「君に志はあるか?」

俳優・伊勢谷友介が始めた「学生版松下村塾リバースプロジェクト with ITOKI」は、こんな挑発的な言葉から始まった。

 
 
この記事の画像(5枚)


7月29日から31日まで、都内にある「イトーキ東京イノベーションセンターSYNQA」で行われたこのプロジェクト。志をもって国や社会の課題を捉え、解決策を行動にうつすことができる人財の育成を目指すものだ。

このプロジェクトには、全国から大学生や社会人など約70名が参加。参加者は3日間のプログラムの中で、自分の創りたい未来を想定し、その未来を実現する手段、事業プランを立案して最終日にプレゼンテーションを行う。

では、なぜ俳優の伊勢谷友介が、現代版「松下村塾」プロジェクトを起こしたのか?

伊勢谷友介は俳優であると同時に、社会、そして地球に貢献するソーシャルビジネス「株式会社リバースプロジェクト」代表でもある。リバースプロジェクトは、「人類が地球に生き残るためにはどうするべきか?」を命題に、環境や消費の問題などを通して、未来における持続可能な生活の実現にむけたさまざまな取り組みを行っている。

リバースプロジェクトの合言葉は「挫折禁止!」だ。

伊勢谷友介にこのプロジェクトの全貌を、フジテレビ解説委員鈴木款が聞いた。

――まず俳優の伊勢谷友介がなぜ教育のプロジェクトを始めたのか、教えてください。

伊勢谷:
たとえば道路を工事している時に、必ずあっちこっちに人が立っています。労働の中でもレベルが低いと思われがちですが、もし彼らの1人が病欠したら社会的マイナスが大きい、本来はかなり責任が伴っている職業です。

もし志があったら、今自分がやっていることは社会のサーキュレーションをしっかりと回している重要なキーだということを理解できる。それが、彼らがこの仕事を楽しむ理由になると思います。

一般の人たちが何のために自分は生きていて、自分の行為はどうやって社会に役立っているのかというところまでわかれば、幸せな人生に近いのではないのかなと思っています。では、今の教育ってそういうことをやれているのかなと思うと、まったくやれていない。教育の中でたくさんイノベーションを起こす側の人間をつくって、そのスピードを速めることが、僕らができる社会的貢献のアプローチだと思いました。

もう1つは、うちの会社(「株式会社リバースプロジェクト」)にそういう人間がたくさん入ってほしいというのがあって、彼らと出会うきっかけにしたかったということもあります。

 
 


――伊勢谷さんは東京芸大の出身ですが、ご自身の大学生活を振り返って今の学校教育をどう思われますか?

伊勢谷:
基本的に僕らの世代は、大学を遊ぶ時間としてとらえていたのがかなりありました。それをやってみて過ごしてみて、出来上がった人間で、じゃあどうなのかといったら、本筋で芸大に入った理由をすっ飛ばして、別のことやるわけですよ、みんな。これってなんなんだろうなと。

本来アーティストがやらなければいけないことは、お金じゃなくて、未来のビジョンを作ってそれにアプローチするための表現方法としてアートがあって、それで人を感化させて、イノベーションが起こるようなトリガーになるということ。

それが今のところ芸大は全くできていなくて、最近「フューチャービジョン」という学科が出来上がって、僕もたまに特別講師で呼んでいただいていますが、でも彼らの場合はアートばっかりで、プロジェクトビルドの人と関わって構築するというのが全然できていなかったです。

――そもそも伊勢谷さんはなぜ俳優を志したのですか?

伊勢谷:
元々、俳優になりたくて俳優になったのではなくて、僕は映画監督になりたくて、映画の演出を勉強できるのだったら、俳優のポジションが1番良いんだろうなと。そういうところから俳優やらせていただいたのがきっかけで、映画監督になりたくて、俳優になったんです。

映画監督を何度かしたんですけど、それが実際に社会に与える影響力はどうかと。自分で考えてみても、そんな大好きな映画が自分の人生をまるきり変えていくかというと、ほぼそうではなくて。

ビジョンのスピーカーというのは絶対に必要ですけど、それと同時に同じコンセプトで実行しているという状態と、両方あることによって、社会はそれをなるほどねと。

理解しやすいゾーンに行けるんではないかと思ったのが、両方をやっているきっかけです。

――この「松下村塾」ですが、NHK大河ドラマ「花燃ゆ」で伊勢谷さんは吉田松陰役でした。「松下村塾」と言えば、「知行合一」「志をもって万事の源となす」ですが、なぜ若い人たちを対象にいま、松下村塾をやろうと思ったのですか?

