足を切断した人々に、もう一度自分の足で走る喜びを与えたい。
しかし走るための競技用義足は高価で、簡単には購入できない。
そこで10月15日にオープンしたのが、「板バネ」と呼ばれる競技用義足をレンタルできる「義足の図書館」だ。

都内の「新豊洲Brilliaランニングスタジアム」にある「義足の図書館」には、本棚に本が並ぶように、壁一面に大人用から子ども用まで24本が並んでいる。
利用者は自分に合った「板バネ」と呼ばれる競技用義足を探して、施設内のトラックで試走ができる。
板バネは、スキー板を折り曲げたようなかたちの義足で、パラリンピックなどでアスリートが使用しているのを見た方も多いだろう。
このプロジェクトの発起人は、義足開発を行っている「株式会社Xiborg(サイボーグ)」の代表取締役・遠藤謙さんだ。

遠藤さんは、「義足の図書館」設立のためクラウドファンディングを行い、目標金額を上回る約1750万円を集めて今回のオープニングにこぎつけた。
オープニングを受けて遠藤さんは、「これから大変なんだなと改めて感じている。障がい者も健常者も走ることを楽しんでほしい」という。
日本には、足を切断した人がおよそ6万人いると言われている。
しかし、板バネを使って走ることができる人はほとんどいない。
なぜなら、通常の義足は保険適用されるのだが、板バネは保険適用外で価格は約30万円から40万円、高いものになると100万円となり、自費で購入するには負担が重い。
そして、さらに負担が重くのしかかるのが子どもだ。
「50メートル走の記録を、さらに速くしたいです」
オープニングイベントに参加したプロジェクトメンバーの1人、斎藤暖太(はるた)くん(10)。

暖太くんは、2歳の時に右足のひざ関節部を切断した。
小学校では運動も大好きで、このプロジェクトに参加してはじめて「板バネ」を体験した。子ども用の板バネの価格は、大人用とほぼ変わらないが、子どもは成長するので何本も買わなければならない。
「子どもは板バネが買いづらい。でも、子どもこそ走りたい思いが強いんです。だから成長に合わせて、簡単に使える場所が必要だと思っています。子どもにはここに『気軽に着てください』と言いたい」(遠藤さん)
遠藤さんの取り組みを後押ししたのは、暖太くんの「走るって気持ちいい」の一言だったという。
同じくプロジェクトに参加するメンバー、法政大学に通う山下千絵さん(20)。

10歳の時に交通事故で左足膝下3分の2を切断したが、スポーツ好きだった彼女は、歩行用義足でテニスを続けてきた。
「テニスをやっていたので、「板バネ」は陸上のものと思っていたし、高価で手が出ませんでした。しかし映像で見た「板バネ」のすごさに感動して『走りたい』と思いました」
山下さんは初めて「板バネ」を履いた時、「軽くてびゅんびゅん飛んで、日常生活には無い感覚だった」という。

東京パラリンピックまであと3年。
2020年に向けた遠藤さんの望みは、足を失った障がい者が走りたいと思ったときに、普通に走れる環境を作ることだ。
遠藤さんは、「1か所こういうものがあっても、障がい者は点在しているので多くの方は使えない。皆が使えるようなインフラになると面白いなと、移動図書館みたいなことをやりたいと思っている」
「義足の図書館」が、あらたな社会インフラになる日がやってくる。
