爽やかな炭酸にバニアライスの甘味がマッチする、クリームソーダ。猛暑となった今夏、涼しさを求めて注文した人も多いかもしれない。
そして、味もさることながら、なみなみ注がれたソーダに球体のアイスが浮かぶシルエットが魅力的。どこか懐かしさを感じさせる雰囲気もあり、カフェでは定番メニューのひとつだ。
そんなクリームソーダのデザインをめぐるある投稿が、Twitterで注目を集めている。
「クリームソーダの盛り付けを変えただけで前年比500%って話。」
発信元は、岡山県と奈良県でカフェ「うのまち珈琲店」を経営する、オダツトムさん(@odatsutomu)のアカウント。このお店で提供するクリームソーダの盛り付けを変えたところ、メニューの売上が前年比で500%、つまり5倍に増えたという。
この比較をクリームソーダの新・旧バージョンの画像と合わせて投稿したところ、2万4,000件のリツイート、8万9,000件以上のいいね!が寄せられているのだ。(9月11日現在)
新旧のクリームソーダは「昭和」と「令和」?
それでは、実際にはどの部分が変わったのだろうか。両者を比べてみると...
旧バージョンのクリームソーダは、グラスに注いだブルーソーダにバニラアイスとチェリーを浮かべたもの。一般的な盛り付けであるが、このままでもコントラストが鮮やかでおいしそうではある。
そして気になる新バージョン。
こちらはグラスの底にシロップを沈め、その上にソーダ。さらにその上の飲み口部分には、バニアライスとチェリーが支え合うように盛り付けられている。シロップの青とソーダの透明の対比が美しく、よりフォトジェニックな印象を感じる。
Twitterユーザーの好みは分かれたようで、新バージョンを「おいしそう」と感じる人もいれば、旧バージョンが好きという人も。新旧の画像を見て「左(旧バージョン)は昭和のクリームソーダ、右(新バージョン)は令和のクリームソーダ。どっちも好きかもしれない...」と表現する投稿もあった。
どちらもおいしそうではあるが、売上が5倍に伸びた理由はどこにあるのだろうか。デザイン面ではどんな工夫を施したのだろう。うのまち珈琲店の店主・オダツトムさんに話を伺った。
「バニラの球体」を見えるようにしたことがポイント
――クリームソーダの盛り付けを変えたのはなぜ?
もともとは岡山で営業していましたが、2018年12月、2号店を奈良県に出店しました。その際、店名のロゴ入りグラスがあれば覚えてもらえるのではないかと思い、パフェ用のグラスを製造したのがきっかけです。
せっかくグラスを新しくするなら、パフェだけでなくドリンクにも使いたい。それなら、クリームソーダのデザインも変えようかと。軽い気持ちです(笑)。
――具体的にはどんなところを変えた?
いきなり大きな変更を加えたのではなく、SNSでの反応などを見つつ、試行錯誤を重ねました。一番変えたのはバニラアイスの位置ですね。以前はグラスにすっぽりとはまるような形でしたが、今は全体が見えるようにしています。なぜそんなことを...と思われるでしょうが、バニラアイスの球体が見えるようにすると、SNSでのシェアが一気に増えたんです。
言葉で表現するのは難しいですが、このバニラアイスのように「これなら若者が好むのでは」「こうしたら面白いのでは」と考えながら変更を加えています。青いシロップをグラスに沈め、ソーダとのグラデーションが出るようにしたのもその影響ですね。
まさかの200杯→1000杯に激増
――量や値段などは同じ?売上はどう変わった?
値段は600円(税込)で同じです。量はグラスサイズが違いますが、氷などで調整しているのでモノ自体は変わってはいません。新バージョンにはミントがないので、原材料は安いくらいです。
売上は、2018年の6~8月で約200杯。1日2~3杯程度でした。これが、2019年の同時期には約1000杯まで増え、クリームソーダがお目当てのお客さまも見るようになりました。
――なぜ売上が伸びたと思う?
これは個人的見解ですが、Instagramは「きれいなもの、素敵なもの」、Twitterは「ひねりのあるもの、一癖あるもの」がシェアされやすいと考えています。言葉での表現は難しいですが、新しいデザインには“響く要素”があったのではないでしょうか。
例えば、今回の出来事がTwitterで話題となり、取り上げていただけるのも「デザインを変えただけで売上が5倍になった」という付加価値があるからだと思うのです。これが「新作のクリームソーダできました!」と投稿していたら、こうなってはなかったと思います。
デザインはSNSの“エゴサーチ”で試行錯誤
――盛り付けのアイデアや工夫したところなどはある?
先ほども触れましたが、SNSの反応を参考にしています。岡山でお店を開いた約2年半前は「こんなもんかな」と作っていたのですが、そのうち、SNSで支持される要素を自分の中で蓄積するようになりました。言葉で表現するのは難しいのですが、エゴサーチ(自分の作品などをSNSで検索する行為)をして、「チェリーの位置はこれだな」とか(笑)。
スタッフの皆さんとも試行錯誤を重ねて、「これがうちのクリームソーダ」と思えたのは2019年8月末のことです。これからも考えるでしょうし、お客さまがカスタマイズしたものを響くと感じたなら、そのデザインを採用することもあるでしょう。
――お店の関係者やお客からの反応は?
SNSでの反応が大きいですね。新しいデザインになってからは、「かわいい」といったコメントと一緒に投稿してもらえるようになりました。ただ「以前の方が好き」という声もあるので、これが正解...というよりは、いろいろな意見があって良いと思います。個人的には、自分の価値観だけで進めると、上手くいかないこともあると学べました。
パフェは1日5食から「看板メニュー」にまで成長
――他のメニューで同じようなケースはある?
「クレームブリュレパフェ」でも似た現象がありました。グラスの底から、フルーツのソルベ、バニラアイス、グラノーラ、イチゴ、プリン、クリームを乗せ、ブリュレでふたをしたメニューです。旧バージョンはソルベとアイスの境目がランダムで、パフェの内部も見えていましたが、新バージョンではソルベとアイスの層を直線にして、内部も見えにくいようにしました。
こちらはクリームソーダよりも変化が大きく、注文数も旧バージョンは1日5食程度でしたが、新バージョンでは1日100~120食まで増え、看板メニューとなりました。お店の知名度が高まった影響もあるので、一概には言えませんが、グラスのロゴが見えやすくなったり、パフェの表面かつるっとした印象を与えるようになった影響では...と受け止めています。
――商品のデザインなどについてのアドバイスなどはある?
飲食店では、お客を呼ぶためにメニューの総入れ替えをするお店もあるでしょう。ですが、少しデザインを変えたり、若者が好む要素を取り入れるだけで改善できる可能性もあります。自分は友人間ではアドバイスすることもあるので、必要な人がいれば協力もできればと思います。
ただ、デザインよりも優先するべきこともあります。自分の場合は、提供するまでに時間がかかったり、作り手となるスタッフの腕を選ぶようなデザインは採用しません。誰でも作ることができ、一般的な時間内に完成することが大事だと思います。もしかすると、素敵なもの、響くものを目指す姿勢みたいなのが、何より大切なのかもしれませんね。
今回の成功は、店主自身の価値観だけで進めたのではなく、SNSの反応をうまく取り入れたことにあるようだ。これからはこのようなお店も増えるかしれないので、もしお気に入りカフェなどに伝えたいことがあるときは、それとなくSNSでつぶやいてみるのも良さそうだ。