伊勢谷:
今の教育に両方なかったんですよね。「志をもって万事の源となす」ということは、1回も教育の中でちゃんと考えたことはなかった。

志って何なのかなっていうことを、みんなちゃんと考えていない。「知行合一」で勉強させてもらってないから、勉強は何のためにしているかわからないという答えが聞かれる。それを打破したかったというのがあります。

おそらく「知行合一」をしていると、数学や木工を勉強するなら家を建てようという風になる。そのほうが、子どもたちが自分は何が得意で、自分の中でどう働きかけられるか考えながら勉強ができると思う。

でも日本の教育はそういう風にはできていないので、そこが僕はちょっと悔しかったのがあります。

未来をつくるつもりがなくて、安定にはまることによって僕らは生きている。でもそれは絶対に人間としての機能を剥奪していく。いつの間にか、触らないことで何も起きない状態を作っていることになっている。

つまり今、人類が地球とのバランスを取らないといけないという命題がある中で、そのことを考えないと今の状態のまま安定に進む。そうすると、イノベーションよりも安定に進んでしまった瞬間に、人間がどんどん今の悪循環を担保する側の人たちをつくっていっちゃうと思ったんです。

一番言いたいのは、そうじゃないイノベーションを起こせるという人類の機能を最大化して、その人たちが社会とかかわって、社会のサステナビリティに対して最適化をしていく。

新しいインターネットであったり、AIだったりとか、社会の最適化をするのがすごく勢いをもって進んでいく時代だと思うので、人々がまず賢くなるためには、松下村塾をやらせていただいて、「イノベーション人員」をなるべく増やしたかったというのが一番目的ですね。

――2015年から始めて、卒業生の方がいらっしゃって、実際に社会に対するインパクトとして今どんな手ごたえをもっていますか?

伊勢谷:
残念ながら、僕ら自分たちがやったことは、ソーシャルインパクトとしてどれくらいの数字になっているか出せていないし、実際、出したところで僕らまだまだ関わっている人が少ないと考えています。

「挫折禁止」な部分としては、少なくともそういう人たちがたくさん現れてくる。たぶん、それって時代の潮流だと僕は思います。そうするとイノベーターが増える仕組みとして、僕らがやり続けなくてはならないという使命なんじゃないのかなと思っています。

僕らが想像するのは、今、志のことをあそこまでやる会社はないと思います。

だけどビジネスのビルドアップということに関しては、結構やっている会社さんもたくさんあると思うので、そういう会社も会いまみえると、結構な勢いでイノベーションをつくれるような人間が今後バシバシ出てくる。教育機関にもそうした人間が入ってくると思う。

なので、そこに期待をして、僕らもできることとしてこれをやると。
実質的に社会が変わるということは大きな目的ではあるが、その一部として我々は一緒に働ける人間を松下村塾で会っていくというのは、プロセスとして今必要じゃないかと思ってやっています。

 
 


――今後、次のステップとして、具体的なビジョンはありますか?

伊勢谷:

僕はこの分野だけがとても大事というわけではないと思うので、世耕経産大臣がコネクッテッドインダストリーズとおっしゃった。僕はコネクテッドエデュケーションというのをつくりたいです。

つまり、今の公立の1つの義務化した流れじゃなくて、いろんな方向から、障がい者から多動障害から、さまざまなキャラクター持った人が、適材適所に学校と自分のキャラクターをマッチングして学んでいけるところです。

僕としては、松下村塾自体は最終的に大学まで作っていくという、1つのフォーマットを目指しています。皆さんとつながりながら、コネクテッドエデュケーションをやらないと。

せっかく生まれた命がモチベーションをもって学んで、その次に必要な技能を紹介されて進んでいける時代、そういうことが必要なんじゃないかと思っているところです。


――今の学校の教育体系とはまた別のものになる?

伊勢谷:
今のやり方だと、画一化された生徒ができちゃうと思う。だから画一化されなくても許容できる社会体制というのが、教育の分野ではかっこいいんじゃないのかなというのをぼんやり思っています。

ただ、お恥ずかしい話、今ビジョンはぼんやりとは見えるけど、実際そこまで構築するための長期プランというものは立てられていないので。


――最後にリバースプロジェクトとしての、今後のプロジェクトは?

伊勢谷:
リバースプロジェクトの初期段階では、衣食住のBtoC、我々が一般の方々に売るというかたちで、その素材を再利用していくというかたちから始まりました。でも、それをやってもBtoCだとかかわる範囲が少ない。

その流れで今、1つできたのがEレギュラーフードというのがあります。
普通の農産地から必ず5%から8%の規格外野菜が必ず出る。それが畑のわきで腐るというのが今の状況ですが、それを僕らが商品化して、大きく消費するところに卸して、それをご飯として出せば形が違っても問題ないと。

なおかつ、産直として市場を通さないでできるので、新鮮でおいしいはずです。

大体、5%くらい安く僕らは提供できます。しかも日本全国どこからでも持ってこられます。消費者からは1食につき2円をいただいて、子どもたちの貧困を助けるための事業にさせていただいています。

高知県の貧困率がかなり高いので、そちらのフードバンクさんに直接卸していて、ほかにも本田技研さんで始まりました。

僕がいまやらなければいけないのは、1つの商品が売れる状態をつくるため、営業部隊をつくらないといけない。営業マン募集ですね。

 
 
鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。