タイやイラクの話ではありません。日本の話です。稲田大臣の話です。もともとはPKOの部隊がいる場所で戦闘があったのか、なかったのかという議論だった。はっきり言って日本の防衛の根幹にかかわる問題ではなかったから私は無視していたが、ここに至っては無視する訳にはいかなくなりました。

というのも、陸自のデータがあったかなかったかについて、稲田さんと陸幕長の言い分が違っている。陸幕は「陸幕は稲田大臣に報告をしたんだ!」と言っている。陸幕が稲田大臣を告発しているわけです。もし陸幕の告発が通って稲田大臣が辞任するようなことになると、これは事実上の”軍事クーデター”ということになります。つまり文民統制≪シビリアンコントロール≫が効いていない由々しき事態となるわけです。安倍総理はできるだけ早く事態を収拾する必要がある。

方法としては、菅官房長官が、稲田さんと陸幕長をよんで、真実を明らかにする。白黒は別にして二人ともクビにする。稲田大臣は、このようなシビリアンコントロールを崩壊するような事態を招いた責任、陸幕は”軍事クーデター”と言われるようなことをしてしまった責任。どちらもクビにする。僕はそれしか方法がないと思います。

それは、もう陸自のデータがどうこうという話を超えていているので、官房長官が直ちに事態を収拾する必要がある。

――そもそも、何故関係がここまでこじれてしまったのですか?

平和な国日本ならではの議論で、これが戦闘なのか、戦闘でないのかを延々とやっていて、それを隠していたのではないかということになり、陸幕の誰かが匿名でマスコミに対して「これは大臣に報告したんだ」と言ってしまった。

これは他の役所ならいいんですが、自衛隊というのは”暴力装置”と言って武器を持っているでしょう。人を殺せるんですよ。戦争もできちゃうんですよ。彼らが立ち上がったら軍事クーデターができちゃうんですよ。

だからシビリアンコントロールといって、自衛隊に関しては、文民、つまり稲田大臣や官僚など武器を持たない人たちがコントロールするというルールがあるんです。警察も”暴力装置”ですよね。銃を持っていますよね。だから彼らは公安委員会というところがコントロールをしているんです。必要な暴力装置はあるべきなんですが、それを文民がコントロールするという装置は必要なんです。

今回は軍の人たちが文民はおかしいと言った。それは困るんですよ。ルールとして。それは文民同士で決めなくてはならないので、軍人が政治に口を出すことはまずい。それは戦前戦中に軍部が暴走しましたね。それと全く同じ構造なので、僕はそれはやめたほうが良いと思います。

――稲田大臣は問題発言が多いという印象を持っています。

稲田さんは相当問題があると思いますよ。身から出た錆というか、かなりミスをしていますね。しかし少し同情する点があるとすれば、皆で稲田さんをいじめている。

2つのいじめのパターンがあって、一つの勢力は左翼勢力で、稲田さんは安倍さんの秘蔵っ子で保守派のスターなので、これを早めつぶしておきたい、と。

もう一つは、自衛隊とか、防衛大臣経験者とか防衛記者会、この三者が防衛インナーサークルで防衛会を牛耳っている。彼らにしてみれば、稲田さんが面白くない。稲田さんがちゃらちゃした格好で部隊視察をしたり、弁護士の論理で軍の論理を否定したりするので嫌なんですよ。見ていると、防衛大臣経験者の政治家とか、原稿の端々や役人の言葉の端々に稲田いじめの言葉が見えてくる。勿論稲田さんも悪いんですよ。しかし、みんな稲田さんが気にくわない。稲田さんはいじめの対象になっている。

これで稲田さんは辞めると思いますよ。防衛省も自衛隊もすごく傷つきました。決して彼らにとっていいことはなかった。優しく送り出してあげればいいのに、いじめていじめて追い出す。これは防衛省にとっていいことはなかった。

――安倍総理としては稲田さんを守りたいのですか?

今日にでも切ったほうがよい。だけど切らないのは、安倍総理も意地になっていて、左翼勢力が稲田つぶしにかかっているので、それに負けたくないという気持ちがある。8月3日に内閣改造をすると言われているんですが、あと2週間だけ待って、8月3日に稲田さんを交替させたい。

たいしてかわらないという人もいるけど、世論は「稲田さんはおしまい」と思っている感じですから、このまま残しておくと、どんどん内閣支持率が下がってしまう。

――来週は集中審議ですね。

2日間の集中審議で稲田さんはボコボコにやられますね。たぶん、来週火曜くらいに辞めるんじゃないかなと思います。むしろ加計学園より、こっちの方がメインになっちゃうという気がしますね。それはもしかしたら安倍総理にとってはラッキーかもしれませんね。


(執筆: 平井文夫)

平井文夫
平井文夫

言わねばならぬことを言う。神は細部に宿る。
フジテレビ報道局上席解説委員。1959年長崎市生まれ。82年フジテレビ入社。ワシントン特派員、編集長、政治部長、専任局長、「新報道2001」キャスター等を経て現職。