災害時に地域の避難所として指定されることが多い学校の体育館だが、7月の熊本地震では、冷房設備がない体育館で過酷な暑さを強いられた被災者も少なくない。
避難所に指定されている高知県内の小中学校において、冷房がある体育館はわずか16.4パーセントにとどまる。熊本県の20.9パーセントとともに、全国平均の33.1パーセントを大きく下回る数字だ。
なぜ、これほどまでに空調の設置が進まないのか。背景を取材した。
危険な暑さと予算の優先順位
8月21日、高知市にある昭和小学校の体育館に入ると、窓を閉め切った状態で温度計が37.2℃を示していた。立っているだけで汗が噴き出し、運動はもちろん、熱中症のリスクを考えると日常生活を送れる環境ではない。
文部科学省の調査によれば、小中学校の体育館や武道場における冷房設置率は、東京都が95.9パーセント、大阪府が61.8パーセントと大都市ほど高い傾向にある。一方で、高知県で最多の人口を抱える高知市は0パーセントだ。
この格差はどこから生まれるのか。高知市教育委員会・学校環境整備課の大黒貴司課長に尋ねると、苦しい事情が見えてきた。
大黒課長は「学校の耐震化事業を長年やってきた。現在のところ給食棟を残すのみとなってきているが、まだまだ耐震化をしないといけない建物がある。子どもたちの安全・安心を守るのがわれわれの責務なので、まずはそこを優先してやらせていただく」と説明する。
限られた予算の中で、まずは命に直結する校舎の耐震化工事や、照明のLED化、トイレの洋式化などを優先せざるを得なかったのだ。
補助金制度の「使いづらさ」と断熱化の壁
文科省は熊本地震を受け、エアコンのある普通教室を活用して被災者を受け入れるよう通知を出した。
高知市では、大黒課長が「学校は児童生徒の活動の場であるとともに避難所でもあるため、空調設備の設置は非常に重要な課題」と語る通り、理科室や家庭科室といった特別教室へのエアコン設置を進めている。
2026年度には高知特別支援学校の体育館にエアコンを整備し、実際の稼働状況や課題を検証する計画を立てている。
体育館への空調設置には国が費用の2分の1を支援する制度もある。しかし、利用するには「避難所に指定されていること」に加え、「断熱性が確保された施設であること」という要件を満たす必要がある。
文部科学省の担当者が「断熱化されていないと冷房がきかないため、トータルのコストでみると断熱化したほうがいい」と説明するように、理にかなった条件ではある。だが、現場の自治体にとってはこれが大きな壁となっている。
高知市では築40年以上が経過している体育館が6割を超える。「そこにどのような断熱性を施すのか。ここも非常に重要な検討課題になってくる」と大黒課長は頭を悩ませる。
国が具体的な断熱性能の基準を明確にしていないことも、自治体が「使いづらい」と感じる要因の一つとなっている。
また、少子化による学校の統廃合が見込まれる中、将来廃校になるかもしれない施設への巨額投資に踏み切れないという、地方特有の複雑な事情も絡み合っていると国の関係者は推測する。
「自治体の本気度」と子どもたちの未来
教育政策に詳しい日本大学の末冨芳教授は「これは避難所の問題にとどまらない」と警鐘を鳴らす。
「子どもたちの夏場の体育やスポーツの問題だ。7月から9月まで非常に危険な状態で体育だったり、部活をしていたりする。子どもたちの命を守るために投資するかどうかだ」
動き出した自治体もある。
高知市と同様に設置率が0パーセントだった愛媛県松山市(人口約49万人)は、事業費56億円を見込み、2029年度中にすべての小中学校体育館へ空調設備を導入する方針を固めた。
末冨教授はさらに踏み込み、学校を避難所として使い続けること自体を見直すべきだと指摘する。「冷房がある施設を学校以外に増やしたほうがいい。避難所として学校を使い続けると子育て世帯は流出する」と語気を強める。
「いつまで学校を平気で避難所にするような国なのか。ここまで酷暑が当たり前になっているのであれば、子どもたちが安全・安心に体育館を使えることを大事にしてほしい」
南海トラフ地震など大規模災害のリスクが高まる中、避難者と子どもたちの命をどう守っていくのか。
補助金のあり方や学校施設の役割も含め、これまでの常識にとらわれない迅速な対応が求められている。

