特集は「昭和」が味わえるパン店です。長野市信州新町唯一のパン店「矢嶋製パン」。一番人気の「あんぱん」をはじめ、懐かしい味にこだわり、70年もの間、住民に愛されています。
こちらは長野市信州新町のスーパー。パンコーナーに「ある店」の商品がぎっしりと並べられていきます。
ほど良い甘さのクリームがたっぷり塗られた「牛乳パン」。
コーヒークリームを挟みこんだ、昔ながらの「コーヒーサンド」。
そして、石川県が発祥とも言われる懐かしい「頭脳パン」。
種類も、包装のデザインも、「昭和」を感じさせます。
客:
「口当たりもすごくいいから来た時には必ず買うようにして、矢嶋さんのパンね」
「矢嶋さんのパンはおいしいです」
信州新町に、地域住民から長く愛されているパン店があります。
70年の歴史を持つ「矢嶋製パン」。
矢嶋章一さんは3代目の店主です。
矢嶋製パン 3代目店主・矢嶋章一さん:
「都会に出た人もこっちに帰って来たときに『昔食べたパンだ』って言って買ってくれます。『変わらないね』って言われるのもうれしいです」
人気の秘密は、3代に渡って守られてきた味と食感です。初代店主は職業軍人だった、章一さんの祖父・近一郎さん。
戦後、地元に戻り、1950年ごろ、まず「せんべい店」を始めました。
当時、「看板娘」として店を手伝っていた章一さんの母・信枝さんによると…。
章一さんの母・信枝さん(86):
「兵隊から帰ってきてやることなくて、問屋さんみたいな人が、『せんべいは楽だ』って言うんだ。楽だからこれをやれって。今度は『せんべいよりパンの方がいいぞ』って言ってパン屋になった。昔はそんなにたくさんなかった、パン屋とか」
その後、信枝さんは夫婦で店を継ぎ、3代目の章一さんに味を伝えました。
一番人気は、創業当時からあったという「あんぱん」。袋に「ほんとうのアンパン」と書いてアピールしています。
章一さんの母・信枝さん(86):
『“ほんとうのあんぱん”ってどうして付けた?』って聞かれるから、『本当のあんぱんだよ』って言う。あんこもいっぱい入っているし、(当時は)うちであんこも練っているし」
矢嶋製パン 3代目店主・矢嶋章一さん:
「40度くらいのお湯を入れてこねています」
あんぱんを作る様子を撮影してもらいました。
作業は朝3時から…。
矢嶋製パン 3代目店主・矢嶋章一さん:
「できるだけしっとりして、モチモチ感を出したいっていうのを目指しています」
モチモチ感を出すため、生地に使う小麦粉のブレンドにも気を使っているそうです。
矢嶋製パン 3代目店主・矢嶋章一さん:
「(発酵後)1時間くらいすると、このくらいの生地です」
生地を寝かせたら、切り分けてあんこを詰めていきます。
今は仕入れていますが、昔はあんこも店で作っていたそうです。
オーブンで10分ほど焼くと…
「ほんとうのあんぱん」の出来上がりです。
(記者リポート)
「根強いファンも多いというあんぱんをいただきます。生地は薄いんですが、非常に噛み応えがあってしっとりしています。あんこも甘すぎず、ちょうど良いバランスです」
矢嶋製パン 3代目店主・矢嶋章一さん:
「あんこが甘い分、生地は甘さを抑えてバランスを考えて作っているつもり。ずっと教わった通りに作っている。同じものを作ろうと努力はしている。パッケージもほとんど何十年も同じです」
午前10時。
パンは店以外にもスーパーや道の駅など5カ所で販売していて1日1000個、売れる日もあるそうです。
この日、「A・コープしんまち店」には10種類・80個ほどを並べました。客が次々と手に取っていきます。
あんぱんを購入:
「そんなに甘くないから飽きないっていうか、食感っていうのかな、ほわんほわんした食感が合うから自分に」
メロンパンを購入:
「生地もふんわりしていて中に生クリームが入っているんですけど、ちょうどの甘さでおいしい。昔からあるパン屋さんで親しみがありますね」
店長も矢嶋製パンのファンです。
A・コープしんまち店・柳沢健一店長:
「早い日ではお昼すぎにはなくなっていることもある。懐かしい味というかそんな感じで。私もこの牛乳パンが好きでお昼には毎日のように食べています」
ファンから手紙が届くことも…。
ファンからの手紙:
「牛乳パンも好きです。またおいしいパンをいっぱいお願いします」
流行り廃りが激しい世の中で70年もの間、住民に支持されてきた味。
西山の街で「昭和のパン」が受け継がれています。
矢嶋製パン 3代目店主・矢嶋章一さん:
「子どもの頃に食べたのが、大人になってももう一回食べたいなと思えるようなパン作りをしていきたい。変わらないで皆さんに、飽きられないパンを作り続けたいなと思います」