“額縁の向こう”から品物を提供…

額縁というと絵画や賞状などを飾るもので、その絵画の魅力を引き立たせてくれたりするが、そんな額縁の向こうから、飲み物などが提供される喫茶店が存在することをご存知だろうか?

そのちょっと不思議な喫茶店は、瀬戸内海に面する香川・多度津町にある、アンティークとデザイン雑貨、珈琲の店「Tetugakuya」

香川の多度津町にある蒐集古物喫茶「てつがく屋」はカウンターとキッチンの間が額装になっていて絵の中からお茶やケーキを提供してもらえる。向こう側を覗くたび景色が変わる不思議空間にすっかり心奪われ気付けば2時間も居座ってしまった…これはフェチ心のど真ん中に刺さります… #瀬戸大橋を渡ろう
 

写真家のnociさん(@nocci_95)が、「心を奪われ2時間も滞在してしまった」というコメントと共に投稿した画像が、Twitterで注目を集めているのだ。

画像を見ると、装飾の施されたレトロな額縁の中に一人の女性…マスク姿ということもあり、いまどきの絵画か写真の作品のようにも思える。

一見すると、まるで絵画か写真の作品のよう(提供:nociさん(@nocci_95))
一見すると、まるで絵画か写真の作品のよう(提供:nociさん(@nocci_95))
この記事の画像(11枚)

しかし別の画像では、なんとその女性が、額縁を飛び越えて飲み物を提供してくれているのだ。

額縁の奥から飲み物を提供する店主(提供:nociさん(@nocci_95))
額縁の奥から飲み物を提供する店主(提供:nociさん(@nocci_95))

この喫茶店は、カウンターとキッチンの間がいくつかの額縁で仕切られていて、その額縁越しに飲食を提供しているのだ。客側からすると、まるで絵画の世界から品物を提供されているかのような不思議な感覚だろう。
 

提供:nociさん(@nocci_95)
提供:nociさん(@nocci_95)

投稿を見たTwitterユーザーからは「物語にでてくるような喫茶店!」「是非行って浸りたい」といった店の雰囲気に興味を持つ人などで、3万8000のいいねの反響がある(12月11日時点)。

額縁を使った提供も相まって独特の世界観を感じられるお店だが、いつからこの額縁は設置されたのだろうか?またこのアイデアはどこから思いついたのだろうか?「Tetugakuya」の店主・杉原あやのさんに話を聞いてみた。

きっかけは新型コロナ

ーーいつからカウンターとキッチンの間に額縁が設置されたの?

新型コロナウイルス感染症の今でいう第一波の頃でしょうか。緊急事態宣言も出ていました。この時、額装を設置しました。

SNSはコロナの話題で染まり、それ以外の話題をするのも憚られるような空気がありました。幸せな顔をしていると、不謹慎極まりないかのような様子も感じられました。まるで世紀末のように行く末の見えない状態に、誰もが自営業をされている方は、精神的にも苦しい時期だったと思います。

当店のお客様には、自営業者様やフリーランスの方もいらっしゃいます。心底追い詰められた時にこそ、自分がどうあるのかが問われていると思いました。生きるためには、自分にとって喜びが必要です。そして、自分の行為が人の喜びになることそれ自体も、大きな喜びです。額装するのは、そういう理由でした。


ーー額縁を通して提供するアイデアはどうやって思いついた?

相手の顔も見えて、飲み物も出せるし、もしも感染症の拡大が深刻な状態になった時に、アクリル板を設置できる衝立を考えたときに、逆に額縁以外のアイデアが思い浮かびませんでした。

当初は合板を所々くり抜いてもらい、くり抜いた部分に額縁をつけてもらう予定でした。制作を依頼した美術家カミイケタクヤさんによって、最終的には、格子状に組んだ木に額縁を設置することになりました。今具現化しているものは、カミイケさんの技術とセンスによるものです。

カウンターに額縁を取り付けた時の様子(提供:Tetugakuya)
カウンターに額縁を取り付けた時の様子(提供:Tetugakuya)

ーーカウンター席に座ると、必ず額縁から提供されるの?

現在のところ、L字カウンターの一面が額装されています。額装されていないコーナーもあります。


ーー額縁の設置で、正直、不便だなという点はある?

