2022年12月に東京・品川区で初の女性区長となった元都議会議員の森澤恭子氏。
その後都内では次々と女性の首長が誕生し、自治体の風景は大きく変わった。品川区はいまや「共働き子育てしやすい街」として全国1位になった。では、なぜ街は変わったのか?森澤区長にフジテレビ解説委員の鈴木款が聞いた。
おむつを届けて孤独な子育てをなくす
――「共働き子育てしやすい街ランキング2025」(日経BP)で、品川区は全国で総合1位に選ばれましたね。昨年の39位からの大きくジャンプアップですが、品川区の共働き子育て世代に向けた施策で、どこが評価されたと思いますか。
森澤区長)
ありがとうございます。給食や保育料の無償化のほか、孤独な子育てをなくし、社会全体で子どもと子育てを支える施策が評価されたものと考えています。
――具体的にはどのような施策に取り組んだのでしょうか。
私が区長就任後すぐに取り組んだ施策の1つが「0歳児の見守りおむつ定期便」です。
都心部だと親や知人が近くにいないことが多く、どうしても孤独な子育てになってしまいます。
月に1回おむつを含めた育児用品を支援員がご自宅に届けながら何か困っていることがないか伺い、支援が必要だと思う場合は相談機関につなぎます。支援員はできるだけ同じ人が行くことで、関係性を作り相談しやすくなるほか、様子の変化を見ることができます。
地域社会が子育てを応援していると感じてほしい
――これまで行政の支援は「プル型」「申請主義」でしたが、「おむつ定期便」は行政自らがニーズを把握に行く「プッシュ型」と言えますね。
行政は「困ったら窓口に相談してくださいね」となりがちですが、それだと「こんな小さなことは聞きづらいな」「相談するほどじゃないかな」と悩みや困りごとを自分の中に抱え込んでしまうことがあります。
「0歳児の見守りおむつ定期便」では、行政側が出向きアウトリーチしていくことで、子育てが地域社会から応援されていると感じてもらえたらと思っています。都市部だと子育てを辛く感じることがありますが、その空気感も含めて変えていきたいなと思います。
――子どもたちの学び支援についてはいかがですか。
まず不登校児童の支援に力を入れています。
1つは「別室登校」で、学校の中に保健室ではない別室を設けて、子どもたちがそこに登校する仕組みを区立の小中学校でスタートしました。これによって別室なら学校に行けるという子どもが少しづつ増えていると聞いています。
フリースクールについても、東京都からの助成金に区として上乗せすることで、多様な学びを保障することに取り組んでいます。
スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーも今年度から区が独自に学校に配置して、子どもたちの悩み相談にできるだけすぐに応えられるよう進めているところです。
「女性視点の防災」で変わる避難所の風景とは
――いま各地で地震や大雨による水害が起こっていて、今後益々防災対策が必要になります。中でも避難所の環境整備が重要ですが、品川区では「女性視点の防災」を打ち出していますね。
避難所では生理を含めた女性特有の健康課題への対応や、性被害、トイレの問題などがあるので、女性職員が災害対策にあたるのは非常に重要だと思っています。
しかし市区町村の防災・危機管理部局での女性職員の割合は全国平均が12.6%で、52.7%の市区町村で女性職員がいないそうです(※)。品川区は8年前は29人中5人で17%でしたが、今年は29人中11人と倍増しています。
(※)内閣府男女共同参画局「地方公共団体における男女共同参画の視点から の防災・復興に係る取組状況について 令和7年5月」より
――「女性視点」から具体的にどのような施策が生まれましたか?
品川区では令和4年から女性職員によるプロジェクトチームを発足しました。
特に避難所運営についての課題として、「授乳服や授乳ケープ、母乳パッドを入れた方がよいのでは」「女性向けの物資は女性から渡すようにマニュアルにいれたらどうか」「夜間にトイレに行く時のために防犯ブザーを備蓄しては」などの提案がうまれ、実際に備蓄等に反映しました。
こうしたことはやはり女性のならではの視点だと思います。
女性や子どもが喜ぶ清潔なトイレトラック
――品川区では他自治体との連携を通じて、被災地支援も行っていますね。
今年の熊本地震の際、女性職員2名が物資支援に行きましたが、実際に避難所を見て、「生理用品が入り口正面に置かれていて、女性は取りづらいのでは」と感じたそうです。
そこで「女性専用のトイレトラックの中に設置しては」というアイデアが出ました。こうしたことは男性だとどうしても気づかないところがあると思うので、女性が様々な被災現場に入っていくのは大事だなと思います。
今回熊本に派遣したトイレトラックは女性専用として運用されましたが、太陽光発電で蓄電して夜も明かりがつきますし、女性や子どもはトイレが汚かったり臭ったりすると行くことを我慢してしまうので、現地では清潔なトイレトラックがとても喜ばれたと聞いています。
――日本の避難所で問題となるのが、プライバシーの確保やベッドです。イタリアでは「TKB48(※)」が提唱され、台湾でも大地震の際、発災から数時間以内に間仕切りテントが付いた避難所が設けられたことが話題になりましたね。
(※)T=トイレ、K=キッチン、B=ベッドを発災から48時間以内に届ける
品川区も段ボールベッドやテントの備蓄を始めていますが、保管場所の兼ね合いで大量に備蓄できないという課題があります。そのため企業等と連携協定を結んで、災害時には届けてもらう想定をしています。また、在宅避難を推奨し、全区民に「携帯トイレ」を配布する取組も進めました。
高齢者の見守りに新たな仕組みを導入
――高齢者や障害者への施策についてはいかがでしょうか。
高齢者についても様々な取り組みをしています。
例えば認知症の高齢者には、見守りのためのGPS端末を無償で提供したり、救急代理通報システムも無償で活用いただけるようにしています。
高齢者の見守りは町会・自治会や民生委員が行ってくださっていますが、負担も大きいため、こうした新たな仕組みも導入し取り組んでいます。また、高齢者の認知症グループホームと障害者のグループホームを各100名ずつ増やすという公約の目標も達成見込みです。
――森澤区長は二期目を目指して次の区長選挙にも出馬表明をされましたが、今後はどうした施策を打ち出すつもりですか。
災害対策はこれからも進めていかなければならない課題ですし、物価高騰対策も、いま品川区は電気ガス代支援を行っていますが、さらに区として何ができるのか考えなければいけないと思っています。
加えて、全国的な課題でもある地域交通ですが、品川区もバスが減便していて、高齢者の方から困っているとの声を頂いています。そこで AIオンデマンドの乗り合いタクシーの実証実験を昨年から行っていますが、さらなる取組が必要だと考えています。
――ありがとうございました。
【執筆:フジテレビ解説委員 鈴木款】

