文部科学省が先月公表した「国立大学付属学校の入学抽選化」提言を巡って、賛否両論が巻き起こっています。西山喜久恵アナウンサーと、この提言で何が懸念されるのか、トークしました。

 
 
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国立大付属校、本来の役割とは?

西山アナウンサー:
さて、きょうのテーマは、「なぜ国立大付属校の入試を抽選に」ということなんですが、こちらを説明しますと…。

文科省では、少子化に伴う教員需要の減少に備えて、教員の養成の中心的な役割を果たしている国立大学や学部の在り方について有識者会議で議論してきたんですが、その報告書が先月29日にとりまとめられました。

その中に盛り込まれた国立大学付属学校の中長期的な対応策が「エリート校潰し」になりかねないとして、議論になっているということですね。

鈴木:
はい。まず、この有識者会議では、国立大付属校の中で、「いわゆるエリート校」と呼ばれる学校は、本来の使命・役割に立ち返り、多様な入学者選考の方法を実施すべきであると強調しています。

国立大付属のエリート校と言うと思い浮かぶのは、たとえば「筑駒」と呼ばれている筑波大付属駒場高校とか、筑波大付属、東京学芸大附属、お茶の水女子大付属、大阪教育大付属、西山アナの故郷・広島大付属などですね。

西山:
エリート校で本当に優秀な学生が通うというのはわかっているんですが、そもそも国立大付属の本来の使命や役割ってなんですか?

鈴木:
国立大学付属校の本来の役割は、教員養成のため教育実習を実施し、実験的な学校教育を行うなど教育研究をサポートすることでした。しかし有識者会議では、一部の学校がエリート校化してしまい、教育課題への取り組みが不十分だというのです。

西山:
エリート校がきちんと本来の役割を果たしていないということですか?

鈴木:
現在国立大付属校は、全国で256校あり(幼稚園49、小学校70校、中学校71校、高校15校など)約9万人が通っています。

そのうちエリート校と称される学校では、学力の高い児童生徒が集まるため、多種多様な子どもたちにどんな教育が効果的かというような研究ができないという批判がこれまでもあったんです。

特に最近では、発達障害や外国人の子どもへの教育支援のニーズが高まっていて、国立大付属校には「本来の役割を果たしてほしい」との声も上がっていました。

有識者会議としては、こうした声をもとにエリート校に「改革」を迫ったんですね。

選考方法は「抽選」と「保護者の同意」?

西山:
ただ、多様な生徒を受け入れるというのは大事だと思うんですけど、その選び方ですよね。

鈴木:
はい。有識者会議ではエリート校に入試の見直しを迫っていて、具体的には、「選考に当たっては、例えば、学力テスト等を課さず、抽選と教育実習の実施校かつ研究・実験校であることに賛同する保護者の事前同意の組み合わせのみで選考する方法や、学力テスト等を課す場合であっても、選考に占める学力テスト等の割合を下げるなど、各学校の特色に応じつつ、多様性の確保に配慮し、そのために必要な教育環境の整備も合わせて検討されるべきである。」と記しています。

「学力テスト等を課さず、抽選で」とすると、様々な学力の生徒が入学してきますね。

西山:
この報告書をうけて文科省もその方向なのですか?

鈴木:
有識者会議が2021年度までに見直しをやってくれということですが、この報告書について林文科大臣は8月29日の閣議後会見で「付属学校の入学者選考で学力テストをやってはいけないと言っているわけではない」といいましたが、一方で「各付属学校がそれぞれの存在意義・役割・特色などを明確化していただいて、公立学校のモデルということで高く評価される学校となるように支援していきたい」と、選考方法に抽選を導入することを否定しませんでした。

西山:
これについて賛否両論が巻き起こっているそうですね。

鈴木:
この報告書が出る2日前、27日に読売新聞がスクープしまして、経済界・学会などさまざまなところで賛否両論が巻き起こっています。

私の知る限り圧倒的に反対意見が多いのですが、例えば一つの意見として、たしかに国立大学付属校の本来の設立趣旨は、教員養成や教育の研究だったのかもしれませんが、そもそもこういうエリート校は、もはや小中学校の教育研究の役割以上に、日本の国力が停滞する中で国や社会を引っ張るエリートの輩出こそが期待されているのではないか、というものがあります。

アメリカや中国はまさにそういう教育をしていますね。

西山:
あとはやはりエリート校への憧れ「あの学校に行きたい」という部分があっていいんじゃないかなと思うんですけど。

鈴木:
こうした国立のエリート校を抽選にすれば、当然様々な学力の生徒が入学することになり、これまでの質を維持するのが難しくなる。

経済的に裕福な家庭の子女は、これを嫌って、より高い学費を支払ってでも私学に進むことになりますが、裕福でない家庭の子女はこれができず、経済格差による教育機会の不平等が生まれ、教育格差が拡大することにつながるという意見もあります。

国立大付属校の抽選入試がもたらす学力格差

西山:
今後の国立大付属校としての役割を果たしてほしいですけど、選考方法は考えた方がいいんじゃないかなと改めて聞いて思いました。

鈴木:
実はこうしたことはこれまでも起こってきたんです。

その一つが1967年から81年まで行われた東京都の学校群制度(学校群の中で、各学校の成績が均一になるよう振り分ける)です。

この制度は過熱する受験競争を緩和し、学校間の学力格差をなくす狙いがあったのですが、当時の都立のエリート校、日比谷、西、新宿、小石川などが、軒並み学力が下がっていってしまったんです。

エリート校に進もうとしていた生徒がどこに行ったかと言うと、裕福な家庭の子どもは開成、麻布などの有名私立高校に進んだんですね。

経済的に恵まれた子どもは都立から私立に逃げ、そうでない子どもは制度導入前の質の高い教育が受けられなくなった。 つまり、親の所得差によって、子どもの学力格差が生まれる結果になったのですね。

ちなみにこの制度は当時、千葉、愛知などでも採用されています。

西山:
過去にそういう歴史があったのであるならば文科省の方針も海外の良いモデルを真似するという方向になぜいかないんですか。また繰り返してしまうようで心配なんですが。

鈴木:
私は教育の研究対象校というのはあってもいいと思うんです。

教育の研究対象が必要であるなら、国立校に限らず、全国の公立の中にもさまざまな独自の取り組みをしている学校がたくさんあるんですね。

国はそういう学校から研究対象を探してみてもいいと思うんです。

学校の役割は時代とともに変化するものですから、政府が旧態依然とした価値観や役割を教育現場に押し付けるなら、日本の教育に未来はありません。

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。