「今、行動の時」人種差別解消へ大統領令

バイデン大統領がトランプ前政権の政策を次々と覆している。矛先は、新型コロナウイルス対策、安全保障、経済対策、多様性など多岐にわたる。1月26日には重要政策として掲げる人種差別の根絶に向け新たな方針を示した。

バイデン大統領は、「ジョージ・フロイドさんの殺害事件で多くの国民がかき立てられ、ターニングポイントとなった。今こそ行動する時だ。倫理的にやらなければならないことだからだ。時間はかかるが我々は変わらなければならない」と強調。政府機関に対し、より公平な住宅政策の実現や、環境が非人道的だとして黒人の反発が強い刑務所の改革を命じる4つの大統領令などに署名した。

人種差別根絶に向けた大統領令などに署名するバイデン大統領 1月26日
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閣僚人事でも黒人男性初の国防長官にオースティン氏、運輸長官に同性愛を公表するブティジェッジ氏を起用するなど、多様性の実現に取り組む姿勢を鮮明に打ち出している。矢継ぎ早の行動で、変化はより身近な分野でも早速起きつつある。

20ドル札に“黒人のモーセ”トランプ氏の決定覆す

その一つが紙幣のデザイン刷新だ。“アメリカで一番使われる紙幣”である20ドル札のデザインが変更されることが明らかになった。現在のアンドリュー・ジャクソン第7代大統領から、奴隷解放運動家の黒人女性、ハリエット・タブマン氏に変更する手続きを財務省が開始する。実現すれば黒人女性の肖像が紙幣に採用されるのは初となる。

採用の理由について、ホワイトハウスのサキ報道官は「アメリカの歴史と多様性を表現するのにふさわしい」と述べた。

奴隷解放運動家 ハリエット・タブマン氏

この変更をめぐっては紆余曲折があった。

20ドル札の肖像をタブマン氏に変更する計画は2016年のオバマ政権下で浮上した。しかし政権交代を経てトランプ大統領(当時)が計画を中断。その理由についてトランプ氏は、「これは純粋なポリティカル・コレクトネス(差別を防ぐため中立的な表現を使うべきとする考え)だ。ジャクソン元大統領は偉大な歴史であり紙幣から消すのはよくない」と説明した。

トランプ氏はかねてからジャクソン元大統領を尊敬すると公言し、自身の執務室にもその肖像画を飾った。また過激なトランプ支持者が「ポリティカル・コレクトネス」に反発していたことも計画中断の要因だったとみられる。

トランプ前大統領が使用していた執務室

今回の決定で、皮肉にも20ドル札の“顔”は奴隷を所有していたジャクソン元大統領から、奴隷解放に尽力したタブマン氏に変わることになる。

日本ではあまりなじみのないタブマン氏だが、アメリカでは奴隷制度撤廃のために戦った偉人として小学校の歴史の授業には必ず登場する人物だ。聖書の「モーセ」のように多くの人を救ったとして“黒人のモーセ”とも称される。

「お金が貯まりそう!」肖像変更に歓迎の声

幼い頃から奴隷として過酷な労働を強いられたタブマン氏は、奴隷主の死を機に逃亡。その後、黒人奴隷を逃がし自由にする活動をしていた秘密組織「地下鉄道」に加わった。1850年代には地下鉄道の運動を通じ300人あまりの黒人奴隷を自由に導き、南北戦争では黒人兵士を率いて戦ったという。この勇姿は映画化され、2019年公開の「ハリエット」として人気を集めた。

肖像変更の決定を受けて歓迎や期待の声も高まっている。ツイッター上にあふれるメッセージのいくつかを紹介したい。

「世界中の人が20ドル札を財布から出す時に見るのが、黒人女性の顔になる。すごいことだ!」

「ハリエット・タブマンが20ドル札になったら、お金が貯まりそう!馬鹿な無駄遣いをしたら、彼女に叱られそうだから」

「幼い頃から彼女の伝記を読んできた。彼女は自由の闘士だ。すごく嬉しい!」

ちなみに・・・バイデン大統領の執務室からは、トランプ氏が愛用したジャクソン元大統領の肖像画が撤去された。代わりに飾られたのは、アメリカ合衆国建国の父の一人で科学者だったベンジャミン・フランクリン氏の肖像画だ。

地元紙によれば、肖像画の掛け替えは、新型コロナ対策に取り組むバイデン大統領の科学への敬意を反映したものだという。

”バイデン大統領仕様”の新執務室

信念を貫き、重要政策を実行に移す中で、アメリカの抱える様々な問題を解決できるのか、その実行力が問われる。

【執筆:FNNワシントン支局 瀬島隆太郎】
【表紙デザイン:FNNワシントン支局 石橋由妃 】