額縁の縁が丁度お客様の目線に被ることがあります。


ーー額縁から提供したときの客の反応は?

自分の前では皆様特に反応といったものは見られず、そして、自分が額縁から飲み物を提供されたことがないので良くわからないのですが、Twitterで反響を頂き、想像以上に喜んでいただけているのだと思いました。

当店は、本質的にはお洒落喫茶ではありません。私の人生の実験場であり、まだ、途上でしかありません。できれば、お客様にも一緒にTetugakuyaというこの場を一緒に育てて頂きたいですし、これからの変化を楽しんで頂きたいと思います。

額縁が並ぶカウンター(提供:Tetugakuya)
額縁が並ぶカウンター(提供:Tetugakuya)

最初は喫茶店ではありませんでした

ーーそもそも「Tetugakuya」は、どういったお店なの?

Tetugakuyaは、常に変化の過程の只中にあり、言葉にすることが難しい場です。色々な顔を持ち合わせているとも思います。強いて言えば、オーナーその人の現れです。私としては、単純に喫茶店というよりは、自分が創っている空間を尋ねてきてくださった方を、もてなしているような感覚が強いかもしれません。Tetugakuyaが、一体どういう場なのかは、何度も通っていただく中で、お客様に発見して頂きたいと思います。

そもそも最初は喫茶店ではありませんでした。お客様との出逢いの中で、学び、成長し、それがそのまま店のサービスや内装に直接的に反映されてきました。

オープン以来、店内は改装を続けています。オープン当初は、店とは言い難いほどショボショボの店内でした。そんな状態でも応援してくださるお客様がいましたので、今に至っています。応援してくださったお客様に「自分の見る目は間違っていなかった」と思ってもらいたいということが、変化し続けるモチベーションの一つにもなっています。この店は、お客様参加型の店ではないか思っています。それに、まだまだ思い描いている空間には程遠い状況です。

店主の杉原あやのさん 提供:Tetugakuya(撮影:oronさん)
店主の杉原あやのさん 提供:Tetugakuya(撮影:oronさん)

ーーお店のコンセプトは?

まず日常から少し離れて、色々な事を問い直したり、考えたりできる空間にしたいと思いました。

「当たり前」だと思われていることが、Tetugakuyaでの対話では、「当たり前」にされなくても良いのです。口にする事を控えようと飲み込んでしまう想いの数々の中に、大切な真実があるとも思うからです。

本当のことを知りたいと求め、考え、悩み、学び、模索する人々にとって居心地の良い場所になれば良いと思いました。少なくとも幼いときの私はそういう場所と真剣に対話ができる大人を求めていました。ジブリ映画の『耳をすませば』の主人公・雫が辿り着く不思議なお店は「地球屋」ですが、私も誰かの地球屋になれないだろうかと思っています。残念ながら、中の人は渋いおじいさんではなくて、私なんですけれども。

お客様にとって居心地の良い場であったり、刺激を得られたり、新しいアイデアや出会いのある場であれば、と願っています。

提供:Tetugakuya(撮影:oronさん)
提供:Tetugakuya(撮影:oronさん)

最初は杉原さんの趣味であるインテリアの影響から、アンティークや雑貨を販売する店としてスタート。「自分の夢みる別の世界を空間として作り上げたい」という目的で店を始め、その空間を誰かが見つけ、訪れてくるのを待っていたという。

そして、人々が気にかけてくれるようになった時、談笑の場にはコーヒーが必要だと思い、喫茶が始まったという。語ってくれたコンセプトも数ある中の1つであり、あとは実際に「Tetugakuyaに来店して感じてほしい」と店主・杉原さんは話している。
 

提供:Tetugakuya
提供:Tetugakuya
 

ちなみに、名前が「Tetugakuya」だからといって、哲学を専門に学んだ人が来店するといったことはほとんどないそうだ。

「Tetugakuya」は、毎週土曜・日曜の13~19時のみの営業となる。また、常に変化のある店のため、状況によっては営業日も増えたりするかもしれないとのこと。来店を考える際は、事前にTwitterなどで情報確認してほしいそうだ。
 

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プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

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