2020年11月3日に投票が行われたアメリカ大統領選挙。FNNプライムオンライン編集部では、専門家が現地の情勢を本音で語り合うオンラインイベント『ガチトーク』を6週連続で開催した。

今回はバイデン新大統領就任に伴い、特別版を緊急開催。アメリカ政治・外交、国際政治を専門とする慶應義塾大学総合政策学部の中山俊宏教授とフジテレビ報道局の風間晋解説委員の2人に加え、ジャーナリストの木村太郎氏をゲストに迎えてガチトークを展開。その内容をお届けする。

就任式で融和を訴えたバイデン大統領。構造的な対立の克服は可能か

中山俊宏・慶應義塾大学教授:
就任式には人がいなくて、アメリカの分断を象徴していた。コロナの影響もありますが。

風間晋・フジテレビ解説委員:
全員がマスクをしていたのは、さすがバイデン大統領というところ。

ジャーナリスト・木村太郎氏:
バイデン大統領が南北戦争に引っ掛けて「uncivil war」はやめよう、汚い戦争をやめようと言った。単に感情的だったり主義主張の問題ではなく、アメリカの構造的な対立があることを認めたように見える。

風間:
しかしトランプ前大統領の名前を一度も出さないながら、トランプ的なやり方を徹底的に否定している内容でした。融和と言う割にはトランプ支持者を排除している。

中山:
34%のトランプ支持者の中に取り返せる人がいる可能性をバイデン大統領は見ている。

木村:
バイデン大統領の言うことは正しいが、アメリカ人に受け入れる余裕があるか。左派が「バイデンは生ぬるい」と言って暴動を起こしている。

トランプ前大統領の弾劾、民主党・共和党のパワーバランスの変化は

木村:
そもそも、一般人になってしまった、剥奪すべき肩書きもない前大統領を弾劾できるのか。憲法上どうなのかと言う学者もいる。ナンシー・ペロシ下院議長の狙いは、トランプ前大統領を有罪にした後で公民権停止の裁判をやり、再出馬させないことだろう。

中山:
弾劾は国を救う仕組みであって、個人を罰するものではない。しかし大統領退任後で罰せられないというのは前例としてよくない。法律家の中でも議論が分かれている。

風間:
弾劾は議会の権限だから、議会にその意思があれば可能なのでは。上院でも、弾劾に反対で共和党がまとまることはなさそう。共和党議員の17人造反は現実的ではないかもしれないが、欠席者が出ることを考えると成立も考えられる。

風間晋・フジテレビ解説委員
この記事の画像(4枚)

中山:
共和党から何人か寝返り、議会運営でも是々非々で協力する中道派に。この人たちが影響力を持つ政治構造ができると、ポスト・トランプ時代を見据え空気が変わっていく一つのきっかけになりうる。

木村:
しかし次の大統領選を考えると、共和党の議員が民主党に与することはそうはできない。トランプ前大統領が去り共和党はまとまりやすくなったのでは。

風間:
アメリカ議会政治の面白さは、どのように多数派を形成し党のラインを超えて何かを成立させるかというダイナミズム。オバマ元大統領・トランプ前大統領の時代は上院議会の面白みがなくなっていた。

中山:
トランプ前大統領もオバマ元大統領も劇場型で、地道な政策的なことには関心がなかった。しかし1973年から上院議員になっているバイデン大統領はそうした政治が大好き。上院にどっぷりで前傾姿勢で調整するような、仕事をする大統領という感じになるのでは。

共和党の4年後挽回はあるのか。「実験国家アメリカ」の可能性

木村:
共和党の挽回は大いにある。中道左派のユーラシア・グループによる「世界の10大リスク」のトップに「46」と書いてある。これは第46代米国大統領のこと。コロナウイルスよりも上位。つまりアメリカの分断がバイデン政権では収まらないだろうと。国内政策の遂行、対外的にも、分断を解消できず指導力が発揮できない。4年後はバイデン大統領への批判の嵐となっているのでは。

