しかし「孤独感」という主観的なものに対して、政府が実際に何をどう対策していくのか、正直よくわからないと感じる人も多いのではないか。コロナ禍が長引くにつれ人と社会とのつながりが薄れつつある今、政治は望まない孤独・孤立を止めるために何をすべきか。

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表に出にくい子どもの孤独・孤立

文部科学省はコロナ禍の2020年に自殺した小中高生は、統計データのある1980年以降最多の479人だったと発表した。前年比140人増という厳しい現実について政府関係者は「コロナ禍の一斉休校で、学習の遅れや進路に悩む子供がさらに増えた。慣れない『独学』の状況が長引き、子供たちは将来の不安で追い詰められている」と分析する。

さらに有識者は「若者は『ひとりぼっち』とか『孤独』とか『寂しい』と周囲に同情されたくないという思いから、自分から声をあげて助けを求めることに抵抗がある」と指摘し、SOSが見えにくいため実態把握が遅れ、孤立が深刻化してしまいがちな状況を懸念している。

SNS活用への期待 中川翔子さんが訴える「SNSの言霊」

こうした孤独・孤立への対策として、SNSによる社会や人とのつながりの重要性を指摘したのが、タレントで歌手の中川翔子さんだ。

2月下旬に総理官邸で開催された「孤独・孤立緊急フォーラム」に出席した中川さんは、「10代の頃いじめを受けていた。死にたい、消えたいと何度も思った」と明かした。そして、自身がコロナ禍で不登校に悩む子供たちをリモートで取材してきたところ「悩みがどんどん多様化していると感じた」と述べた上で、次のように語った。

「今、SNSで世界と本当につながることの大切さを感じています。好きなことを好きと言える場所、そして好きなことを褒めていると同じものが好きな人にちゃんと届く、そこには地位や年齢や距離を超えたものがある。そして言霊は夢をかなえてくれる。SNS社会になった今、子供たちであっても、大人であっても、独り言でもいいから好きなことを書く場所が必要なのではないか」

さらに中川さんは血縁関係などでなくても、笑顔になれる瞬間を一緒に生きることができる「隣る人」の存在が大事だと訴え、こう締めくくった。

「孤独ではない、つながっている、息をしていてくれるだけでうれしい、そんなふうに子供たちそして悩んでいる大人の方にも届くように、これからも誰かに隣ることができるような、笑顔になっていただけるような活動をしていければ、消えたくなった、死にたかった、その夜を生き延びた大人として、誰かに隣ることができればいいなと思っています」

LINEとツイッター、ユーザーの「心」に差異も

このように、孤独・孤立対策の1つとして注目されているSNSだが、東京都健康長寿医療センターが実施した「SNSでのコミュニケーションと精神的健康」という調査で、興味深いデータが明らかになった。

LINEを利用する人はしない人に比べて、精神的な健康状態が良いというデータが出たという。つまりLINEでの他者とのコミュニケーションが、満足感や幸福感につながりやすいことを示すものだと分析されている。一方で、ツイッターで頻繁に呟く人は呟かない人に比べて孤独を感じている人の割合が多いという結果も出たという。不特定多数に向けてつぶやく事の多いツイッターならではの現象なのかもしれない。

SNSの利用法にも様々な形があるので一概には言えないだろうが、SNSの活用は対策の一つのカギと言えそうだ。政府も孤独・孤立問題に対してSNSや検索エンジンでの相談強化や発見機能などを検討している。また昨年末からは、支援が必要な子どもをAIで見つけ、適切な支援につなげるためのデータベース構築に向けた調査研究も進めている。

6府省庁から全府省庁会議に変更「命に省庁の名前は書いていない」

こうした孤独・孤立対策のとりまとめに向けて政府は、調整を行う場として「関係省庁連絡会議」を設置する予定だが、これについて1つの方針転換があった。

坂本大臣は過去の記者会見で、関係府省庁連絡会議は対策に密接に関わる6つの府省庁で構成すると答えてきた。しかし2月26日の衆院予算委の分科会で自民党の鈴木貴子議員は「人の命に省庁の名前が書いてあるのか」と訴え、全府省庁が参加しての会議にすべきだと指摘した。

鈴木議員はその理由として、自身が防衛政務官時代に感じた「自衛官独特の文化」、一見、孤独・孤立とは無縁に見える集団生活の中のいじめ問題に言及し、「属性に応じたアプローチが必要だ」として、すべての役所が連絡会議に参加する意義を強調した。

このやり取りを受けて、会議のとりまとめ役である坂本大臣は方針を転換し、省庁間の縦割り打破も解決すべき課題だと位置づけ、連絡会議を全府省庁参加とすることを決めた。

「心の問題」に切り込む「オーダーメイドの支援」とは

そして最大の問題はこうした会議を通じて、どれだけ有効な対策を打ち出せるかどうかだ。孤独・孤立にも様々な形態があり、経済的事情や家庭環境が背景にあるもの、国籍・性・障がいなど社会的マイノリティに根ざすもの、個人の様々な心情に起因するものなど様々だ。世論からは「政治家は立ち直れないほどの孤独感を理解できるのか」といった懐疑的な声も聞かれる。

こうした中、坂本大臣は、内閣府に「孤独・孤立対策担当室」の看板がかけられた際の訓示で、2019年の東京大学入学式における上野千鶴子氏の祝辞を引用しながら、次のように訴えた。

「一生懸命頑張っても厚い壁に跳ね返されて、そして孤独感と不安にさいなまれ、絶望的になる人がたくさんいる。頑張っても公正に報われない社会がある。その存在に真正面から取り組んで、そしてこれまで見たこともないような知と政策を生み出す」

その上で、坂本大臣は「心の問題にどれだけ政策として切り込めるか」だと語った。また内閣府関係者は「人それぞれの主観的な苦しみに、いかにオーダーメイドの支援を作っていけるか」と意欲を示している。

政府は、個々の事情にも対応できるようにしつつ、孤独・孤立にどこまで切り込んで行けるのか。せっかく担当大臣を置いたのだから、相談窓口の一元化など、既存の支援策の延長線上で「やった感」を出すだけでは、あまりにもったいないだろう。「一生懸命頑張っても報われない社会」に対する、思い切った政策を期待したい。

(フジテレビ政治部 池田百花)