SXSWの楽しみの一つは、開催期間突入するまでわからないスペシャルシークレットゲストの存在だ。
オバマ大統領、レディガガ、プリンスなどの大物セレブリティが今までも参加していたが、今年のスペシャルシークレットゲストは映画『Ready Player One』のワールドプレミアに現れたスピルバーグと、もう一人は自動車のTesla社、宇宙開発のSpaceX社創業者のイーロン・マスクだった。
オースティンのライブハウスで開催されたイーロン・マスクのセッションタイトルは「Elon Musk Answers Your Questions!(イーロン・マスクがあなたの質問に答えます!)」。
タイトル通り、会場にいる人がイーロン・マスクに質問し、その内容に応えていくインタラクティブなセッションだった。
20分ほど遅れて登場したイーロン・マスクに、会場はスタンディングオベーションで出迎えた。
2,500人のオーディエンスを見ていると、起業家もロックスターの時代であることがわかる。
特にイーロン・マスクは車、エネルギー、ロケットという巨大な産業の中で新規ビジネスを切り開き続ける現在のヒーローなので会場の熱気もすごい。
かくいう私は朝5時30分からイーロン・マスクの会場に入る整理券配布に並んでおり、大好きなアーティストのチケットを取りに並んでいた過去を思い出した。
そう、現在はチャレンジし続ける起業家は、十分ロックスター的な存在になるのだ。
そんなイーロン・マスクのセッションは、ライブハウスらしい演出が散りばめられていた。
彼自身ダンスしながら登場し、セッションの最後には弟も呼んでギターセッションで歌い踊るほどのノリの良さである。
会場からの質問で「みんなから尊敬されているイーロン・マスク氏だが、あなたが尊敬する人はだれですか?」と質問されて「(ミュージシャンの)カニエウエストだ」と答え、会場から笑いをとっていた。(彼自身は真面目に応えていたのかもしれないが)
ただ、イーロン・マスクの言葉には、クリエイティブな生き方をする人間には心に止めておくべき重要な発言があった。
テクノロジーに対しての心構え、起業家の心構え、現在の政治に対してのアラートなどが含まれる。それでは以下にイーロン・マスクが会場からの質問に答えた内容を紹介する。
(注:回答した内容を前後組み合わせて文章を紡いでいる部分もあることをご了承いただきたい)
火星への挑戦、Falcon Heavyプロジェクト
昨年秋にイーロン・マスクはスペースX社として火星移住計画を発表した。
そのプロジェクトに対して何か手伝えることはないか?という会場からの質問に対して彼は以下のように答えている。
「火星、月を目指すには、多くの人々の支援が必要になる。やるべきことはたくさんある。危険はたくさん伴うが、それよりも挑戦できることがたくさんあるので多くの起業家が参加できるような仕組みを考えている」
2018年2月スペースXは「Falcon Heavy」ロケットを宇宙に打ち上げたが、そのプロジェクトをまとめた映像が非常に感動的だった。
打ち上げとデビッド・ボウイ の曲に合わせて流れる映像に胸打つ人々は多かったが、そのような映像を作った背景をこのように語った。
「ゴールは人々をインスパイアすること。全ては可能だということを伝えたかったのだ」
「(スペースXの)競合が現れることを願っている。もっと多くの企業が宇宙産業に参加することを希望している」
ビジネスモデルは作らない
宇宙への挑戦、トンネルを掘り自動車専用道路を作る計画などイーロン・マスクのプロジェクトは常に壮大だが、どのようにビックピクチャーと細部への拘りのビジョンのズームイン・ズームアウト行なっているのか?ビジネスプランはどのようなものなのか?という質問については以下のように答えている。
「詳細を知ってこそ大きなビジョンが描ける。なのでビジョンを描くだけではなく、細部まで解像度高くプロジェクトを知ることが大事だ」
「ビジネスプランは作ったことがない。そんなものはいつも間違って終わる」
ビジネスプランについての言及は多くの来場者がツイートしているのを見かけた。計画だけ壮大でもダメで、良きプロジェクトメンバーとのプロジェクトを遂行し続けることが大事であることを実行し続けるイーロン・マスクから教えてもらえる。
AIは核以上に危険なもの
「(今までも言い続けていることだが) AIは我々が思っている以上に危険であることを認識すべきである。核以上に危険である」
上記コメントが導き出された背景にある,イーロン・マスクの意見は次のようなものだ。
“GoogleのAlphaGo ZEROのように人間に頼らなくてもAIそのものが学習することも可能になっている。AI搭載の自動運転車も年内には人間の運転よりも安全走行になる。人間のエキスパートたちが考える以上にAIが進化しているという事実をエキスパートたちがしっかり理解してないのが危険である”
テスラの自動運転ももちろんAIにより可能になっている。
しっかり危険度を理解した上でAIに取り組むべきだ、というのが彼の主張だ。公的機関を作りAIの扱いを検討する必要もあるとも述べていた。
笑いが起きていた会場内も彼が「AI is far more dangerous than nukes(AIは核よりずっと危険なものだ)」と語った時にはシーンと静まり返っていた。
AIについてメディアで目にしない日は無いが、その危険性をもっと慎重に考える必要もあるかもしれない。
火星は直接民主主義
「一人一人の発言が反映される直接民主主義(Direct democracy)を目指す」
火星移住後の政府はどのようなものか?という会場の質問に対して彼はこのように答えた。60%のコンセンサスで法律が作成され、40%の合意で古い法律が無効になるというものである。
セッション内では新たな交通網を実現するトンネル計画や、Wi-Fi発表などテスラ自動車や、スペースXプロジェクト以外にも今後も注目していきたいプロジェクトが発表された。
会場から「(実現のための)タイムラインはどうなっているのか?」という質問に対し、「タイムラインは楽観的なものだ」とイーロン・マスクは返す。
もちろん投資家や株主に対してはスケジュールを守ったプロジェクト遂行が重要視されるのもわかるが、イーロン・マスクが考え、実行するプロジェクトのように人々にインスピレーションを与え、興奮させるプロジェクトがもっともっと出てきてほしい。
私が朝5時30分から並ぶほどイーロン・マスクに魅了されるのは「そんなのできっこない!」と諦めてしまう夢をしっかり実現する行動力があるからだ。
このイーロン・マスクの講演で興奮した感覚をまた誰か別の起業家、クリエイターのプロジェクトで味わいたい。なかなか強烈な興奮を覚えてしまった。
イーロン・マスクからもらった熱量をこの記事を通して少しでも多くの方に伝われば幸いである。
●ゲストライター 西村真里子
HEART CATCH Inc. 代表取締役 / テクノロジー×デザイン×マーケティングを強みにプロデュース業や編集・ライター業を行う。Mistletoe株式会社フェロー。