筋肉ではなく、運動神経が死滅

筋萎縮性側索硬化症(以下ALS)とは、全身の筋肉がだんだん痩せて力がなくなっていく病気です。
しかし、筋肉そのものの病気ではなく、筋肉を動かし、かつ運動をつかさどる神経=運動ニューロンが障害を受け、死んでしまうのです。
運動ニューロンは、歩いたり、物を持ち上げたり、飲み込んだりするなど、いろいろな動作をするときに、脳の命令を筋肉に伝える役目をしています。
この運動ニューロンが侵されると、脳からの「手足を動かせ」という命令が伝わらなくなります。すると力が弱くなり、筋肉が次第に痩せ、動かなくなっていくのです。

初期の兆候に2タイプ

ALSの初期症状の現れ方には2つのタイプがあります。
約4分の3の患者さんは、手足の動きに異常を感じて病院を訪れます。
最初は、箸が持ちにくい、重いものを持てない、手や足が上がらない、走りにくい等。
また、疲れやすい、手足の腫れ、筋肉のピクツキ、筋肉の痛みや、つっぱりなどの自覚症状を感じます。
これは運動障害の初期の症状で、次第に手や足の筋肉がやせ細ってきます。

残る約4分の1の患者さんは、舌、のどの筋肉の力が弱まる「球麻痺」の症状があらわれて来院します。
舌の動きが思いどおりにならず、ことばが不明瞭になり、コミュニケーションに障害が生じます。特にラリルレロ、パピプペポの発音がしにくくなります。
また、舌やのどの筋肉が弱くなるために、食べ物や唾液を飲み込みにくくなり、むせることが多くなります。

さらには、呼吸筋が次第に弱くなって、呼吸が困難になっていきます。
運動、コミュニケーション、飲み込み、呼吸の4つの障害のうち、最初にあらわれる症状は人によって異なりますが、いずれも症状が進むと共に、これら4つの症状がすべて現れるようになります。

知能や五感は正常なまま、症状が進行

ALSは常に進行性で、いったん罹患すると、症状が軽くなるということはありません。
人工呼吸器を使用しない場合での平均的な生存率は3年ほどとなりますが、人工呼吸器を使用しない場合でも10年以上生存し続ける人も存在します。患者さんによって、症状や進行の速さには、大きな違いがあります。

 
 
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一方、ALSでは知覚神経等は侵されないので、意識や五感は最後まで正常で、知能の働きも変わりません。
つまり患者さんは、知能や感覚は正常を維持したまま、進行する疾患と向き合わなければなりません。
ただ、眼球の運動に必要な筋肉は侵されにくいので、「瞬きワープロ」を使って、眼球の動きだけで意思表示し、原稿等を書き、社会に発信している患者さんもいます。

既存薬が治療に有効か

ALSについて、現時点では原因はまだ明らかになっておらず、根本的な治療法は存在しません
しかし、この“難病中の難病”は、世界中で研究が進められており、昨年から今年にかけては、日本の研究グループから、相次いで注目すべき報告がなされました。
昨年6月、東京大学の研究グループは、ALSに罹るとカルシウムイオン(Ca2+)が神経細胞に大量に流れ込み、神経細胞が死んでしまっていたことを突き止めました。
Ca2+には神経細胞を興奮させる働きがあり、異常なまでに興奮することで、神経細胞が死んでしまっていたのです。
実は、既に「神経細胞へCa2+が大量に流れ込むことを防ぐ薬」は存在しており、研究グループがこの薬をALSに罹ったマウスに与えた結果、症状の進行を止めることに成功しました。しかもALSが進行したマウスの病気の進行も抑えることができ、高い治療効果があることがわかったのです。
投与したのが、既に販売されている薬であることから、ヒトへの臨床試験も比較的早く開始できることが期待されます。

さらに新たな研究成果も!

 
 

また、今年5月、京都大iPS細胞研究所などのチームが、ALS患者の皮膚や血液からiPS細胞を作製。これを使って神経細胞を作ったところ、異常なタンパク質が蓄積し、細胞死を起こしやすくなっていることを見いだしました。
この神経細胞を使って1416種類の化合物を調べた結果、27種類で細胞死を強く抑える効果を確認。特に慢性骨髄性白血病の治療薬として使われている「ボスチニブ」が有効なことがわかりました。
研究チームは「今回発見した物質を中心に創薬が展開できる。10年以内に患者の手元に届くことを目指したい」としています。

不治の難病に一日も早く、治療法の道が開かれることが期待されています。


(執筆:Kusaba Gaku)

プライムオンライン編集部
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