米軍はいち早く台風進路を発表

今の台風情報のあり方はこれで良いのだろうか?
首都圏を直撃した台風15号の情報を追ってそう考えた。
気象庁が台風15号の発生を発表したのは5日午後3時のことで、共同通信は「進路によっては東日本から西日本の太平洋側に近づく恐れがある」と伝えただけだった。
しかし米軍の合同台風警報センター(JTWC)はこの熱帯低気圧をTropical Storm(熱帯暴風雨)14号としてすでに追跡をしており、同じ5日午前3時に発表した警報では9日午前3時ごろ静岡県付近に上陸しその時の平均風速は70ノット(約35メートル)最大瞬間風速は85ノット(約42メートル)と予測していた。

その後JTWCは上陸地点を首都圏付近と修正し、上陸時の風速も最大瞬間風速が115ノット(約57メートル)に達すると結果的に見て正確に予想していた。
注意喚起が遅すぎないか
一方日本のマスコミが、この台風に注意喚起を呼びかけ始めたのは7日になってからのことだった。
「コンパクトな台風なので急に雨風が強まるので注意してください」
気象庁の情報をもとに解説するテレビ局の気象予報士の多くはこう言い「コンパクト」という言葉がなにか安心感を与えた。
その安心感が覆されたのが8日午前11時、台風が伊豆諸島に接近してきたころだった。気象庁が急遽この台風の「今後の見通し」を発表し、その中で「記録的な暴風」になる恐れがあり「自分の命、大切な人の命を守るために」早めの避難を呼びかけたのだった。
この発表は確かに効果的だったがなぜ官公庁や企業が休みで、行楽客も外出中の日曜日の昼に発表しなければならなかったのだろうか。米軍はほぼ同じことをすでに3日前に警告していたのだ。

気象庁の「ことなかれ主義」
考えられるのは気象庁の「ことなかれ主義」ではないか。
まず台風発生の発表だ。気象庁は熱帯低気圧が風速が17メートルに達しないと「台風」とは呼ばない。制度上「台風」ではないと「台風情報」も出せないことになるので15号の場合も上陸4日前までその存在すら発表しなかった。また気象庁の台風進路予想は予報円で示すが、直線の予想が外れた時の「保険」としか思えない。 さらに台風の危険性についても、観測時の勢力を基本にするので数日先の「記録的な暴風」までは予想できないのかもしれない。

一方JTWCは米軍の作戦上の情報を提供する組織なので、危険な気象現象が見られれば訂正することを恐れず進路予想も直線でどんどん情報を提供する仕組みだ。
しかし人の生命がかかった情報提供は、軍事作戦に勝るとも劣らない重みがあるのではないだろうか。
台風15号は各地に大きな被害をもたらし、これを書いている時点で一人が亡くなり多くの方が怪我をしたとされているが、もし4日前から「記録的な暴風」が襲うと警告を発していたら事情が違っていたと思うのだが。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【イラスト:さいとうひさし】