中山俊宏・慶應義塾大学 総合政策学部教授

中山:
これはバイデン政権であれトランプ政権であれ、第46代米国大統領の直面する状況ということ。アメリカは力強い理念と力を掛け合わせたような実験国家。トランプが大統領が出たとき「アメリカの実験はダメだったんだ」となった。その現実に対応するリアリズムでトランプ大統領を支持することはあり得た。しかしバイデン大統領が出て、まだアメリカの実験は続けられるのではという雰囲気になっている。中国との対決も含め、実験国家としてのアメリカに成功してほしい。半分プラスアルファのアメリカ人がまだまだ実験を続けられると言っている、私はそれを応援したい。ここに共和党の中道派も乗ってこなければ。

バイデン新大統領、外交経験の豊富さは吉と出るか凶と出るか

風間:
バイデン大統領は同盟国との関係を作り直すと言っている。しかし漏れ伝わってくる外交安全保障への考え方が、前世紀的であるようにも見えます。

木村:
バイデン大統領はずっと上院で委員長をやっていた外交のプロ。だからダメ。今の世の中外交のプロが通用しない。アメリカが何をやるか相手に見透かされた外交しかできない。オバマ時代のように停滞したアメリカ外交になる。

中山:
それはありうるが、ただ経験を積んだ人たちが帰ってきているのは、トランプ前大統領になかった予測可能性がある点でいいこと。アメリカが予測可能な形で地域にコミットし現状維持をすることが重要。
ブリンケン国務長官やオースティン国防長官が、アジアよりも他の地域との関係でキャリアを積んできた点は懸念点。ただ対中政策が甘くなるのではということについては、この人たちは公聴会で、中国を打ち負かさなければいけないと明確に述べている。基本的には競争戦略がある。また彼らは専門家で、日米同盟の重要性は認識されている。

風間:
トランプ外交は中国に強いからと評価されたが、それ以外のところが気にされていない。

中山:
日米同盟は対中戦略だけではない。トランプ前大統領は対中外交を民主党潰しのツールにした。対中戦略には長期的で強固な基盤がなければいけないが、そうではなかった。

アメリカは情報の荒野。フェイクニュースや陰謀論、SNSの威力と魔力

風間:
フェイクニュースや陰謀論も飛び交っています。人がこれを信じるのはなぜでしょう?

木村:
1550万人のリスナーがいるトークラジオのホストのラッシュ・リンボーがまだ「バイデンはインチキして大統領になった」と言っている。右翼でも左翼でもそういう話はある。今、アメリカのメディアは情報の荒野。しかしそれがアメリカ。「新聞のない政府より政府のない新聞の方がいい」というトーマス・ジェファーソンの言葉がある。いろんな情報が乱れ飛ぶ中で調整していくことがアメリカを超大国にしている。
フェイクニュースが多くアメリカのマスコミは疲弊しているが、アメリカが疲弊しているわけではない。問題はそれを理解せずに日本のマスコミが受け売りすること。

ジャーナリスト・木村太郎氏

中山:
木村さんが言う通りアメリカのメディアは混沌としている。最近出てきているニュース・マックスやワン・アメリカ・ニュースなどでは、「オピニオン」と「報道」の差が全くなくなっている。今回の選挙が不正だといった陰謀論をニュースとして報道したり。
今まではメディア側の倫理で働いていた自己規制がない。その状況がビジネスモデルとなり、メディアが相当いびつに歪みつつある。それが陰謀論を生む土壌になり、SNSが規制なき感情論を増幅する。トランプ前大統領はそこから出てきたモンスター。

木村:
リテラシーがなければアメリカのメディアに接することはできない。アメリカの言論は一方的で、日本の常識が通用しない。陰謀論は日本のマスコミにも相当浸透している。注意しなければならない。

■FNNプライムオンライン YouTubeチャンネル
第7回「バイデン大統領誕生!ガチトーク」木村太郎×中山俊宏×風間晋(2021/1/21開催)