「ブラック校則をなくそう」。

2017年、大阪府立の女子高校生が地毛を黒染めするよう強要され、精神的苦痛を受けたと裁判を起こした。これをきっかけに、不合理・不適切な校則、いわゆる「ブラック校則」を無くそうという動きが広がっている。

ブラック校則の根絶を目指すプロジェクト

 
 
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先月、ブラック校則の根絶を目指すプロジェクトチームが文科省で会見を行い、ブラック校則に関する調査結果(※)を発表した。その中には、なぜこれまで問題にならなかったのか、首をかしげてしまう校則や指導もある。
(※)「中学・高校時代の校則体験」について10代から50代の男女4000人を対象に調査

たとえば校則で「下着の色が決められている」のは、中学が15.8%、高校で11.4%。「スカートの長さが決められている」のは、中学が57.0%、高校が48.1%だ。この校則がある学校の一部では、男性教員による下着の色のチェックや、服をめくってのスカート丈のチェックなど、明らかにセクハラと捉えられる指導も行われている。

ほかにも「冬でもストッキングやタイツ、マフラーなど防寒対策をしてはいけない」「体育や部活時に水を飲んではいけない」など、科学的に非合理で、生徒の健康を度外視したような校則もある。

スカートの長さに厳しい学校も多い
スカートの長さに厳しい学校も多い

黒染め指導、置き勉禁止、公開処刑

このプロジェクトが始まるきっかけとなった「黒染め指導」も深刻だ。

調査によると、生まれつき黒髪以外の生徒の中で黒染め指導を経験した割合は、高校生で約2割、中学生でも約1割いた。黒染めにより髪や頭皮が傷む、アレルギー反応が出るなど健康被害も起こっている。また、生まれつきの容姿を変えるよう強要するのは、人権侵害や多様性の否定にあたらないか。

ほかにも近年問題になっている校則が、「日焼け止め持ち込み禁止」だ。紫外線の人体への悪影響が証明されているにも拘わらず、大人であれば当たり前に利用できるものを子どもから取り上げているのだ。

「教科書や辞書を学校に置いて帰ってはいけない」、いわゆる「置き勉禁止」もある。10キログラムもある教科書や辞書を毎日持ち運ばせることで、発育途上の子どもたちに脊椎側弯症や腰痛を起こしているという保護者からの訴えが届いている。

とはいえ、「水飲み禁止」など明らかに非科学的と言える校則は、さすがに近年減少している。

しかし一方で、「下着の色指定」や「黒染め指導」は、ますます増加しているのだ。さらに、校則違反の生徒にみんなの前で謝罪させる、「公開処刑」と呼ばれる見せしめのような指導も増えているという。

ブラック職員室がスクハラを生む

なぜスクールハラスメントとも言える、こうしたブラック校則や指導が増加するのか?プロジェクトの発起人で、貧困の子どもの支援を行っているNPOキッズドアの渡辺由美子理事長はこう言う。

「学校の多忙化が原因の一つの原因と考えられます。教員が忙しすぎて、生徒一人一人の指導が難しいため、画一的に校則で生徒を管理するのです。置き勉禁止の理由も、実はいじめ対策の側面が大きい。教科書を隠すようないじめを無くすための指導こそしなければいけないのに、そこに十分向き合わずに、全校生徒に過度な負担を負わせているのです」

貧困の子どもの支援を行っているNPOキッズドアの渡辺由美子理事長(左)
貧困の子どもの支援を行っているNPOキッズドアの渡辺由美子理事長(左)

下着の色を指定する理由について、「痴漢予防」を根拠に挙げる学校も少なくない。しかしこれは、「痴漢は女性の服装が原因」という思い込みを、子どもに強要することになりかねない。

もはや多忙を理由に学校が思考停止に陥っているとしか思えない。

「内申書」が壁に

こうした現状に対して文部科学省は、「校則は社会の変化とともに見直すべき」との立場だ。しかし、文科省では校則に関する全国調査を30年近く行っていない。前回の調査は1990年に神戸で起きた校門圧死事件を受けたものだ。

また文科省は、「通達を出しても学校現場に浸透しづらい現状がある」としつつ、「丁寧に学校現場に浸透させるとともに、校則の見直しに児童生徒や保護者が参加することが望ましい」とのスタンスだ。

ブラック校則や指導を学校が変えることを期待する声は、文科省に限らず多い。しかしそれは難しいと渡辺さんは言う。

「プロジェクトを始めた際、『生徒が自分で頑張って変えたほうがいい、学びにもなる』という方がたくさんいらっしゃいました。しかし調査すると、生徒が頑張っているのに、職員室で全部頭ごなしにつぶされたという事例が何件も届きました。生徒や保護者は『内申書』を気にして、学校側に強く出られません。無念の声がたくさん届きました。現状では、学校の中だけでは改善が難しい仕組みになっているのです」

また今回の調査の中で、教員からも『うちの学校でこんな酷いことをやっているけど、私からは言えないので、ぜひ何とかしてください』という声が寄せられているという。

校則の“見える化”が問題解決への第一歩

 
 

それではブラック校則を根絶するにはどうすればいいのか?

都内の千代田区立麹町中学校や世田谷区立桜ケ丘中学校では、校則を廃止した。これらの学校では不登校やいじめが減り、学力も上がっている。しかし「風紀が乱れたらだれが責任を取るんだ」、「波風を立てたくない」と学校現場は重い腰を上げようとしない。

「だから外圧をかけなければいけないと思っています」と渡辺さんは言う。
外圧をかけるためには、まずは多くの人が校則や指導がいまどうなっているのか、関心を持つことが必要だ。

大阪府教育委員会では昨年、校則の見直しに着手するとともに全府立高校の校則を公開した。東京都世田谷区では、間もなく校則を各校のホームページで公開する。校則の見える化によって、ブラック校則をあぶりだす。ブラック校則から子どもを守るのは我々大人の責任なのだ。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

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鈴木款著
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政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。