障がいを乗り越え一歩を踏み出す

複数の人が前後に並んで乗れる「タンデム自転車」に大きな希望を見いだした脳性まひの少年がいる。
障がいを乗り越え、一歩を踏み出そうとする少年と家族の挑戦を追った。

タンデム自転車を通じて障がい者が生きがいを持って暮らせる社会を目指そうと活動を続けている愛媛県松山市のNPO法人「NONちゃん倶楽部」。

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ここで2020年11月から自転車に乗る練習を始めた少年がいる。
久保大翔(ひろと)君(13)だ。脳性まひのため手足が思うように動かず、知的障がいがある。

久保大翔君:
自転車にいっぱい乗って、どこかに行きたいなって思ってます

しげのぶ特別支援学校に通う大翔君は中学2年生。
生徒会長を務め、部活動では車いすサッカーで汗を流し、学校生活を活発に過ごしている。

6歳の時、脚が動く範囲を広くする手術を受けた大翔君。その時のリハビリで乗った三輪車がきっかけで自転車に興味を持った。

母 美紀さん:
自転車に乗ってみたいって言ったので、小学校低学年の時に言って、それから乗れなかったんですけど、また高学年の時にまた自転車に乗りたいって言うので

自転車に乗りたいという大翔君のために両親は部屋に自転車を持ち込んだ。
ペダルをこぐ練習を始めた大翔君。しかし、ペダルは回らなかった。

父・隆史さんは、息子と歩んできたこれまでの日々を振り返る。

父 隆史さん:
この子は歩けるようになりますかねって(医師に)言ったら「1%ぐらいありますよ」って言ってもらったら「そうですか頑張ろう」と思うんですけど「ありません」と一言…。でも、それって分かるんですよ、医者としてはそういうこと言っちゃダメ。「努力次第では歩けるようになる可能性はありますよ」って言ってくれれば「そうか」って思うんですよ。だって、この左手まひしてたんですよ。動いてなかったんですよ。これがここまで動く

NONちゃん倶楽部のイベントが転機に

いつか自分の力だけで立ちたい。
生後10カ月から始めたリハビリを今でも懸命に続ける大翔君。それを見守る両親にとって大きな転機が訪れた。

2020年9月、家族で参加したNONちゃん倶楽部のイベント。
大翔君が父親とタンデム自転車に挑戦した。ペダルを前に回すことはできなかったが、2人でタンデム自転車に乗ることができた。

父 隆史さん:
とにかく可能性を信じて、前を向いて歩いていければ何かひらけるものがあるよと。そういうところから、今後、大翔と一緒に歩いていこうと思いますけどね。どこまでできるかは分からないですけど

親子でタンデム自転車に乗る練習をすれば、息子の足がもっと動くようになるかもしれない。
大翔君の自転車に乗りたいという思いは、この瞬間、家族みんなの大きな目標になった。

新たな目標ができた久保さん一家。
その背中を大きく押したのがNONちゃん倶楽部だった。

大翔君は特に膝から下が自由に動かすことができないため、自転車に乗るためには足をペダルに固定する必要がある。
しかし、足を固定しても、ペダルをうまく踏み込むことができない。

その原因は右足にあった。

NONちゃんクラブ 梅澤雅嗣さん:
全然、踏めなかったんですよ。真っすぐな状態だったら結局、足がこうねじれて、中で無理やり(足を)動かしてうまくいっていなかったんです

この問題を解決したのが、NONちゃん倶楽部でボランティアとして車体の改造などを手がけている梅澤雅嗣さん。

大翔君が一番踏み込める角度で足を固定できる靴とペダルが一体になった装具を作ってくれた。

左右の足でしっかりペダルを踏み込めるようになった大翔君。
自分の力でペダルを回せるようになった。

コツをつかんだ大翔君、ベテランパイロットと街に出る。
最初は心配そうに見守っていた両親だが…

両親:
これ普通の子やんか、これ

自信をつけた大翔君、表情も変わってきまた。

母 美紀さん:
すごいです。本当に本当にすごいです。足が回って…自分からスピード出しますって…

タンデム自転車のパイロット 岡本和弘さん:
結局は僕らができないんじゃないかなと勝手に決めてたってことで、本人はできてる能力があった元々ね

父・隆史さんも大翔君の急成長を見て、新たな一歩を踏み出した。自転車を購入し、トレーニングを始めたのだ。

父 隆史さん:
大翔と一緒にタンデムに乗って、彼に負けないように親子で色々と走りたいなと思って、そんなことを考えながら走ってますよね

あたたかく手を差し伸べてくれる人たちに支えられ、家族の夢は実現に向けて大きく前進している。

親子で風を切るその日まで。

久保大翔君:
自転車最高!

(テレビ愛媛)

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