2025年に突入する超高齢社会に向けて

「2025年、介護のリーダーは日本のリーダーになります」

 
 
この記事の画像(6枚)

夏休み真っ盛りの日曜夜、介護の現場で働く若手を中心に約90人が参加した「HEISEI KAIGO LEADERS(平成介護リーダーズ)」のイベントは、主催者である秋本可愛さんのこんな言葉で始まった。

イベントでは医療と介護をテーマに、参加者それぞれが現場で覚える違和感や課題を提供し合って、グループディスカッションをする。
というと、とても堅苦しいイベントを想像しがちだが(筆者もそう思ってイベントにやってきた)、夏ということで主催側は浴衣姿。
会場は、まるで学園祭かアイドルのサイン会のような華やかさだ。 

2025年は、団塊世代が75歳を超えて後期高齢者になり、国民の3人に1人が65歳以上となる。
日本は2025年、人類がこれまで経験したことのない超高齢社会に突入するのだ。

ここで課題となるのが、介護人材の確保だ。
2025年には必要とされる介護人材が、253万人を超えると言われている。
一方、確保できる人材は215万人で、40万人近くの人材が不足する見込みだ(厚労省推計)。

実は介護職員の数は、2000年当時は55万人だったが、2013年度には171万人とほぼ3倍に増えている。
しかしそれでも介護現場の人材不足は解消されない。
2025年まで、あとわずか8年。
老老介護のリスクが叫ばれる中、新たな労働力、特に若い介護人材の確保は国を挙げて取り組むべき課題なのだ。

「HEISEI KAIGO LEADERS」は、介護を進学、就職、結婚、出産など、ライフイベントの1つと位置づける。
「『人生の終わりが必ずしも幸せでない』のは嫌だ」
こうした想いをもった、介護現場で働く平成生まれの若者が参集したのが、このネットワークだ。
主催者は、秋本可愛さん。平成2年生まれの彼女は、大学卒業後、株式会社「Join for Kaigo」を起業し、若者の介護への参入・定着の支援に取り組んでいる。

秋本可愛さん
秋本可愛さん

その秋本さんに、なぜこの取り組みを始めたのか、介護に対する想いを伺った。

――まず、介護の現場で働こうとしたきっかけを教えてください。

秋本:
きっかけは大学2年のときに起業サークルに加入し、たまたま介護がテーマのチームに入ったことです。当時は介護のテーマに魅かれたというよりは、自分が成長したいという想いでした。

サークルでは、認知症の人と読むフリーペーパー作りをしたのですが、認知症をもっと知りたい、しっかり理解したいと思い、デイサービスでアルバイトを始めました。

――介護は楽しかったですか?

秋本:
現場では週2日、夜勤もやりましたが、楽しかったです。そもそも高齢者と接するのが好きなこともありましたが、自分のかかわり方、関係性によってその人の表情が変わってくる、介護の仕事の面白さを感じました。

一方で、面白さと同時に課題も感じました

働くスタッフの入れ替わりが激しく、きつくて辞めるというより、リーマンショックの後だったので生活のために働いている、そもそも介護志望ではない人も多かったです。

また、家族も仕事と介護の両立ができなくなり、介護放棄がありました。

こうした状況への課題意識が湧いてきたところに、東日本大震災がありました。

震災を受けて若い人たちの社会貢献活動が加速し、たとえば復興支援に学生が立ち上がったり、国際貢献がさらにさかんになったりしたのですが、その波に介護の領域が乗れていない。日本では介護の現場も大変なことになっているのに、若い人たちの社会貢献をする選択肢の中に介護が入っていない。

関心を持たれていないことに、違和感を覚えました。

――私も学生時代には、身近に介護を受けている人もいなかったこともあり、介護について関心がありませんでした。なぜ若い人は介護に関心を持たないと思いますか?

秋本:
私も学生の時には介護問題を考えなくてよい環境でしたし、関心はありませんでした。

介護には3Kのイメージもあって、若い人にとっては積極的に関わりたいという機会がなかったと思います

――介護現場で経験を積みながら、株式会社Join for Kaigoを起業したのですね?

秋本:
起業は2013年4月です。起業のテーマは、どうやったら若い人たちが関心を持ち、課題解決する人材として活躍できる環境を作れるのか、でした。

 
 

現場の課題はやはり「人材」

――介護現場の課題のうちで、最も解決したかったものは何ですか?

