マッチング型ベビーシッター事業最大手「キッズライン」に登録されたシッターのうち、法律で義務付けられた自治体への「届出」確認ができないシッターが75人もいたことが明らかになり、内閣府は1月29日、全国保育サービス協会を通じキッズラインに対し補助金の返還などの是正勧告が行われたと公表した。

キッズラインでは2020年にもベビーシッターによるわいせつ事件が起きている。なぜこのような問題が繰り返されるのか?待機児童解消の手段として、税金も投入する形でベビーシッター利用を推し進める菅内閣は今後どのようにシッターの安全性の問題に向き合うのか、その背景を取材した。

高まる「マッチング型ベビーシッター」需要

ベビーシッターと言えば、安いとは言い難い会員登録料や利用料がかかるものの、例えば保育所の預かり時間からはみ出た突発的な残業が発生した際に利用できるなど、救われている子育て世帯は多い。中でも近年、従来の派遣型ベビーシッターに代わって台頭してきているのが「マッチング型シッター事業」で、予約から支払いまでオンラインで完結するため、手軽に低価格でサービスを受けられるのが特徴だ。

そして内閣府では、2019年10月からマッチング型シッター事業も企業向けベビーシッター割引事業の補助対象とし、現在は「キッズライン」と「キズナシッター」(運営会社ネクストビート)の2社のマッチング型事業が対象となっている。また、2021年度からベビーシッター割引券を現行の1回あたり1枚(2200円分)から2枚(4400円分)に倍増し、待機児童解消に向け、ベビーシッター需要により積極的に応える姿勢だ。

「未届けシッター」発覚の経緯

キッズラインの経沢香保子社長
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こうした中、2020年12月25日、キッズラインの経沢香保子社長から内閣府に突然電話があった。

うちに登録しているシッターの中で、届け出未確認の198人が内閣府補助シッターとして活動していることがわかった

内閣府の担当者は寝耳に水の一報に動揺しつつも、経沢社長に対して、年明けすぐに直接説明に来るよう促した。2021年1月8日に行われた経沢社長による内閣府への説明は、政府関係者によると次のような主旨だったという。

「去年の夏ごろから各自治体より『市に登録されているシッター数とマッチングサイトに掲載されているシッターの人数が異なる』『自治体未届けのシッターがいる』と問い合わせが相次いだ。キッズラインには届け出されていたのに…」

これを受け、内閣府は不明瞭な点があるとして直ちに同社への聞き取り調査を開始した。その結果、実はキッズラインは未届けシッターの存在についてもっと前から把握していながらも、この時点まで内閣府に報告してこなかったことが明らかになった。以下が、内閣府の調査で判明した時系列での流れだ。

<2020年8月>
相模原市、宮崎市から未届けシッターの存在についてキッズラインに問い合わせ

<2020年9月> 
未届けシッターについて社内で調査開始
東大阪市から同様に未届けシッターの問い合わせ
「わいせつ事件」について全国保育サービス協会の立ち入り調査(未届けシッターの問題については伝えず) 

<2020年12月>
内閣府補助シッター267人が自治体未届けの可能性があることをキッズライン自身が把握

<2021年1月>
内閣府の勧告により内部調査が行われ、75人が届け出未確認と報告
さらにその半数以上が連絡がつかないまま登録されている状態と判明

このように、キッズラインはわいせつ事件後の立ち入り調査時にはすでに届出未確認のシッターがいる事態を把握していたにもかかわらず、その事実を説明しないなど不誠実と言える対応をとっている。

「届け出」の重さと「手続き」の問題 過去には殺人事件も

では、なぜ未届けシッターが多数発生し、実際に活動するという事態が起きてしまったのだろうか。

内閣府は保育事業者に対して、「自治体に届出を出すこと」を条件に補助対象と認め、補助金を出している。届出の仕方は自治体により異なり、内閣府の担当者によると、<1>届出を提出すると受領印を押して返してくれる、<2>届出と引き換えに受領書を渡してくれる、<3>自治体が設置届出を受け取るのみ、の3パターンがあるという。

ただ<3>の場合、シッターの側からすると自治体から受け取るものがないので、補助対象シッターを希望する人はキッズラインに対し、自治体に提出前の書類のコピーを提出していたという。

しかし…。

「キッズラインに提出されていた届出がどういうわけか自治体に提出されていなかった。出し忘れたのかもしれない」というのが、キッズラインが内閣府に語った釈明だったという。参考までにもう一つのマッチング型事業者の「キズナシッター」は<1>の受領印のある届出の提出のみを認めており、内閣府の調査で未届けシッター数は0と報告されている。

