蒸留酒のジン。その人気が高まるなか、福岡市に初めてジンの蒸留所を備えたバーが誕生した。地元の素材にこだわった“福岡ならでは”のジン造りを取材した。
世界中の銘柄を揃えたジン専門のバー
福岡市中央区の路地裏に2026年8月にオープンしたバー『リトルフラワー蒸留所』。訪れた人が楽しんでいるのは、ジンだ。

「お待たせしました。福岡ジンソーダです」と店の看板メニューを差し出すのは、代表の梶原礼二郎さん(38)。この店は、世界中の銘柄を揃えたジン専門のバーなのだ。
実は、このジンがつくられているのは店のなか。店内からは、ガラス越しに見ることができる蒸留機で製造されている。

その理由は、このバーの運営が、酒造メーカーだということ。

梶原さんがジンと出会ったのは3年ほど前のこと。飲食店でジンを味わい、産地によって風味が異なることに魅了されたという。

その後、福岡市中央区の『大名エリア』にジンを集めたバーをオープン。日々、ジンの魅力を伝えるなかで生まれた新たな夢が「地元の素材を使ったジン造り」だった。

梶原さんは「自由度の高さに一番ロマンを感じたというか、ジュニパーベリーという針葉樹の実さえ使っていたら、あとは何を使ってもいいというのがジンの定義なんです。地域に特化したものをジンとして発売していって、福岡の『知らなかった』を届けていければいい」と話す。

ジンは、ベースとなる酒に果実やハーブなどの『ボタニカル』を加え、香りを移して蒸留する。素材の組み合わせで味や香りは大きく変わるのだ。

八女産の『和紅茶』と二人三脚で
茶畑が広がる八女市。街の特産は八女茶だが、その八女の茶葉を発酵させて作った『和紅茶』に梶原さんは注目した。

八女産は、生産量が少なく、まだ広く知られていない。

その香りや味わいを確かめるため、創業140年の製茶会社『吉泉園』を梶原さんが訪ねたのは、開業3週間前のことだった。

一口含んだ梶原さん。「最初に来る甘みと口の中に広がる華やかさ。もともと海外向けに和紅茶ってつくられたんですけど、衰退してしまった歴史があるんですよね。クラフトジンを通してもう一回、世界を目指せないかな」と語る。

「本来は、僕らは出会うことはなかったのかもしれないが、普段、出会わない2人がマッチした時にどうなるか」と楽しそうに話すのは『吉泉園』の工場長、栗原充生さんだ。

栗原工場長は「抹茶ブームの影響で尚更、隅に追いやられているようなイメージだったんですけど、これを機に八女の和紅茶がぼーんと出て行ってくれたらいいな」と話す。和紅茶の新たな可能性に地元からも期待が寄せられている。

自ら設計に携わった特注品の蒸留機
蒸留所のオープンまで1カ月半となったこの日。内装工事が進むなか、届いたのは、酒造りの“心臓”蒸留機。

この蒸留機は、梶原さん自ら設計に携わった特注品だ。

「一般的に職人の感覚値でつくられることが多いと思うんですけど。この蒸留機は、仮に私じゃなくても、違う方が造っても同じようにジンがつくれる」と話す梶原さん。

国内初という電子制御盤を備え、温度や圧力などを自動で調整する。温度や圧力を細かく管理し、安定した品質に繋げる狙いだ。

蒸留機の組み立てが終わると、早速、酒造りが始まった。

使うのは、和紅茶やアオサのほか糸島発祥の柑橘類『はるか』など地元産の5種類。素材ごとに蒸留したあと、それぞれをオリジナルの配合でブレンドする。

この日は初めて和紅茶を蒸留した。それを口に含んだ梶原さん。「うまい!おいしい、おいしいです」と満面の笑顔が零れた。

“オリジナルジン造り”も計画中
そして迎えた、オープン当日。店内には「乾杯!」の声が響いた。
「香りがガンと来る感じじゃなくて、ほんわり乗せてくれる感じでおいしい」(20代・女性)。

「味が、口の中でパッパッて、時と共に変わる感じがして吃驚しました」(40代・女性)。

今回のジンは、直営のバーだけでなく市内の飲食店などにも卸すという。これから福岡の街で見かける機会があるかもしれない。

今後は、それぞれの香りのジンを好きな配合でブレンドする“オリジナルジン造り”も計画中で、梶原さんは、放生会の時期にはショウガ、春にはサクラの花弁などを使いユニークなジンを生み出していきたいと抱負を語る。

地元の素材を生かし地元ならではの味わいを生み出す一杯のジン。福岡の新たな魅力を発信する取り組みが始まった。
(テレビ西日本)

