新型コロナ抗体を人工的に作り出す

新型コロナウイルスの「予防」として、日本での接種も間近に迫ったワクチン。一方、「治療薬」の開発はどこまで進んだのだろうか。

自宅療養中に亡くなる人も増え始めた今、軽症患者が急激に重症化するのを防ぐ治療薬はないのか?1月23日、島根大学と長崎大学がある発表を行った。

島根大学医学部 浦野健教授:
新型コロナウイルスのスパイクタンパク質に対する抗体を作製いたしました。

本来なら、感染やワクチンの接種により体内で作られるウイルスへの抗体を今回、人工的に作り出すことに成功したという。                                        

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それは、ヒトの細胞に取り付き感染させるウイルスの「スパイクタンパク質」に結合し、その機能を潰すというもの。

島根大学医学部 浦野健教授:
ウイルスの細胞への感染を阻害することができる。それは、抗体の濃度が濃ければ濃いほど、ウイルスの感染が少なくなることからも明らかだ。

副作用は? アメリカで「緊急使用」承認

アメリカでは、すでに2020年から使われ始めている2つの「人工抗体」。その1つは、2020年10月時点でトランプ前大統領の治療に使われた。

トランプ前大統領:
リジェネロン(人工抗体)を投与されたが、信じられないね。今、すごい調子がいい!3日で元気だ!

と、劇的な回復が伝えられた。

人工抗体とは、新型コロナに感染し回復したヒトから有効な抗体を取り出し、そのコピーを大量生産した薬品のこと。

「人工」という名がついているものの、ヒトが元々持っているタンパク質と同じ性質のため、副反応も少ないと言われている。

そこで、アメリカのFDAは2020年11月、2つの人工抗体の緊急使用を許可。現在、全米各地の病院で使われ、治療データが蓄積されている。

人工抗体で重症化を防ぎ、入院を減らす

ミシシッピ州のシンギング・リバー病院では、大規模な治験が行われている。最高医療責任者の医師に狙いを聞くと…

医師:
この薬で目指すのは、リスクが高い人々の入院する確率を減らすことです。病状の悪化が加速し、入院する可能性を減らすことが狙いなのです。

目的は軽症者の症状悪化を防ぐことで、病床ひっ迫を回避すること。実際に効果は出ているのか?

医師:
我々の病院ではこれまでに合計425人に投与していますが、そのうち入院しなくてはならなかったのはわずか4人だけです。これはとても良い数字です。

医師によれば、もしこの人工抗体がなければ、少なくともあと20人は入院患者が増えていたはずだという。

医師:
(投与された患者は)まだ425人なので、その背景に正確な科学的根拠があるとは言えませんが、現場で働く自分としては、この薬を使ったからこそ、入院していたであろう患者を減らせたという体感があります。特効薬…とはまだ言えませんが、酷い副反応がないのもいいですね。

実際に人工抗体を投与された女性も、その効果に感謝する1人。

女性:
私は、ひどい頭痛と背中の痛みに悩まされたけど、PCR検査の結果が出て、すぐに(人工抗体の)点滴を受けられたので、悪化が抑えられたんだと思う…。あれほど急激な症状の悪化から想像すると、薬がなければもっと重症化して、入院してたはず…。人工抗体のおかげで、本当に早く元気になれたわ。

軽症での投薬で完治へ…承認には課題も

これまで日本で承認されたレムデシビルやデキサメタゾンなどは、中等症から重症向け。元々は違う病気のために開発された既存薬でもあるので、効果も限定的な場合がある。

一方の人工抗体は、新型コロナウイルスのために開発している治療薬。軽症のうちに投薬することで、中等症、重症になることを防ぐことができると期待されている。

気になる安全性について、免疫学の第一人者である大阪大学名誉教授の宮坂昌之氏の見解は…

大阪大学​ 宮坂名誉教授:
そこが問題なんですけれど、既に臨床試験が終わっていまして、アメリカでは万単位の人たちに使われて、大きな副反応はこれまでは認められていません。

日本での承認に向けてはいくつもの課題があるが、人工抗体は新型コロナとの闘いを大きく変える可能性を秘めている。

(「Mr.サンデー」1月24日放送分より)