届出を「出し忘れたのかもしれない」で済ませようとするキッズラインの対応に対して、ある内閣府関係者は「届出を出すことの重みがわかっていない。その辺を歩いている見知らぬ人に預けているのと一緒だ」と痛烈に批判する。

2014年に児童福祉法が改正されるまで、個人のベビーシッターが都道府県に届出をする必要はなかった。法改正のきっかけとなったのが、同年に起こったインターネットを通じたベビーシッターによる殺人事件だ。内閣府の担当者は「届出が必ずしも即座に安全とまで言い切れないが、年に一回の監督に服すことで一定の質の担保になる」と話す。

“マッチング型は危険だから使わない”となっていいのか?

1月28日、政府は子ども預かりサービス専門委員会を開き、キッズラインに対して、届け出が確認できていなかった期間に出していた補助金の返還を求める方針を決め、29日に返還などの是正勧告が行われた。その額は約1000万円規模とみられ、引き続き精査される。さらに今後、改善が見られない場合には、事業の一時停止も勧告していく。

では、マッチング型シッター事業の今後について政府が「危険だから補助しない」、あるいは親が「危険だから使わない」というのがこの問題の答えだろうか?それは、政府が今後しっかりと改善させられるかにかかっている。

内閣府によると、補助対象のベビーシッターのうち、キッズラインが約半数を占め4000人を超えるベビーシッターが登録されているが(2020年11月時点)、その多くは届出を行い、研修を受けたうえで働いている。

さらにこの問題をFNNが報道した後(【独自】キッズライン 補助金返還要求へ 無届けシッター75人)、ネットには様々な声が寄せられた。

「来てくれたシッターさんたちは本当にいい人ばかりだったので残念」

「保育園のあと数時間などで救われる人はたくさんいると思う」

「ベビーシッター業界全体のイメージダウンにつながる」

利用者からは「便利さ」と「安全性」の両立に向け、あり方を改めて見直してほしいという意見が多く、マッチング型のニーズの高さがうかがえる一方、ベビーシッター業界全体への疑念の広がりもみられた。

「待機児童解消」に向けベビーシッターを推し進める菅内閣。政府関係者は「補助金の返還請求だけでなく、マッチング型だからこそ、再発防止と研修の徹底に取り組んでいく」と話す。

キッズラインは改善を徹底できるか?政府にできることは?

一方、キッズラインは是正勧告を受けて「弊社の認識および管理が不十分であることによりご迷惑をおかけした関係者の皆様へ重ねてお詫びを申し上げます」と陳謝した上で、「勧告された内容について、迅速かつ誠実に対応してまいります。また、補助金の返還は弊社の責任と負担で行い、該当するサポーターへの負担は求めません」と明らかにした。

その上で再発防止に向けて、昨年中に必要な届出がなされていることの確認を徹底し登録の手順を見直したとし、「現在ご利用いただけるサポーターは、法令に基づいて自治体での届出受理の確認を完了しております」とコメントした。そして「より一層の安全管理を強化するために、社内に各種ルールや安全管理を徹底することをミッションとした専門部門を新たに設置し、真摯に対応してまいります」と改善への姿勢を示した。

まさにこのコメントの通りに、キッズラインが安全性への意識を変え、改善を実行できるかが問われることになる。一方の政府も、シッターが自治体に届けを行う際の方式や書式の統一など、再発防止に向けた改善を図る余地はありそうだ。

最後に、私はこの問題を報道する前に若干躊躇する気持ちがよぎった。キッズラインに救われている利用者がたくさんいることを知っていたからで、この問題で補助が停止されるなどした場合に困る利用者のことを考えたからだ。一方で、杜撰な管理のせいで今この時間も被害に遭っている子どもがいるかもしれない以上、当然明らかにし、問題とすべき事案であることは言うまでもない。

いずれにせよ事業者も政府も、シッター需要に応えようとするあまり、安全性を疎かにして拡大に前のめりになることは避けなければならないというのが教訓となりそうだ。マッチング型ベビーシッター事業がプラットフォーマーとしての責任を持って安全性をしっかり担保させられるか、政府がどのようにこれを改善させていくのか、そして子育て世帯がどのような保育を望んでいるのか。より子育てしやすい環境をつくるための取り組みを、今後も取材していきたい。

(フジテレビ政治部 池田百花)