共和党内で情勢変化 トランプ氏「無罪」の可能性
退任から一週間あまり。大統領令を連発し、スタートダッシュを見せるバイデン大統領に対し、すっかり陰を潜めているトランプ前大統領。前例のない2度目の弾劾裁判で、過酷な展開が待ち受ける・・・と思いきや、ここにきて「無罪」となる可能性が高まっている。
議会襲撃事件は、「バナナ共和国(政情不安定な小国)で起きること」(ブッシュ元大統領声明)と揶揄されたように、世界を代表する民主主義大国とは思えない混乱ぶりを露呈し、内外に大きな衝撃を与えた。
事件発生以降、トランプ氏の責任を問う声が日に日に高まる中、上院共和党のリーダー、マコーネル氏が「弾劾裁判でどう投票するか決めていない」との声明を出すと、地元メディアはマコーネル氏が有罪票を投じる可能性があると伝えた。そのため、身内の共和党から賛同者が続出するのでは・・・との観測が流れた。トランプ大統領にとって、茨の道となる展開だった。

上院共和党の大半が弾劾裁判を違憲と判断
しかし、ここに来て情勢が大きく変わりつつある。
潮目が変わったことが表面化したのは、弾劾裁判を違憲と訴えた動議の採決結果だ。上院に動議を提出したのは、共和党のランド・ポール上院議員(ケンタッキー州選出)で、「トランプ氏はすでに私人であり弾劾裁判の対象ではない」と主張した。1月26日の採決の結果、賛成45、反対55で動議は否決されたものの、注目すべきはその票数だ。共和党から5人しか造反者が出なかったのである。下院での弾劾決議案採決には共和党から10人が賛成していた。
弾劾裁判で「有罪」とするには共和党から少なくとも17人が賛成に回る必要がある。しかし、その試金石と見られたこの動議で、共和党側から造反したのは17人にはほど遠い5人に過ぎなかった。共和党内の支持拡大を目指す民主党は冷や水を浴びせられた形だ。
造反した5人は、トランプ批判で筋金入りの重鎮、ミット・ロムニー氏をはじめ、ベン・サッセ氏、スーザン・コリンズ氏、リサ・マカウスキ氏、パット・トゥーミー氏。いずれも引退を控えていたり、すでに強力な支持基盤を持つなど、トランプ氏の影響力を考慮する必要がない顔ぶれだ、と地元メディアは分析している。
一方、“態度保留”に見えたマコーネル氏を含む、残る45人の共和党議員が賛成に投じた。党内で影響力を持つマコーネル氏がトランプ氏に同調した今回の投票行動は、大きな意味を持つ。
「有罪」への動きはなぜ失速したのか
では、なぜ共和党内で「有罪」に向けた動きは失速したのか。
共和党支持層で、いまだトランプ人気が根強いことが大きな要因だ。マンモス大による最新の世論調査では、弾劾への賛成が民主党支持層で92%に上ったのに対し、共和党支持層では13%にとどまった。共和党議員にとっては、自身の選挙戦略上、引き続きトランプ氏の影響力は見過ごすことができないことを意味する。

このような支持を背景に、造反した共和党議員を攻撃する動きもある。“トランプ派”として知られる共和党下院議員、マット・ゲーツ氏(フロリダ州選出)は「トランプ氏の精神を受け入れるべきだ」と主張。下院の弾劾訴追決議で造反したリズ・チェイニー氏(ワイオミング州選出)を党の役職から外すよう求め、チェイニー氏の地元でトランプ支持者による集会を開くよう呼びかけた。トランプ人気にあやかり、共和党支持層に自身の存在をアピールした形だ。

CNNは、共和党の大半が弾劾裁判に反対する理由を次のように説明している。
・トランプ氏はすでに私人であり、弾劾裁判の対象とするのは違憲である
・民主党による“報復”的な政治劇にすぎない
・過去は過去のものとして許し、前進すべき時である
・前例がなく、実現可能性が少ない
弾劾裁判の代替案も浮上
一方、「無罪」への可能性が高まったことで、上院民主党では弾劾裁判の代替案として、法的拘束力のない問責決議に変えようとする動きも浮上している。共和党の造反議員の一人で、民主党議員とともに決議を推進するスーザン・コリンズ氏は、「有罪となる可能性は極めて低い」とした上で、弾劾以外の方策を検討すべきとの考えを示した。問責決議であれば、トランプ氏を公に非難できるものの、罰則規定がないため共和党から支持を取り付けられるとの計算だ。ただ、実現への見通しは不透明だ。
共和・民主両党の利害が絡み合う中、トランプ氏弾劾裁判の審理は2月9日から始まる。
【FNNワシントン支局 瀬島隆太郎】
【表紙デザイン:FNNワシントン支局 石橋由妃】