秋本:
人材です。量と質が足りていない。

介護現場にいる人たちの想いが、活躍しきれていない環境がありました。

離職の1番の理由は、実は待遇面というより人間関係なのです。

想いをもって入ってきた若い人が、介護を嫌になって辞めるのではなく、働く環境自体が嫌になってしまう。

先輩が厳しいとか、人間関係が悪くてやりたい介護ができない。高齢者のためにやりたいと思っていたのに、目の前のことに忙殺されてしまう。

そこに待遇面の問題も出てきます。

確かに待遇はよくはないと思います。今の給料は全体の産業に比べると低い面はありますが、そればかりが問題とは思いません。

――課題に対する具体的な解決策、活動は?

秋本:
介護に志のある若手のコミュニティ「HEISEI KAIGO LEADERS」を運営し、その中でイベントや教育プログラムを行っています。
いま約30人が運営にかかわっていて、介護や医療など現場を持っている人もいれば、学生や人材系企業、IT系企業、金融界で働いている人もいます。報酬は基本的に発生していないので、自発的に参加してもらっているかたちです。

介護の領域では、専門知識を磨く場はたくさんあります。

しかし、人が足りない、財政が厳しいなどいろいろな課題がある中で、目の前の高齢者を自分の知識やスキルで幸せにすることだけが、私たちに求められているわけではありません。

持続可能な社会、生きる環境を作るために、どういう新しいコラボを生んでいくか、いろいろな人をどのように巻き込んでいくか、既存の枠にとらわれない新しい視点を学べる場が必要かなと思います。

たとえばITと介護で新しいサービスをテーマに取り上げてみたり、国が掲げる「地域包括ケアシステム」や「地域共生社会」について、実践者に来てもらい学んだり。

ほかにもリーダーシップやチームビルディングについて学ぶなど、様々なテーマでイベントを行っています。

もう1つは、想いがあってもアクションに変えなければ未来は変わらないと思い、教育プログラムとして「KAIGO MY PROJECT(介護マイプロジェクト)」をやっています

このプログラムでは、学生から専門職、他の業界の方まで参加してもらい、それぞれの想いを3か月で具体的なアクションに変えていくものです。
 

若手プレイヤーが活躍できる場を

――起業してからほぼ4年になりますね。ソーシャルインパクト、手応えはいかがですか?

秋本:
介護業界で若手が盛り上がっている、若手のプレイヤーが見える化したことで、業界全体として若手を応援する兆しが生まれてきたと実感しています。

疲弊している、課題だらけと言われる介護業界の中で、若手が成長していること自体が、どうやったら変えていけるのか悩んでいる業界の大人にとっては、大きな希望であり、応援したい存在です。

 
 

こうした大人たちから、いまどうやってイベントをやっているのか、どうやって若手を集めればいいのか、相談がたくさんきています。

もう1つの手応えとしては、想いがあって組織に入ったものの、なんとなく目の前の仕事に追われて想いが見えなくなっていた人たちが、想いのある人たちが集まる場に来ることで、忘れかけていた想いに火がつく

そして、組織の中でチームビルディングを行う、地域とコラボするなど、個々の変化、動きが見えつつあります。

――今後のビジョンについて教えてください。

秋本:
大きく2つあります。
1つは今の動きを加速したい。第3の場としてのコミュニティとして価値を感じていても、まだ参加者1千人くらいで、しかも東京でしかできていない。
いろいろな地域に想いのある人たちがいるので、皆に早く届けたいです。

もう1つは、一方で第3のコミュニティとしての限界を感じていて、ここで学んで意欲が出てさて実践しようとすると、組織の壁が立ちはだかる。

でもまだ私たちの世代は、組織の中で力がないんですよね、残念ながら。

やはり役職を持った人が、どうビジョンを掲げて動いていこうか示してくれない限りは、なかなか下から組織を変えるのは難しいし、パワーがいると。
そこで、組織、法人に対してアプローチをしたいと思っています。

いまは若手人材がどう活躍できるかという切り口から、採用から育成までをテーマに、法人を対象に仕事を始めました。

若手が活躍できるのが第3の場だけでなく、組織の中でも継続的に作れるようにしていきたいなと思っています

 
 
鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。