程よい弾力ととろけるような柔らかい食感…もみじ狩りの行楽客に人気の「本わらび餅」

愛知・豊田市に、食感の良さで人気のわらび餅がある。その素材の美味しさを最大限に引き出すのは、老舗和菓子店の研ぎ澄まされた職人の技と勘だ。

そのわらび餅は、4年前 原料のわらび粉の確保が困難となり、一時製造を中止に追い込まれた。しかし、全国を廻り、原料を探し、人気を守り続けている。

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愛知・豊田市 稲武地区。飯田街道沿いに、165年続く老舗和菓子店「御菓子所 まつ月」はある。

この時期は「栗蒸し羊羹」(1棹2484円)に、柿を使った「眠り柿ずくし」(1本1512円)など、秋の味覚を楽しめる菓子が並ぶ。

中でも、もみじ狩りの行楽客に人気なのが「本わらび餅」(1箱1620円)。

名古屋から来た男性客:
口溶けもいいけど、歯触りもいいという。食感が非常にいいですね

別の男性客:
わらびの本当の風味が、他では食べたことがないような味ですよ

程よい弾力と粘りがありながらも、柔らかでとろけるような食感で人気の、創業当時から守り続ける看板商品だ。

素材の美味しさを最大限に引き出すのは、8代目松井公宏さん(40)の研ぎ澄まされた職人の技と勘。

8代目「職人の手はセンサーの役目」…素早く力強く練り、一気に粘りのある生地に

材料で欠かせないのが本わらび粉。精製後、3年寝かせ、より粘りを引き出した最高のものしか使わない。

まず粉を水で溶く。使う水は秋田県の白神山水という軟水。素材の良さを素直に引き出してくれる名脇役だ。

次に砂糖を加え、火にかける。
そしてここからが最も重要な工程、食感を決める「練り」。初めは優しくゆっくりと全体を混ぜる。

松井さん:
変化がないようですけど、だんだん温度が上がってきて、かたまりがちらちら見えるようになってくると、一気に変わってきます

約5分 熱が入り、わらび粉のでんぷん質が固まってきた。別の職人に鍋を押さえてもらい、素早く力強く練り、一気に粘りを引き出す。

松井さん:
手に伝わってくるのは、粘り強さと重さ…。体重をかけて練る。躊躇すると焦げてしまいますので

火を止めるタイミングは、全体の色と重さで判断する。練ること10分。しっかりと粘りが出てきた。

ここで一旦、生地を型に流し込むと「蒸し」の工程へ。

蒸し上がると、透明感が増し、ふんわりと滑らかになったようにも見える。そしてもう1度「練り」。

どこまで練るか…。見極めるのは、松井さんの手の感覚だ。

松井さん:
職人の手は、ひとつのセンサーの役目があります。木べらを通して伝わる鍋底の感じや粘りは、自分の指先が木べらになるような感覚になっていくんです

滑らかでありながらも、しっかりと粘りのある生地に。これを一晩寝かせたら、極上のわらび餅の出来上がりだ。

原料確保困難で一時製造中止も…探し続け出会った理想の「わらび粉」でつながった店の歴史

評判の「本わらび餅」だが、その味が一時途絶えたことがあった。4年前に、原料のわらび粉の確保が困難となり、一時製造を中止。

まつ月では代々、主が自ら地元の山へ入ってわらびの根を採り、1から質の高いわらび粉を精製していた。

ところが、根を採る農家の減少や、イノシシなどによる被害により、地元で確保することが困難に。それは、ちょうど松井さんが店を継いだ頃だった。

松井さん:
全国の農家さんを訪ね歩きまして、わらび粉を試させていただいたりとか。そういうところで、理想とする粘りと弾力に近いわらび粉に巡り会えました

理想のわらび粉と出会い、再びわらび餅が作れることに。以来現地に足を運び、わらび根を掘り、わらび粉作りに携わっている。

松井さん:
守ってきたものから、もちろん変わった部分もあるんですけど、絶対に負けていないと思います。より一層滑らかでしっとりと仕上げて、完成できた本わらび餅じゃないかなと

翌日、開店前にきな粉をたっぷりとまぶし、生地を切り分けたら出来上がり。

職人の手仕事と熱意が生んだ「本わらび餅」。もっちりとした弾力にとろける口どけ、そしてわらび粉本来の風味が絶妙だ。

松井さん:
お客様のお声にお応えするためにも、これが完成形という事ではなくて、さらに良くするために、進化し続けたいです

(東海テレビ)

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