世界に1台だけの薪ストーブ

埼玉県蓮田市にある工房「曽和製作所薪ストーブ工房樵焚炉」では、今では珍しくなった「一品ものの薪ストーブ」が作られている。

使われなくなった工作機械を分解し、取り出した鋳物を使って作られる世界に1台だけの薪ストーブ

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もとの機械の形状によって、その形、デザインは大きく変わってくる。この工房では一つとして同じものは生まれない。

「最初から一品物を作ろうとしたわけではなくて、元の原型を活かして作ることによってそれが一品ものになるのです」と笑顔で語るのは、この工房の代表、曽和靖夫さん。

こだわりを持った「職人気質」というよりは、新しいものを作り出すわくわくした感情がにじみ出ている人柄に見える。

薪ストーブは災害に強い

曽和さんは、大手のメーカーから仕事を請け負い、様々な部品の製作をしていたが、定年が近づいてきた頃から思うことが出てきたとという。

それは「自分の商品を作りたい」という、職人としての思いだった。

工房代表 曽和靖夫さん
工房代表 曽和靖夫さん

その頃、阪神淡路大震災が発生。死者は6千人以上にもおよび、多くの地域で電気やガスなどのライフラインが止まってしまっていた。

1月の寒い時期にライフラインが止まり、十分な暖房器具などもなく、困り果てている状況を目の当たりにした曽和さんは、もともと関心があった薪ストーブに着目し、自らの手で作ることに決めた。

薪ストーブというのは災害時に一番強いのだろうと、ライフラインが止まった時でも、薪ストーブさえあれば暖も取れますし、料理もできるし、その頃から、薪ストーブがそういうための目標で作りたいと思ってました」

曽和さんの言葉の通り、ライフラインとしての顔を持つ薪ストーブ。

工房では個人の注文を受けて製作しているものと並行して、災害時の炊き出し用の大きな鍋が入る釜付きのストーブなども作り始めた。

工作機械の再利用

15年前のある日、薪ストーブの製作を考え始めた曽和さんの目にある文言が留まった。

「重いストーブほどいい」という文言。まさにこれが、曽和製作所が作る薪ストーブの一番の特徴とも言える「工作機械の再利用」につながってくる。

工作機械というのは非常に高価なもの。モーターなどの振動や作業で生じる熱に耐え、長年の使用にも耐えてきた頑丈な作り。つまり、これらが材料となる鋳物は材質が良く、厚みがあり、これをもとに作られた「重いストーブ」イコール「いいもの」ということが言えるのだ。

「私のところでは最低でも15ミリ以上を使いますから、最低100年以上、ものによっては200年300年という耐久性を持つものもあります」と語る曽和さん。

そして、工作機械を再利用する利点は耐久性だけではない。

素材の厚みは耐久性に優れているだけでなく、耐熱効果も上がることから、薪の消費量を抑えることが出来るだ。

ストーブ本体が100年以上壊れることなく使えるだけでなく、冬の日常生活に欠かせないものとして、ランニングコストを抑えることが出来る工夫も施されている。

生活に寄り添いながら、長く大切に使ってもらいたい、曽和さんの熱意と思いがつまった、「一品もの薪ストーブ」は職人の技術力と、優しさが生み出したものだった。

撮影後記1

物である限りいつかは動かなくなり、壊れてしまいます。
自身で生み出したものがどのように使われ、どのような影響をもたらし、そしてどのように終えるのか。そこまで考えて作られていることに、驚きと、ものをつくる職人としての強い責任感を感じました。

100年後のことなんて想像すらできませんが、私の前でカメラに撮影されている薪ストーブは、毎年冬になれば火を灯し、誰かを温める。100年先まで。

医療が進歩し、もし125歳まで生きられたなら、100歳の薪ストーブに会いに行きたいです。

取材・執筆:ビデオエンジニア 矢野冬樹

撮影後記2

世界に同じ物は二つとない完全オリジナル品 。細部にまでこだわって作られた薪ストーブは工作機械から切断され作られたとは思えない形で、切断面は滑らかで無骨な薪ストーブのイメージを一掃させてくれる。 

撮影中も圧倒的な火力で工房全体を暖かく優しい空気で包んでくれる薪ストーブ。 外観からは目に付かない内部にも空気の流れが考えられ、細かな工夫がなされ綺麗な溶接が施されている。

考えられ追求された燃焼効率、4次燃焼まで行われ、100年、200年と壊れることのない絶対的な自信と職人のこだわり、技を見る事が出来る薪ストーブ。 

曽和さんの作る薪ストーブは日用品としての顔を持ちつつも美術品の様な風格でした。

撮影:カメラマン 浅野元長

撮影中継取材部
撮影中継取材部